特訓? 拷問じゃなくて? 1
そしてまた、俺はギルド西部支部の支部長室でヘルセンさんの前に立っていた。今回はグレーズさんもいる。
「あの、改めて、先日はありがとうございました」
俺は二人に頭を下げた。顔を上げたときに見えた二人のまなざしが、少し優しげにも、俺を憐れんでいるようにも見える。
「ま、それはいいさ。でもぼうや、今回のことで分かったと思うけど、このままだとあんた早々に死ぬよ」
「…………」
何も言い返せなかった。どんどんデカくなる『災厄の芽』の規模。俺を狙ってきたあの男たち。俺がちょっと機転を利かせたり、ひとりで無茶をすればなんとかなるって範囲をもう超えてきている。
「あんたにも背負ってるものがあるんだろうが、妙な輩が絡んできた以上、あたしたちも黙って見ているわけにはいかない」
ヘルセンさんは真っすぐに俺を見た。そこに最初に会ったときのような威圧感はなく、彼女はこの期に及んでも何も問いただしてはこない。まるで俺が何を抱えているのかにも気づいているかのようだった。
「だが、それでも全てに手をまわすのは無理だ。あんたには最低限、自分の身は自分で守れるようになってもらう」
俺はうなずいた。どこまで強くなれるかはわからないが、やるしかない。
「そこで、あたしとグレーズで、あんたたちを鍛えてやる」
一瞬、意味がよく呑み込めなかった。それから、仲間たちの顔が浮かぶ。
「……もしかして、あいつらもですか?」
「当然。あんたたちパーティだろ? 一蓮托生ってやつさ」
「この前の件であなたがたが中々見込みのあるパーティだということがわかりました。将来有望なパーティが消えていくのをただ見ているのは忍びないですしね」
――いや、消えてくの確定みたいに語らないで欲しい。
でも結局、俺が狙われるということは、あいつらも巻き添えになる可能性が高いということだ。あの音楽祭の日から一週間以上。新たな『災夢』は見ていないものの、また突然何がやってくるかはわからない。
「あいつらにも話してみます。よろしくお願いします」
◇
翌日。俺たち『流星の丘』の一行はギルド西部支部を訪れていた。いつものようにグレーズさんが魔道具で転移させてくれたので距離なんて関係ない。今さらながら、フルネードから遠ざかれば逃げられるんじゃないかと思ってた俺は浅はかだったな。
支部長室の奥の扉をくぐると、そこはだだっ広い空間だった。どことなく、この前のダンジョンにあった祭壇の部屋にも似ている。
「防音、耐衝撃、耐魔法……諸々を施した特別室だよ。非常時にはシェルターにもなる。ここならいくら暴れようが、魔法を使おうが問題ない。特訓するにはうってつけさ」
ヘルセンさんはそう言ってにやりと笑う。俺の背筋をなんともいえない寒気が走った。
「クリス・ギュゼアと申します! この度はお世話になります。よろしくお願いいたします!」
「リルケ・ルハーナです。私も、精一杯頑張ります! よろしくお願いします!」
「アスガル・ゴード。オレも、がんばる!」
みんなは、めっちゃ素直。
昨日帰ってから特訓のことを話したら、三人とも迷うことなく食いついてきた。俺はたとえ一人だったとしてもやってやる! とか勝手に意気込んでたのが少し恥ずかしい。
「じゃ、とりあえず、あたしたちで死なない程度にぼうやたちをぼこぼこにする。おじょうちゃんはそれを死ぬ気で回復させる。いいね?」
「はい! よろしくお願いします!」
「よし、どんと来い!」
「わかりました! 頑張って回復させます!」
――いやいや、ちょっと素直すぎないか?
「ぼうやはどうなんだい?」
「あ、はい……頑張ります……うぉっ!」
言ったそばからデカい火球が飛んでくる。あわてて避けると、それは地面で弾けた。
「うぁっち! あっっちぃ!」
「バカ! ただ避けてどうすんだ! あんた魔導師だろ! 魔法で何とかするんだよ!」
「そ、そんなこと言われても……!」
「大丈夫だよイード、多少ひどい状態になっても、私が絶対なんとかしてみせるから!」
「えっ。はい……」
ちらりと隣を見ると、クリスとアスガルは丸腰のグレーズさんに軽々と攻撃を跳ね返されていた。倒れたままでいるとグレーズさんがやってきてボコボコに殴られるため、二人ともすでに満身創痍だ。
「イード!」
リルケの声で我に返る。
「ぐぁっ!」
足に激痛。なんだかよくわからない紫のビームで貫かれたのだ。
「ぼうや、戦闘中によそ見するとはいい度胸じゃないか。死にたいのかい?」
「いや、すいません……あの、足痛い……」
涙目で訴えていると、足をあたたかな光が包み込み、痛みが消えていく。
「あ、リルケ、サンキュ――」
「お嬢ちゃん、あっちのぼうやたちのほうが大変そうだから、行っておやり。こっちのぼうやは甘えが出てしまって良くない」
「ちょ、ちょっと待ってください! もう少し、こう――整える時間を」
「敵が整える時間を作ってくれると思うのかい? このマヌケが!」
「うぁぁぁっっ!」
無我夢中で発動させた『魔光防壁』が、降り注ぐ氷の雨を何とか防ぐ。
「ほう。やればできるじゃないか。ほら、どんどん行くよ!」
「わぁぁぁっ! ちょ、だからちょっと待って――!」
それから俺はひたすら火炎魔法で焼かれ、水攻めにされ、暴風にさらされ……俺というか、ほかのみんなもしっかり巻き込まれていたが、それでもなんとか一日目の特訓は終了した。
「私、あんなに回復魔法使ったの初めて……」
「僕とアスガル二人がかりでも一撃もかすらなかった……」
「おっさん……強い」
ヘルセンさんとグレーズさんがいなくなった部屋の中、みんな床にぐったりと横たわっている。俺も無我夢中で呪文を唱えまくり、魔力がすっかり底をついていた。指先を動かすのでさえおっくうだ。
俺の今の全力は、ヘルセンさんの足元にすらおよばない。当たり前のことだとわかっていても、やるせない思いはあった。
「でも私、もっと強くなれる気がするの!」
「ああ。僕も、これはすごく大事なことだって感じたんだ!」
「絶対、おっさんボコしてやる!」
――そしてこの三人は三人で、なんかこわい。




