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異世界防衛戦線  作者: 暇人
終章・向き合う為の現実
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十二節・崩れたプライド

挿絵(By みてみん)

「はぁ…はぁ…はぁ…」

如月は明け暮れていた。度重なる強敵の遭遇、そして恋人の離反。異世界で無双するはずだった夢は、如月の中では無残にも砕け散った。

今日はゴルダラでも珍しい、大豪雨の日だった。こんな雨の中、誰一人として外出しているものすらいないこの城下町でたった一人、雨に濡れ続けていた。

「俺が、最強なんだ。誰も、俺の力をまだ知らないだけなんだよ…」

そんな時、雨に濡れ続けていた如月を心配してか、宿屋の娘が如月に駆け寄る。

「大丈夫?そんなに濡れていたら、風邪ひいてしまうよ?あ、そうだ!さっき一部屋空いたから、今日はタダでいいから泊まっていきなよ!」

だが如月は、そんな好意すら振りほどいてしまう。

「うるさい!そう言ってまたお前たちは俺を蔑むんだろ!!俺なんてこの世には必要ない存在なんだろ?」

「あなた、一体何を言っているの?そんなこと誰が言ったの?とりあえず落ち着いてよ」

だが、そんな言葉すら今の如月には届かない。

「如月…一体どうしたって言うの…ルナス様が出て行ってからずっとああだったのかしら…」

自らの理想から遠く離れてしまったこの異世界、ユートピアであったものが気がつけばディストピアへと形を変えていたことに、如月は焦りを隠せなかった。

雨に濡れ、如月は城へと帰還する。如月は新たなる作戦を思いついたようだ。

ドラゴンスレイ隊の隊長が如月に駆け寄る、雨に濡れた如月を心配したようだ。

「どうした如月、そんなんじゃ風邪をひいてしまうぞ。」

「そんなことはどうだっていいんです…今は、あの裏切り者どもを…」

「…やはりか、ジョンであろうとお前の敵ってことには変わりはないんだな」

「はい、奴等全てを根絶やしにしなければ…俺を侮辱した罪は重い事を、奴等に思い知ってもらわなければ俺の気が済まない。」

「手始めにブロンダを潰します。今すぐに挙兵の準備をお願いします」

「国王の許可が取れなければしばらくは動くことはできない。それでも構わないか?」

「構いません。許可が取れれば即刻向かわせてください、その間までに僕の計画を進めなくては…」

「…計画とは何だ」

「兵力を増強します。俺の魔法を利用して残った兵士に魔法を教え、更に、戦闘機の追加生産を行います。そうでもしなければツジゲンにはかなわないと思います」

「ほう、相当私怨が強いようだな如月。お前がそんな奴だったとは思いもしなかったぞ」

「まあ何でもいいがな。お前の好きにするといい」

そう言い残し、隊長は玉座の間へと向かって行った。

ドラゴンスレイ隊の隊長、アスタ・ラングス。彼はゴルダラ最強の戦士として如月が来る前よりソルアス国王に仕えていた、突如として現れた魔法をも使いこなす謎の男をすんなりと受け入れたのも彼だ。だが、如月によって日々骨抜きにされて行くソルアス国王に対して、思うことは何もないのだろうかーーーー

そんな隊長の背中を見送ったのち、如月は兵士達を一斉に集め、鍛錬を開始する。

「おめでとう、君たちは選ばれた。」

「その証に、俺からプレゼントをあげよう。

ソルマジカル・ティーーチ!!!」

すると、如月に与えられた魔力が強すぎたのか、兵士達の風貌は今までと違い、ロボットのような規則の正しいものに変化していた。

「如月様、我々は何をすれば」

「手始めに軽い魔法を放ってみよ。」

すると、兵士達は一斉にブレイザーを放つ。ソルマジカル・ティーチは成功したようだ。

「実験は成功だな、よし、君たちは鍛錬を続けてもらおう。」

如月は矢継ぎ早に次の場所へと向かう。それは、兵器工場だった。

「如月さん、こんにちは。今日もなかなかの雨ですね」

「ああ、そうですね。それより一刻も早くに戦闘機の量産を急いでください」

「えっ…もう我々は戦争に勝利したはずじゃ…」

「いえ、まだです。我々はツジゲンとの戦争に勝ちはしました。ですが、ツジゲンという国はまだ残っています。その国を木っ端微塵にしなければ…我々の完全なる勝利とは言えないでしょう」

