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『世界樹の少女と、終わりの魂』  作者: 雨宮ぐみ


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第三話 森に隠されたもの



前書き


この物語は、目には見えないものに耳を澄ませながら、自分自身の運命と向き合っていく少女・楓夏の物語です。


森の声。


魂の記憶。


ご先祖様から受け継がれる想い。


そして、まだ誰にも決められていない未来。


私たちは、日々の中で「どうしてこんなことが起きるのだろう」「なぜこの人と出会ったのだろう」と、不思議に思うことがあります。


もしかすると、その出来事には、目には見えない意味があるのかもしれません。


楓夏もまた、森から聞こえる不思議な声をきっかけに、さまざまな魂や未来と出会い、自分が何者なのかを知っていきます。


けれど、この物語で描きたいのは、特別な力を持つ少女の冒険だけではありません。


大切な人を想う気持ち。


失った人への愛。


自分では変えられない過去。


そして、これから先をどう生きるのかという「選択」。


どんなに過去を変えたいと思っても、起きてしまった出来事を消すことはできません。


それでも、その経験を抱えたまま、未来へ進むことはできます。


誰かに決められた運命ではなく、自分自身で選んだ道を歩いていく。


その先に、どんな未来が待っているのか――。


楓夏と一緒に、森の声に耳を澄ませながら、この物語の世界を旅していただけたら嬉しく思います。


あなたの心にも、いつか小さな「声」が届きますように。


そして、その声があなた自身の未来を選ぶための、優しい道しるべになりますように。

第三話 森に隠されたもの


 その日の午後。


 牧場には、いつもと違う緊張した空気が流れていました。


 助け出されたモモは、母牛のそばで静かに草を食べています。


「もう大丈夫だな」


 お父さんが、モモの背中を優しくなでました。


 けれど、楓夏の頭からは、森で聞いた言葉が離れません。


『あの人は、森の中に何かを隠した』


 いったい何を?


 そして、なぜモモを森へ連れていったのでしょう。


 楓夏は牧場の窓から森を見つめました。


 森は何も知らないように、静かに揺れています。


「しらかばさん」


 楓夏が窓を少し開けました。


「森の中に何があるの?」


 遠くの白樺の木が、風に枝を揺らしました。


『まだ、言えない』


「どうして?」


『見つけたら、ふうかが危ない』


 楓夏は黙りました。


 木がこんなふうに言うのは初めてです。


 その夜。


 牧場の家では、おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さんが居間に集まっていました。


「明日、警察に相談しよう」


 お父さんが言いました。


「子牛を連れていっただけならともかく、知らない人間が森に入っているのは気になる」


「そうね」


 お母さんも心配そうにうなずきました。


 楓夏は、少し離れたところで聞いていました。


 そのときです。


 窓の外から、


 コン。


 と、小さな声がしました。


「コンちゃん?」


 楓夏がカーテンを開けると、庭にキタキツネが立っていました。


 キツネは森のほうを振り返ります。


『ふうか』


「うん」


『今夜、森が泣いてる』


 楓夏は窓を閉めると、お母さんのところへ戻りました。


「お母さん」


「なあに?」


「明日、森に行ってもいい?」


「だめよ」


 すぐに返事が返ってきました。


「今日はもう暗いし、森は危ないから」


「……うん」


 楓夏は素直にうなずきました。


 けれど、その夜。


 なかなか眠れませんでした。


 窓の外では、風が木々を揺らしています。


 サワ……。


 サワ……。


 やがて、その中に別の声が混じりました。


『ふうか……』


 楓夏は目を開きました。


「誰?」


『川が教えてくれた』


『森の奥に、黒い箱』


 楓夏は布団から起き上がりました。


「黒い箱?」


『金属の箱』


 楓夏は窓の外を見ました。


 月明かりの下、森は黒く見えます。


 そして、森の中から――。


 カーン。


 また金属音がしました。


 楓夏は布団をぎゅっと握りました。


 怖い。


 でも、森が困っている。


「……明日、行こう」


 楓夏は小さな声で言いました。


 翌朝。


 楓夏はお父さんと一緒に森へ向かいました。


 昨日の場所まで来ると、キタキツネが待っていました。


「コンちゃん、黒い箱はどこ?」


 キツネは歩き出しました。


 楓夏とお父さんは、その後を追います。


 しばらくすると、キツネは大きなトドマツの前で止まりました。


『ここ』


 楓夏は地面を見ました。


 落ち葉の下に、何かが見えています。


 お父さんが枝をどかしました。


「これは……」


 土の中から出てきたのは、古い金属製の箱でした。


 鍵がかかっています。


「楓夏、これは触らないほうがいい」


「うん」


 お父さんはスマートフォンで箱の写真を撮りました。


 そのとき。


 箱の横に、小さな紙切れが落ちているのを見つけました。


「何だ、これ?」


 お父さんが拾います。


 紙には、数字がいくつか書かれていました。


 楓夏には意味が分かりません。


 けれど、木が小さくざわめきました。


『それは、森の地図』


「森の地図?」


 楓夏は驚きました。


 すると突然。


 バサバサバサッ!


