十節・修行
そして、国へと戻ってきたアルリ皇帝は早速、魔術修行に取り掛かる。
「おお、まさかもう始めて居たとはな。やるじゃないかスペクよ」
「こいつ、魔術のマの字も無いくらい魔法が使えないんですよ?少しくらい教えてやらなきゃこいつは伸びないと思いまして。」
「さすがはアルケミスの娘だ、勘が鋭いな。」
…遠まわしに僕が馬鹿にされているような気がするが、実際、僕に魔術の技能が一切ないのは事実だ。
試しに如月のよく使っていたブレイザーという呪文を覚えようとしたが、全くもって放つことすら叶わなかった。はぁ…長い道のりになりそうだ。
「どれどれ、スペクよ。少しは手伝ってやろう」
「…炎のイメージというものが、あんまり掴めなくて…ずっと苦労しているんですよ。」
「ほう、イメージか。ならば現物を見せてやるのが一番手っ取り早いだろう。」
「はぁっ!!」
「ぐわぁ!?」
すると、スカスの目の前にはマグマのような炎の塊が散らばっていた。まるで自分まで燃えてきそうだ、今まで鋳鉄しかいじったことないから、ここまで実体的な炎を間近で感じたことはない。
目を覚ますと、スペクさんとアルリ皇帝がいた。
「い、いきなり何するんですか!?」
「魔術に目覚める、きっかけを与えたんだよ。さあ、ブレイザーを唱えてみよ。」
「わ、わかりました!ブレイザー!!」
すると、スカスの手のひらから炎が浮かび上がる。
「おお!できました!!」
「よし、その調子だ。次は水のイメージと行こう」
皇帝の発言に驚き、すかさず質問するスペク。
「そこまで丁寧にやっていると、時間がかかってしまうのでは?」
「相手は魔術初心者だ。丁重に鍛えなければ、次のステップへは進めないだろう」
そうしてその後、水の呪文、草の呪文、闇の呪文、光の呪文と次々と基本的な能力を強めていった。
「さて、と。次こそは更に本格的な試練を受けてもらわんとな。今日はよく休め、スカスよ。」
無理をして立っていたスカスは、安堵感から来た疲れでどっ、とその場で膝をつく。
「魔術の修行って…キツいな。」
「無理はない。今まで武術の鍛錬をし続けていた者が、いきなり真逆の魔術の鍛錬を始めるんだ。私だって一日で武術の達人になれるものだったらなりたいものだ」
「本当ですかスペクさん、じゃあ僕が教えられる範囲は教えてもいいのですが…」
「いや、それはまたいずれな。今日はよく休むがよい」
「は、はい…」
帝王から用意されたベッドで、スカスは眠りにつく。今日は、昨日の悪夢から打って変わって、運動音痴なスペクさんに武術を教える微笑ましい夢を見た。ものすごく恥ずかしそうな顔で息をあげながら「ええい、見るんじゃない!」とか「はぁ…はぁ…何故こんな人間業じゃない動きができるのだ…」とか愚痴を漏らしていた珍しい姿のスペクさんの姿を見た。相当スペクさんの罵倒の言葉が響いたのだろう、仕返しに武術を教えてやろう、とスカスにしては強気な思いが滲み出たのだろうか。
そして、次の日に待ち受けていた修行は、とてつもなく厳しく苦しい修行であった。
「おはよう、スカス君。よく眠れたかね?」
「はい、昨日よりは。」
「確かにな。あの部屋は下手な牢獄より苛酷な臭いのする場所だ」
「さて、今日の修行は、こいつと一人で戦ってもらう。出でよ、鋼龍ダイタロス!!」
すると、大きなコロッセオのような闘技場に敷かれた巨大な魔法陣から、鋼龍を再現した使い魔が出現した。
「ダイタロスは、マジク・アルケミス本人が技術の全てを尽くして作られた、最強のドラゴンだ。マジクを超えるということは、こいつを超えるということだ」
「あの時は、仲間の支えがあったから辛うじて勝てたけど…こいつと一人で戦えってのは流石に無茶だ」
と愚痴をこぼすも、そんな隙も与えずにダイダロスはスカスに容赦なく攻撃を浴びせる。
「グルルルッ!ハァーー!!!」
「ぐっ、ぎゃあっ!!」
ダイタロスの猛攻に、スカスは成すすべもなく崩されていく。
スカスはもう既に瀕死状態で、もう手足もまるで言うことの聞かない状態にすら陥っていた。
「うっ…もう…ダメみたいだ…」
バタッと、ほんのわずかな気力で保っていた脚が崩れて行く。
「やはり…マジクの最高傑作相手では、かなりの技量を持つものでも難しいか。」
アルリは落胆したのか、ため息混じりに声を発する。