「は、はぁ…それはそうですが…」

「わかりました、まず工場の者に取り次いでみます。100機くらいでどうでしょう?」

「500だ。」

「え!?ご、500!?わ、わかりました」

工場にどよめきが走る。あんなに作るのが難しいものを500も作るなんて、いくら時間があっても足りない。そう、思えた技師が大半だったのだろう。

そして如月も、兵舎に戻る途中、隊長が戻ってきていた。

「如月、お前の計画の許可が下りた。たった今、ブロンダへ進軍したところだ」

「よし、これで少しは時間稼ぎになるでしょう。」

「なぁ如月、お前の本当の目的は何だ?」

「簡単ですよ、単なる裏切り者の始末です。」

やがて雨が止み、空には晴れ間が見える。如月に有った尊大な自尊心の姿はもう存在しない。ただ残っていたのは、自らのシナリオから外れた者たちへの、復讐心のみだった。

「ジョン…スカス…ルナス…マジク…アルリ…」

「どいつもこいつも、俺の邪魔立てをしやがって!!!」

俺のチート感が薄れてしまうだろと言わんばかりの苛立ちが如月に走る。

元はと言えば、如月は田中浩と呼ばれる52歳のおっさんだ。だというのに働きもしないで毎日部屋に引きこもり、果てには孤独死…そして転生した。楽して生きていける世の中を探していこうとたどり着いた答えがこれだけだった。彼に残されていたのは、よもやこれだけ。

楽して生きて行ける世の中なんてない、そんな真実にうっすらとだが気付いていたのかもしれない。だが、そんな世界は現実と変わらない。生き地獄と似たようなものだ、そう、如月には思えて仕方がなかった。

そんな中、隊長の元に一つの連絡が来た。

「どうした、そんなにボロボロになって」

「我々の軍が…ブロンダに突破されました!」

「ふむ…やはりか。よし、第二陣を組み直す。ブロンダの進軍を何としても阻止しろ!!」

「如月!聞こえているだろう!出陣だ!!」

薄暗い部屋から大きな音で観音開きの扉を開ける。

「はい!何としてでも、裏切り者を処分しなければ!」

そして、城門の前では隊列がずらりと組まれていた。

進軍の時だ。ブロンダとツジゲンへの復讐の時が始まる。そういった思いに満ちた瞳に、如月がギラつく。

だが、そんな気持ちをよそに、兵士たちはこの作戦に疑問を感じている。

「ここまでブロンダ制圧に本気を出してどうするんだ?

「さあ、なんか意味があるんじゃねぇの?よくわかんねぇけどさ」

「ひょっとして抜け出したジョンとルナス様二人をボコるためだけだったりして」

「そんなわけねえだろ、あの国王からの指示も出てるんだぜ?そんな理由で兵士なんて軽々出せねぇだろ」

「そうだよなぁ…」

そんなどよめきに包まれた中、隊長から出陣の命令が下る。

「全員、方角はブロンダだ!!一直線に進軍せよ!!!!!」

「うおーーーー!!!」

兵士たちが馬を駆って出陣していく、兵の中には戦闘機は存在しない。なぜならこの戦いは、いわば挨拶がわりだからだ…

如月の暴走は、火蓋を切って落とされる。本当の最終決戦は、ここから始まる。

スカスは魔法を鍛え、ジョンは最強の剣を手に入れて、如月は復讐と野望に燃えた。田中が作り出した小さな異世界で今、最大級の血戦が始まる。

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