十一節・失われしブロンダの地
スカスが修行をしているころ、ゴルダラ王国ではルナスとジョンがブロンダを目指して旅をしていた。
「久々にシルバリーに来たけど、結構デカイなこの地方。」
「ええ、鉄鋼業が盛んで鉱脈がいっぱいあるんですから。当然でしょ」
シルバリーは、ゴルダラ城の鍛治職人のアメジの出身地で、ゴルダラを中心に囲うようにサークル状の土地が形成されている。
その為、先の戦争での被害はシルバリーでの損害が一番大きかったのである。だが、幸いジョンたちが向かっている方向とは全くもって反対側のため、被害は全く出ていない。
だがやはり、ルナス・ゴルダラがいると聞けば、高貴な香りにつられて怪しい奴らも集まってくる。
「お前がルナスか!グッヘッヘ…お前の首を国王に捧げればいくらの金が貰えるか楽しみだぜ!」
「おい、大の男が女相手に斬りかかるとは情けねぇなぁ!」
「な、なんだてめぇ!」
「俺はルナス元王女の護衛を任ぜられた!ジョン・ブレイダだ!俺に剣の技術で挑み掛かるとは100年早いぜ!!」
「この野郎!」
ごろつきがジョンに斬りかかる。あまりにも遅い動きだったので、ジョンは先手を取ってごろつきに一太刀浴びせる。
「ぐわぁっ!!」
「へへっ、初動が遅すぎるぜ!ゴロツキのおっさん!」
「お、覚えときやがれ!俺が倒せなくても、お前らなんか、如月がぶっ殺してやるからな!!」
尻尾を巻くようにごろつきは逃げていく。シルバリーに入る前からもう既に、何人かのごろつきが襲いかかっては来ている。幸い、ゴルダラの兵士はこちらまでは追ってきてはいないようだ。
「ここでも如月…あんな奴の名前、二度と聞かないと思っていたのに…」
ルナスが愚痴をこぼす。無理もない、ずっと信じていた男に暴力を振るわれ、果てには出て行けと言われる始末。私はただ、努力しろ。って言っただけなのに…
そんな男の影響力が、この国の全体に広がりつつあるという事実が最も恐ろしい事実であろう。
「国王に抗う、ってことはそういうことだぜ。国王はもう既に如月のマリオネットだ。あいつの言うことならなんだってするさ。恐らくな」
「そんなこと…許せるわけないでしょ」
「ああ、だったら歩みを止めんなよ?ブロンダまであとちょっとだ」
しばらくすると、ブロンダの関所につく。だがやはり、関所には物々しい雰囲気が漂っていた。通常ならば、関所なんて7、8人で成り立つと言うのに、今日は20人近くの兵士で取り囲まれていた。
「やっぱりな、これじゃあ正面突破なんで夢のまた夢だなこりゃ。」
「どうする?ルナス様。なんかいい案があるか?」
「いえ、私には全く何も…」
「そうだなぁ……あっ!アレがあったか!!」
ジョンは突如として案が思いつく。その案は、ブロンダに通じている抜け道を利用すると言う作戦だ。子供の頃に使ったことがあるらしい。
兵士の目をそーっと潜り抜ける。流石に元騎士団だったので、兵士の視点の動きとかは殆ど把握している。
そしてかなり奥まった場所に、その抜け道はあった。
「よし!この洞窟を通っていくぞ!」
「はぁ…私のドレスがもうめちゃくちゃよ…」
「え…その地味な服って、ドレスだったのかよ…」
「いつものは式典用よ、あんな派手な服、毎日着てたら堅苦しくて仕方がない。」
洞窟を抜けていくと、ブロンダの街は広がって…はいないようだ、あたり一面のジャングルの真っ只中だった
「俺らの街は辺鄙など田舎だからな、一年中ドラゴンが湧いて湧いて仕方がねぇんだ。」
「なるほど。だからブロンダの人たちは強いのね?」
「知らなかったのかよ…どんだけ国のことに興味ないんだよ」
「だって…お父さんに全部任していたのよ。国のことなんて全然」
「ありゃりゃ、なんとなくそんな気はしていたけどそんなレベルだとはなぁ。」
そして、森林とドラゴンを掻き分けて、ブロンダの街へとたどり着いた。
「おいおい、なんだこりゃあ…」
まず口を開けたのはジョンだった。驚くのは無理はない、自分の村がゴルダラ王国兵といがみ合っている状況を目の当たりにしてしまえば誰だってそう思う。
「…一体なぜこんな、酷い。」
「俺が聞いてくる、ここは危険だ。ルナス様は茂みに隠れていてくれ」