倒れ込んで、瞳を閉じたスカスは、真っ暗な何もない場所にいた。
「…あの薄暗い部屋とは…違うよなぁ。」
と独り言をこぼすも、この空間では何も響くこともなく、虚空の狭間へと消えて行く。
しばらくすると、自分の体温がみるみるうちに落ちて行くのに気付く。
「僕はこのまま死んで行くのか…」と、寒さで震えた声で喋る。
僕は負けたんだ。帝王の与える試練に敗れた、そして死んだ。このままでは、世界が奴の思いのままだけになってしまう…
《おい…何くたびれた顔してやがる!この馬鹿弟子が》
「ん…この期に及んで幻聴まで聞こえて来た…まさかアメジさんでもいるわけじゃあるまいし…」
と、半ば諦観じみたことを呟く。すると呟きに呼応するようにアメジが応える
《幻聴?寝ぼけてんじゃねぇぞ!!ここはあの世だ!お前は今死にかけてるんだよ!》
「え?アメジさん!?」
「ああ、テメェを叩き起こしに来てやったんだぞ?」
そうだ、僕はあの時、アメジさんの死を乗り越えた筈だ。だったら、こんなところで立ち止まってなんていられない。こんな中途半端なところで死ぬ訳にはいかない
「こっちについてこい。お前のいるべきところはこっちだぞ!」
「はい!!!」
アメジさんの行く方向へ魂を震わせ、スカスはついて行く。
すると、真っ暗闇な辺りに光が差し込む。僕のいるべきところはあと少しだ。だが、やはりと言うべきか、アメジさんは足を止める。
「ここいらで、お別れだな。テメェ!またここに来やがったら、承知しねぇからな!?」
その一言に、スカスはなぜだか自然と涙が零れる。何気ない一言のはずなのに、二度と会えないと思っていた師匠に再び会えた喜びを、こんなにもすぐ別れなければならないという悲しみが、同時にやって来たのだろう。
「はい!アメジさん!僕、戦います!!」
光の中へ、スカスは消えて行く。元の世界への入り口はすぐそこだ。
一方その頃、現実ではスカスの意識を確認するように
救護班が駆り出されていた。
「やはり、功を焦りすぎたか。スカスでは駄目だったかもしれんな…」
瞬間、倒れ込んでいたスカスが立ち上がる。
「ほう、諦めるのはまだ早いと言うことか。ならば再開しよう!!出でよ、鋼龍ダイタロス!!!」
不慮の事故で消去したダイタロスを再び召喚される、
「ああ、こんなところで倒れてなんていられないですね!!アメジさん!」
ダイタロスはすかさずソルファイゲンを放つ。満身創痍のはずのスカスは一瞬にして攻撃をかわしていく
《すごい…ダイタロスの攻撃が手に取るように分かる!!》
そして、スカスは昨日覚えたばかりの魔法を駆使していく。
「ブレイザー!!、さらにここに、回転斬り!!!」
炎の呪文とスカスの身体技能が合わさった一撃が放たれる。この攻撃にはダイタロスの鎧も砕け散っていく
「グォオオォアアーーッッ!!」
ダイタロスは悲痛の叫びを上げる。スカスのブレイザー回転斬りがかなり効いたのだろう
「ほう…あの硬い鎧を叩き割るとは、流石、私の見込んだ通りだ。」
だが、ダイタロスは即座に鎧を再生していく。そうなる前に、スカスも反撃を仕掛ける。
「くっ、…撃てるか判らないけど一か八かだ!!ソルファイゲン!!!」
「撃ってみよ、今のお前なら間違いなくソルファイゲンを放つことが出来る」
すると、ダイタロスに目掛けて巨大な真空波が放たれる。ソルファイゲンを放つことに成功したのだ
「や…やった!ソルファイゲンを撃てた!!」
ダイタロスは、今の連撃が効いたのか、再生呪文を放たなくなっていた。
「よし、今だ!ありったけの攻撃をあいつにぶつけてやる!」
「うおおおおおおお!!!」
ダイタロスの肉片が、みるみる内に広がっていく。そして、50撃目…
「うおりゃぁ!!」
「グォオオォ…」
ダイタロスは、そのまま倒れていく。
「よし、勝負あったな。ダイタロス、消えるがいい」
霊態となって、ダイタロスが消えていく。
「や…やった…やっと終わった。」
スカスは、疲れのあまりその場で倒れてしまった。
倒れたスカスに、帝王とスペクが駆け寄る。
「こいつ、本当にダイタロスを倒すとはな。」
「しかもソルファイゲンまで使うとは、こいつ…思っていたより才能があるようだな。」
スカスの修行の日々は続く、来たるべき争いの為に。
やっぱダイタロスを1人で倒させるのはきついよ…