 頭上からオジロワシが飛び立ちました。


 そして森の奥へ向かって飛んでいきます。


『ふうか!』


 オジロワシの声が響きました。


『来る!』


 楓夏が振り返ります。


 遠くから、


 ザッ……。


 ザッ……。


 雪を踏む音。


 誰かがこちらへ歩いてきます。


 お父さんも気づきました。


「楓夏、俺の後ろに隠れて」


 森の木々が大きく揺れています。


 そして、木の間から一人の男が姿を現しました。


 赤い帽子。


 赤い車。


 昨日見たものと同じです。


 男は、金属の箱を見ると立ち止まりました。


「……それを、どうして見つけた?」


 低い声でした。


 楓夏はお父さんの服をぎゅっと握ります。


 男の足元には、昨日と同じ靴跡。


 けれど――。


 男が一歩近づいた瞬間、森の木々が一斉に叫びました。


『ふうか!』


『逃げて!』


 楓夏は、男の後ろにある森を見ました。


 そこには一本の古い木が立っています。


 その木だけが、何かを伝えようとしていました。


『箱の中にあるのは――』


 楓夏は息をのみました。


『人間が、森に隠してはいけないもの』


 男が一歩、近づきました。


「その箱を渡してもらおう」


 楓夏は、お父さんの手を強く握りました。


 そして初めて――。


 自然の声だけではなく、人間の世界にも大きな秘密が隠されていることを知ったのです。



後書き

『世界樹の少女と、終わりの魂』を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。


全100話。


長い旅となった楓夏の物語も、ここで一つの区切りを迎えました。


最初は、森から聞こえる不思議な声に戸惑っていた少女が、たくさんの人や魂、そしてさまざまな未来と出会いながら、自分自身の運命と向き合っていきました。


物語の中では、失われた未来や、選ばれなかった未来も登場しました。


けれど、どの未来も決して無意味なものではありません。


私たちの人生にも、「あのとき別の道を選んでいたら」と思う瞬間があるかもしれません。


過去に戻ってやり直すことはできなくても、その経験をこれからの人生にどう生かすかは、自分で選ぶことができます。


楓夏が最後にたどり着いた、


「未来は誰かに決めてもらうものではない」


という答えは、この物語を通して伝えたかった大切なテーマでもあります。


そして、目には見えない魂や森の声を描きながら、もう一つ大切にしたかったのは、「つながり」というものです。


大切な人との思い出。


亡くなった人から受け取った愛。


家族の絆。


言葉にできなかった想い。


それらは、姿が見えなくなっても、心の中から簡単に消えるものではありません。


もしかすると、ふとした瞬間に感じる懐かしさや、夢の中で出会う大切な人の姿も、心の奥に残った記憶や想いが、私たちに何かを伝えているのかもしれません。


楓夏は、森の声を聞くことで、たくさんの魂と出会いました。


そして最後には、自分自身の声にも耳を澄ませることができるようになりました。


物語は終わりました。


けれど、楓夏たちの未来は、ここからも続いていきます。


悠真がどんな人生を歩むのか。


結花がどんな大人になるのか。


凪人と楓夏がどんな日々を重ねていくのか。


それは、誰にも決められていません。


だからこそ、未来には無限の可能性があります。


この物語を読んでくださったあなたの未来も同じです。


もし今、迷っていることがあるなら、焦らなくても大丈夫です。


立ち止まってもいい。


遠回りしてもいい。


時には、最初から選び直してもいい。


あなたがあなたらしく歩いていく限り、その一歩一歩が、あなただけの未来になっていきます。


最後まで楓夏たちと一緒に旅をしてくださった皆さまへ。


心からの感謝を込めて。


そして、いつかどこかの森で風が木々を揺らしたとき――。


ほんの少しだけ耳を澄ませてみてください。


もしかしたら、楓夏の声が聞こえるかもしれません。


「大丈夫。


未来は、これから自分で選んでいけるよ」


ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。


全100話――完結。

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