こう見えて俺、世界を守ってます 2
「なんで爆破しちゃうんだよ!」
「……危険を感じたからだよ」
「調査対象なんだから、爆散させちゃダメだろ!」
「アーティファクト、金に、なったかも」
「そう! それに、パーティの評価だってもっと上がったかもしれないし!」
依頼は無事に終えたものの、仲間にめちゃくちゃ詰められる俺。
割と今までになかったくらい怒られてる気がするけど大丈夫かな……これでパーティ追放とかされたらシャレにならないんだが。
「まぁまぁ二人とも。近隣の皆さんの安全は守れたんだし、依頼だってクリアできたからいいじゃない」
リルケが優しく言って微笑みかけると、クリスもアスガルも不満丸出しのまま黙り込む。みんな、なんだかんだでリルケには弱い。
「でもイード、何か悩みごとがあるなら言ってよね? 私たちは幼なじみだし、仲間なんだから」
彼女はライトブラウンの瞳をじっと俺に向ける。つい本当のことを吐き出してしまいそうになるが、口をぎゅっと結んで何でもないという顔をした。
「……ああ、ありがとな」
――さすがに言えない。今回はお前のせいで世界が滅びそうだった、なんて。
そもそもの発端は、数十年に一度の流星群が見られると言われた六年前、俺が十二歳の時のことだ。
夜、村はずれの丘に立った俺たちは、美しい星空の下で立派な冒険者になると誓い合い、パーティ『流星の丘』は結成された。
ギルドに所属できる年齢には達していなかったから子ども同士の約束にすぎなかったが、人生が大きく変わったような高揚感の中、ようやく眠りについた俺を待ち受けていたのは恐ろしい『夢』だった。
今では俺が『災夢』と呼ぶその夢の中では、街が燃え、人々が泣き叫び、逃げ惑っていた。
剣士風の男は光輝く剣で何もかもを斬った。
巨大な盾を持った大男は、精鋭部隊の攻撃を難なく受け止め、人々を跳ね飛ばした。
そして聖女のような姿をした女は、毒の霧を撒きちらし、息絶えた人たちをよみがえらせて手駒にした。
――人々に『魔王』と呼ばれていたその三人は、俺の仲間だった。
「でも、私もそのアーティファクト、ちょっと見てみたかったな」
リルケの声が俺を現実に引き戻す。彼女には珍しく、少しすねたような言い方だった。ダンジョンで扉を見たときも柄にもなく飛び出そうとしてたし、やはりあのアーティファクトに何か惹かれる要素があるのかもしれない。
「悪かったって」
「ふふ、いいよ。みんな無事だったんだもん。それが一番!」
今度から気をつける、とは言えない。また似たようなことをやらなきゃいけないかもしれないから。
今回の俺独自の『任務』ともいえるものは、『リルケとあのアーティファクトを出会わせてはいけない』だった。『災夢』は近々起こる出来事や、それにかかわる光景を俺に見せる。今回なら調査依頼を受け、あのダンジョンにみんなで向かい、ドアを開けたあと、リルケがあのアーティファクトを見て目を丸くする。そこから先は、間を全部すっ飛ばして、三人が世界を滅ぼすシーンになる。
「僕も言いすぎてごめん。イードも僕たちの安全を考えてくれたんだろうし、いつも頑張ってくれてるしな」
「オレも、すまん」
俺は三人を見て、軽くうなずく。正直こんないいやつらが、どこをどうやったら世界を滅ぼすまでに至るのか。今でも信じられない。
俺だって最初はただの悪夢だろうと、無視しようとした。だが放置すると、『災夢』は次の段階で起こることを見せてくる。俺はそれを『災厄の芽』と名付けた。その『芽』を摘んでおかないと、事態はどんどん悪化していくのだ。
夢に出てきたことは次々と起こるし、そのときはクリスのおふくろさんが大けがを負う光景を見せられ、これ以上放置したらまずいと悟った俺は、イチかバチか体を張って止めた。それから一週間近くベッドから起き上がれなくなったのも、今となっては遠い思い出だ。
「とりあえず今日はゆっくり休んで、また二、三日かけてよさげな依頼を見つけよう」
クリスが気持ちを切り替えるように言った。俺たちはうなずく。
ダンジョンが発生した村の隣町に俺たちは滞在していた。宿もあるし、小さいながらギルドもある。あの村の人たちも、ここのギルドに依頼を出したのだ。
「私はちょっと教会に行ってくるね。お手伝いを頼まれてるの」
「優しいのは君のいいところだけど、あまり無理するなよ」
「でも今回の依頼では、私はあんまりすることなかったんだよね。みんなに迷惑もかけちゃったし」
「そんなことないって! とにかくせっかくだし、僕も一緒に教会に行くよ」
「そう? 二人はどうする?」
リルケに話を振られ、俺とアスガルは顔を見合わせる。
「オレ、あの雑貨屋に売ってた盾、見に行く」