ゴルダラ兵を掻き分けて、ブロンダの陣営の方へ向かう。やはり、ブロンダの兵の方が何枚も上手だったようで、ゴルダラ兵を圧倒しているようだ。
「長老、一体、この惨状は?」
「おお、ジョンか。ルナス様も連れてきているんだろう?まあ、この惨状じゃあ連れても来れんじゃろ。じきに終わるからそれからでも構わんよ。」
「ジョン、お前何も聞いてなかったのか?お前のせいで、ブロンダが国家反逆指定を食らっちまってな。それで、このザマだよ。」
「本当にすまない、どう謝ればいいかも俺じゃわからない、でも、俺にはこれしかこの国を変える方法は…」
「フッ…よくやってくれたよ、お前のおかげで反旗を翻すきっかけができた。今こそ、ブロンダ国の再建の時だ!!」
「まさに利害の一致じゃよ、ありがとよジョン。お前こそ、わしたちの誇りだ」
「じゃあ、俺が戦線に加わってきます!」
「その必要はねぇぞジョン、じき終わるって言っただろ?」
すると、敵陣営からの白旗が上がる。ブロンダの勝利でこの戦は終わったようだ。
茂みの中から、ルナスが出てくる。
「おお、ルナス王女。これはこれは」
「この惨状は…一体なんですの?」
「じつは、かくかくしかじかでな。」
ルナスへ状況を一通り伝えると、ルナスはやはり、と言いたいかのような目つきをする。
「…やはり、本気で我々を潰しにかかっているのですね。如月とお父様は」
「大丈夫じゃ。我々がいれば、奴らなど一網打尽じゃよ」
「いや、人間の力だけでは奴らには敵わない戦況がこれから増加していくのは間違いないでしょう。貴方方は奴らが鉄の龍、戦闘機を保有しているんです。」
「そいつら相手となると、俺たちだけでもかなり危険な戦争になる。」
「何か策はあるのか?ジョン」
「スカスと合流します。」
「スカス!?あいつは確か、そんなに強くないはず…」
「ああ、強くない。この街にいた時は」
「だがあいつは鍛冶屋を経て強くなった。そして今は、ツジゲン帝国で修行をしている。」
「ツジゲン…あの独裁国家はやばいんじゃないのか」
「多分そこも大丈夫だ、独裁国家は表面上だけの国だと俺は思う」
「根拠があるのか?そこまでお前が言うってことは」
「前に会った時アルリ帝王は、俺たちのことまで気がついている。心までバレバレってことだよ、参ったなあハハハ」
「…そうか、少し気味が悪いが、また利害の一致か。まあいいだろう、頼らない手はない。」
「それにジョン、お前さんは持って行って欲しいものがある。こっちについてきなさい」
「ちょ、長老?まさか、我々にそんなものが…」
陣地の奥へ進むと、隠されていた洞窟が姿を現わす。
「ひょっとしてこれは…」
「ああ、魔法じゃよ。このブロンダにおいて長年隠されていた最強の力」
一歩ずつ歩みを進めると、壁一面に見たこともないような記号にまみれた空間が広がっていた。これがおそらくブロンダ国が長年隠していた逆転の切り札なのだろうか。
「これじゃ、邪悪なるものを斬りはらう剣。その名も
《魔斬剣 マジク・ソーディア》!!」
「さあ、引き抜くがよい!ジョン・ブレイダ!!」
「はい!!!」
剣の柄を持つと、ブロンダの失われた歴史が頭に入っていくようだ。侵略されたものの悲しみ、築いてきたもの全てが奪われてしまった憎しみ、それら全てが俺の中に注がれていく感覚がする。
「こ…これが、ブロンダの最強の力…」
「ああ、それを振るい、真なる正義がどちらのものか、奴らに思い知らせてやるんじゃ」
魔斬剣マジク・ソーディア、それは対ツジゲン帝国を想定して造られた剣で、切り裂かれた物の魔力を完全に奪い去り、魔法を使えなくする力を持っている。
もしこの剣を如月に当てたら、魔力を完全に奪い、五分五分の状況に持ち込むことが出来る。
洞窟から出ると、装備を整えたブロンダの兵が待ち構えていた。
「さあ、行きましょうジョン!」
「ああ、今こそ、本当の世界を取り戻す時!!」
最強の剣を手に入れ、ブロンダの兵を無事、かき集めることに成功したジョンとルナス。あとは、スカスと合流するのみ。
だが、そんな一行の行く手に、精神の崩れてしまった奴が現れようとしていた。




