↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
KAGEは僕だった  作者: SQAPE
Chapter 1「目覚める影」
PR
6/10

1-6「エイトvs影魔獣メイ」

「……マジかよ」


夕焼けの教室。


その半分以上を埋めるように、影の怪物がうねっていた。


ツタのような触手。

食虫植物のように裂けた巨大な口。

黒く脈打つ表面。

机も椅子も、その巨体に押しのけられ、無残に散らばっている。


「おい、冗談だろ……」


エイトが息を呑んだ、その瞬間。


――ビュンッ!!


空気を裂いて、一本目のツタが飛んできた。


「っ!」


反射的に身を引く。


直後、すぐ横の机が粉々に吹き飛んだ。


木片が頬をかすめる。


「おいおい……っ!」


間髪入れず、二本、三本。

鞭のようにしなるツタが、連続でエイトを襲う。


「クソッ!」


床を蹴る。


一歩目を横へ。

二歩目を前へ。

三本目はしゃがんで避ける。


直後、背後の床がばきん、と叩き割られた。

衝撃が足裏から這い上がってくる。


速い。

しかも、長い。


「距離取っても意味ねぇ……!」


エイトは息を乱しながら、教室の後方へ跳ぶ。

その途中で、散らばった椅子を一つ蹴り飛ばした。


椅子は宙を舞い、そのまま影魔獣の正面へ――


――ガバッ。


巨大な口が開いた。

どろり、と黒い液体が吐き出される。


「……っ!」


エイトは目を見開く。


黒い液体は椅子にかかり、じゅう、と嫌な音を立てて侵食した。

金属が溶け、木が泡立ちながら崩れていく。


「酸かよ……!」


しかも、今ので分かった。


あの液体は、口を開いたときしか撃てない。

しかも、吐く瞬間は本体の動きが一瞬止まる。


「……攻撃、三種類か」


自分でも驚くくらい、頭が妙に冴えていた。


ツタ。

酸。

それと――


――パパパパパッ!!


「うわっ!」


黒い“種”のようなものが一斉に弾け飛ぶ。

エイトは咄嗟に教卓の陰へ滑り込んだ。


種は黒板、壁、窓にぶつかって弾け、小さな穴をいくつも穿つ。

破れたカーテンが、夕風もないのにひらりと揺れた。


「……チッ、遠距離までありかよ」


教卓越しに覗く。


さっきの種は、口が完全に開いたあとに撃ってきた。

つまり、酸と種は同時には来ない。


ツタは速い。

酸は重い。

種は連射。


「でも……全部、出す前に“溜め”がある」


ツタは根元がしなる。

酸は口の奥が黒く膨らむ。

種は喉みたいな部分が脈打つ。


見えてきた。


避けるだけなら、たぶんまだいける。


けれど――


「……タス……ケ……」


「……!」


教室の奥から、微かな声がした。


「……タス、ケ……テ……」


エイトの目が見開かれる。


今の声。


間違いない。


「……月原?」


影魔獣の中心。

裂けた黒の奥で、ほんの一瞬だけ、人の輪郭みたいなものが揺らいだ気がした。


中にいる。

メイが、まだ中にいる。


その瞬間、エイトの中で勝ち筋が一つに絞られた。


倒すんじゃない。


**引きずり戻す。**


「……なるほどな」


エイトは教卓の裏で、短く息を吐く。


「じゃあ、本体ぶっ壊せば終わりって話じゃねえ」


――ビュンッ!!


ツタが教卓を叩き割った。


「うおっ!」


木片が飛び散る。


エイトは横へ転がり、すぐに立ち上がる。


追ってくる二本目のツタ。

その軌道を見た瞬間、エイトは近くの机を掴んだ。


「……来いよ」


机を盾みたいに立てる。

ツタがそれを真正面から打ち抜いた。


――が、その一瞬。


ツタの先端が机の脚に絡まる。


「今だろ」


エイトは、絡まったツタの先ではなく――

その“根元”を見る。


影魔獣の本体から伸びる、黒い接続部。


「そこか!」


足元を蹴る。


踏み込んだ、その瞬間だった。


エイトの足元の影が、ぴくりと反応した。


「……!」


黒い影が、床を這うようにエイトの足を上り、腕へ集まる。


冷たい。


でも、不思議と怖くなかった。


むしろ――

最初から、自分の中にあったものみたいに馴染む。


「……使える」


なぜか、そう分かった。


右手の掌に、黒が凝縮していく。

ツタが机を引きちぎり、再びエイトへ向き直る。


「こいッ!!」


エイトは右手を突き出した。


――ドンッ!!


