Bランク冒険者、目を付けられる 2
途中で馬車にも乗り、俺たちはまだ日が明るいうちにフルネードの街に着く。それからその足ですぐ冒険者ギルドへと向かった。依頼の詳細をさっさと聞いておけば、対策するなり、のんびりするなりしやすい。
少し前のほうでは、リルケとガオスが歩きながらなんだか女子っぽい話で盛り上がっている。やっぱり意外だ。
ギルドの中は多くの冒険者でにぎわっていた。依頼目当てだけじゃなく、設けられた飲食スペースで休んだり、情報交換やパーティ勧誘をしているやつらもいる。さすが、とりあえずあるってだけの田舎町のギルドとは大違いだった。
クリスが受付に行って事情を話すと、メガネをかけた女の人がうなずいて引っ込み、しばらくしてから営業スマイルが張り付いたような顔のおっさんが出てくる。
「おや? ガウェインさん。『流星の丘』の皆さんとは仲が良いのですか?」
「いえいえ、偶然道中で一緒になっただけで……グレーズ殿もフルネードのギルドにいるのは珍しいですね。何かあったのですか?」
「いえ、特には。あ、三番の受付で、ガウェインさん向きのお仕事がご紹介できそうです」
「そうですか、感謝します」
ガオスは「では、またな」と言うと、俺たちに背中を向けて移動する。クリスはそれを見送ると、受付に向き直ってグレーズと呼ばれたおっさんから事情を聞き始めた。
あたりはがやがやとうるさく、ぼそぼそ喋っている二人の声はよく聞こえない。話を聞くのはクリスに任せ、俺は壁に張り出してある依頼をぼんやりと眺めていた。
「……?」
思わず振り返る。そこにはいつの間にかアスガルが立っている。
「うお、ビビった」
仲間として見慣れてるとはいえ、その立派な体格はなかなかの威圧感だ。
アスガルは不思議そうに首をかしげ、指先で頬をかく。
「オレも、依頼見ようかと。変だったか?」
「いや、なんか視線を感じた気がしたから。お前だったのかよ」
でも、見られたと感じたのは違う方向からだったような……やっぱ気のせいか?
それから二人で依頼を品定めしているうちに、クリスとリルケもやってきた。
「お疲れさん。終わったのか?」
「おつかれ」
俺とアスガルが言うと、クリスは片手をあげて応える。なんだか嬉しそうだ。
「二人とも、今夜の予定はあけといてくれよ。イードは寝るなら今のうちに寝とけ」
「なんかあるのか?」
「あんのか?」
リルケはすでに話を聞いたらしく、にこにこしながらうなずいている。
「今回の依頼の件で、グレーズさんと食事することになってさ」
「――え、なんで?」
「それも依頼にかかわることらしい。ちょっといい店でごちそうしてくれるって」
「おお、やった! いいメシ! 楽しみだ!」
アスガルは大喜びしているが、俺は胸のモヤモヤがどんどんデカくなっていく。
「な、なんかさー、怪しくねーか? あのおっさん」
「なんでだよ、ギルドの人だぞ? しかも、西部支部の人なんだってさ」
「西部支部の?」
西部支部。この国、トルディスタ王国の西側地域に点在する冒険者ギルドを束ねている。俺らが所属しているニエリアや、ここフルネードのギルドの上の組織。つまり、お偉いさん。
「なんでそんな偉い人が、こんなとこに?」
「グレーズさんは視察で、いろんなギルドを回ることがあるんだって。今回も俺たち『流星の丘』の活躍をたまたま知って、声をかけてくれたって言ってた」
「すげえ!」
「ほんと、すごいよね! 私たち、今、勢いあるんじゃない? ……あれ? イード、どうしたの?」
顔から血の気が引き、大量の汗を流している俺を、仲間たちは不思議そうな目で見る。
俺の頭の中では、「やべぇ。これ、絶対あの依頼のせいだよな」って声と、「そんなことない、思い過ごしだって」って声が激しくぶつかりあっていた。
「い、いや、別に……」
『災夢』には、アーティファクトのかけらをギルドに提出して説明する俺の姿も出てきたから、そこまでは大丈夫だと思う。でもそこから先は分からない。だからギルドで「何の魔法を使いましたか?」と聞かれたとき、つい素直に答えてしまった。それがマズかったのかもしれない。
「ああ……ちょっと、体調悪くなっちまったかも」
なんだかほんとに体調悪くなってきた。いつもながら眠いし。
「とりあえず、寝てくる。出かける時間までにはちゃんと起きるから」
宿は今回の依頼の話があった時点でギルドが取ってくれていた。妙に好待遇だとは思ってたんだよなぁ。それに気づいていればなんとか断れたかも――とも思うが、ギルドのお偉いさんが手をまわしたのであれば逃げられるはずもない。
用意してもらった宿はギルドからも近く、外観からして俺たちがいつも泊まる宿なんかと比べたらワンランクもツーランクも上だった。
「よし。『災夢』ちゃん、頼むぞ……!」
俺は部屋へと向かうと、ベッドの上でいつもしたこともない祈りをささげる。そして時間に遅れないよう、『遅延警報』の魔法を自分にかけてから、ふかふかのベッドに倒れこんだ。
――そして、何事もなく目を覚ます。枕元に置いてあった記録用ノートへと手を伸ばすが、記憶には何も残っていなかった。
「マジで? なんもなし!?」
俺はがばりと起き上がり、頭を抱える。
『災夢』は基本的に『災厄の芽』にかかわることしか教えてくれない。でもこんな状況になったのは、それに従ってあのアーティファクトを爆散させたことがきっかけなんだろうから、少しくらい助けてくれたっていいじゃんかよ!
しかし一人で嘆いていても何も解決しない。閉めたカーテンの隙間からはオレンジ色になった光が差し込んでいる。俺はのそのそとベッドから出ると、重い気分のまま出かける準備をし始めた。