「俺は寝るわ」
「そうか、じゃあ行ってくるよ」
「何かあったら教会まで来てね」
俺らの返事を聞き、二人は爽やかに手をあげて部屋を出て行った。
クリスとリルケは、正直だいぶ前からいい感じだ。そこらへん鈍そうなアスガルも気をつかうくらいには。でも付き合うとか、そういう様子は全く見えてこない。パーティの仲が気まずくなるとかそういうことを心配しているのもあるのかもしれないが、そもそも全然進展している気配がない。
俺自身そういうことに慣れているからわかる――というわけではなく、悲しいかな、これも『災夢』から得た情報がもとになっている。
「じゃ。イード、おやすみ」
「おう」
アスガルも部屋を出ていく。俺はどさりとベッドへ横になった。
「とりあえず、寝よ……」
今回の案件のせいで寝不足だ。ごく簡単なものであれば当日ということもあるが、『災夢』は大体数日から一週間程度先の出来事を見せてくることが多い。俺はその間に準備をする。今回使った『光輝の生誕』という炎の魔法も、俺のレパートリーにはなかったからショップに行ってスクロールを仕入れ、急遽覚えたモノだった。
とにかく疲れた。俺の意識は次第に遠くなり――そして跳ね返るように戻ってきた。
「くっそ! ふざけんな!」
俺は部屋から飛び出し、宿を飛び出し、でこぼこの道を全力で走る。すれ違う人に、なんだあいつみたいな顔されてるけど、とにかく走り続ける。しばらくして、リルケたちが手伝いに行った教会が見えてきた。
「君みたいな可憐で心優しい人がこんなところにいるなんて……きっと君は、聖女に違いない」
「はいはいはいはいはいはいはい」
いかにも金持ちのお坊ちゃん、という感じのキザな男がリルケに言い寄っているところへ割り込み、俺は名も知らないボンボン様を、少し離れたところに停まっていた馬車のほうへと押しやるようにして歩いていく。
「な――なんだ貴様は! この無礼者が!」
「アンジェラ様からのご依頼ですので、ご容赦を」
俺がささやくように告げると、あきらかに顔が青ざめ、さっさとお帰りになるボンボン様。
アンジェラ様? 知らん。たぶんあいつの妻か恋人だろう。俺がちらりと後ろを見ると、呆然とこっちを眺めているリルケのところに、何も知らないクリスが戻ってくるところだった。
「あぶねぇ、間に合った……」
もちろんこれも『災夢』がらみ。普段はあまりない短期案件だ。ナンパ男とクリスが出会うことから始まり、なんやかんやあって世界が滅亡する。
しかし、あのタイミングで俺が寝なかったらどうなってたんだろう。そんなとこまで計算しつくされてるのか? どっちにしろ恐ろしい。
「何かトラブルでも?」
クリスはリルケと俺を交互に見て、不思議そうな顔をする。
「うん、ちょっと変な人が来てね、イードが助けてくれたの」
「ごめん、僕がここを離れたから……」
「私が荷物運び頼んだんだから、クリスのせいじゃないでしょ。イード、ありがとね! 寝てなくて良かったの?」
「いや、バイトを思い出してさ。さっきのあいつに伝言があって」
さすがに無理のある言い訳に、二人は一瞬怪訝そうな顔をした。
「そうなんだ、イードは働き者ですごいな!」
「とにかく、そのおかげで助かったわ」
でも、それ以上深くは突っ込まないでくれる。
「教会のみなさんが、手伝ったお礼にお茶とお菓子を用意してくれるんだって。イードも一緒にどう?」
「え、でも俺、なんも手伝ってないしなぁ」
「いいんじゃないか? リルケを助けたんだし、手伝ったようなものだよ」
「そうそう、せっかくここまで来たんだから」
「あー……じゃあ、とりあえず行くだけでも」
ここまで来て断るのも変だし、俺は歩き出したリルケとクリスの後についていく。ふと、屋根の上に座る白いものが目に入った。神界と人間界の橋渡しをするという神、イアベスティアの像。このトルディスタ王国ではメジャーな教会だ。
「でね、オルラさんが……」
「へぇ……」
いけね。眠すぎてぼーっとしてたみたいだ。俺は真っ白な像から目を離し、いつの間にか遠ざかっていた背中を追いかける。
こうして見ても、二人はお似合いだ。まあ、俺だってリルケに淡い恋心を抱いた時期がなかったといえばウソになる。リルケはかわいいし、誰にでも優しいしな。
だけど二人が想い合っていることに薄々気づき始めてから――もあるんだが、この二人はお互いのことがきっかけで滅亡ルートに入ることも多い。二人とも自覚なしにモテるから、余計にややこしい。
――もう付き合っちゃえよ!
何度も心の中で言った言葉を繰り返す。
ちなみにこれを直接言うと、やっぱり滅亡ルートに入る。なんでだよ。