黒い弾が放たれる。


まっすぐに走ったそれは、絡まっていたツタの根元へ直撃した。


挿絵(By みてみん)


「――――ギッ!?」


影魔獣が、大きく揺らぐ。

ツタが一本、だらりと落ちた。


「……当たるのかよ」


自分でも少し引いたように呟く。

けれど、考えている暇はない。


影魔獣が怒ったように巨体を震わせる。


巨大な口が、ばっくりと開いた。

口の奥が黒く膨らむ。


「酸――!」


エイトは左へ走る。


だが、途中で急に進路を変えた。


一直線に逃げると見せかけて、斜め前へ切り込む。


吐き出された黒い液体が、さっきまでエイトがいた床を溶かす。

さらにその飛沫が、近くをうねっていた別のツタにかかった。


じゅうっ、と音が鳴る。


「……やっぱそうか」


エイトは目を細めた。


**あの酸、自分のツタにも効く。**


なら。


「使わせてもらうぞ」


エイトは床の上のプリント束を蹴り上げた。

紙がばさっと宙に舞う。


一瞬だけ、影魔獣の視界を遮る。

その隙に、エイトは机を足場にして跳び、教室中央へ。


「――ビュンッ!」


予想通り、ツタが迎撃に来る。


一本。

二本。

三本。


エイトは空中で身体を捻り、一番近い一本をすれすれで回避。


二本目は、わざと少し近くを通す。


「そのまま来い!」


エイトが着地すると同時に、影魔獣の口が再び開く。

さっきの動きで、相手はエイトを真正面に捉えた。


酸が来る。


だが、それでいい。


「撃てよ!」


どろり、と黒い液体が吐き出される。

エイトは直前で横へ転がった。


酸はそのまま、追いかけてきたツタ二本へ直撃する。


じゅううう、と嫌な音。

ツタが焼け、動きが鈍る。


「っしゃ」


これで、動きが一気に落ちた。


その瞬間だった。


「……ワタ……シ……」


また、声。


今度はさっきよりはっきり聞こえた。


影魔獣の中心。

裂け目の奥で、黒い膜みたいなものの向こうに、少女のシルエットが見えた気がした。


「あそこか……!」


エイトは呼吸を整える。


本体の中心。

メイが閉じ込められている場所。

そこに衝撃を通せば、揺さぶれる。


でも、直接突っ込めばツタにやられる。


なら。


「まず、邪魔なの潰す」


右手に、再び影が集まる。

今度はさっきより早い。


感覚がもう、身体に馴染み始めていた。


「いけッ!」


――ドンッ!!


一発目。


酸で焼けていたツタの根元に命中。


一本、完全に落ちる。


「もう一発!」


――ドンッ!!


二発目。


今度は口の脇。


影魔獣が大きく仰け反る。


「――――グァァッ!!」


その拍子に、口が大きく開いた。


中心部が、見える。


黒の奥に、確かに人の形。


「……月原!」


エイトは踏み込む。


影魔獣が最後の抵抗みたいに、種を連射してきた。


――パパパパパッ!!


「っ……!」


エイトは倒れた椅子を蹴り上げ、それを盾にする。

種が椅子を貫き、穴だらけにする。


だが、その一瞬で十分だった。


エイトは椅子の陰から飛び出す。


距離は、あと数歩。


「……イラナイ……コ……」


かすれた声。


メイの声。


エイトの足が、ほんの一瞬だけ止まる。

でも、それは迷いじゃなかった。


「……なに言ってんだよ」


低く、吐き出す。


掌に、今までで一番濃い影が集まる。


「そんなわけねえだろ」


一歩。


「お前が勝手にそう思い込んでるだけだ」


二歩。


「……俺は今」


三歩。


「お前を助けようとしてる」


影魔獣が揺れる。

中心の黒が、わずかに震える。


「それが答えだろ」


「……ッ……!!」


「だから――」


エイトは真正面から、その中心を見据えた。


「勝手に消えようとするんじゃねぇ!!」


右手を突き出す。


「……戻ってこい、月原!!」


――ドォンッ!!!


最大の影弾。


黒い一撃が、一直線に影魔獣の中心を貫いた。


直撃。


その瞬間、影魔獣全体の動きが止まる。

ツタが空中で静止し、口も閉じきれないまま固まった。


「……今だ」


エイトは迷わない。


両手を前に出す。


知らないはずの言葉が、頭の奥から浮かび上がる。


理屈は分からない。


でも、これを言えばいいと、なぜか知っていた。


「……影魔封」


その言葉と同時に。


エイトの足元の影が、教室いっぱいに広がった影と繋がる。

暴れていた黒が、ゆっくりと収束していく。


ツタが崩れる。

裂けた口が閉じる。

巨大な塊が、砂みたいにほどけていく。


夕焼けの赤が、少しずつ教室に戻ってくる。


そして――


影の中心から、一人の少女が崩れ落ちた。


「……っ」


エイトは駆け寄る。

床に倒れていたのは、月原芽唯だった。


制服姿の、いつものメイ。


顔色は悪いが、ちゃんと息をしている。


「おい……月原」


反応はない。


でも、胸はかすかに上下していた。


「……はぁ」


エイトはその場に膝をつく。


全身から、一気に力が抜ける。


助かった。


たぶん。


いや、たぶんじゃない。

助けたんだ。


――


一方その頃、教室の外。

窓の向こう、夕焼けの中に、白いローブの男が立っていた。


「……ああ」


静かな声。


「美しい」


フードの奥の口元が、わずかに笑う。

その視線は、教室の中のメイへ向けられていた。


「いい出来だ」


倒れたメイの元へ駆けつけるエイトを見て、男の口元の笑みがわずかに変わった。


「……だが」


低く、興味を含んだ呟き。


「なんだ、あいつは」


ほんの少しだけ。


男の予定にないものを見つけた目だった。

しかしそれも一瞬で消える。


「……面白い」


男は静かに踵を返す。


夕焼けの光の中。

その足元に、影はなかった。


――


教室には、壊れた机と椅子。夕焼け。

そして、静かに眠るメイ。


日常は、もうさっきまでと同じ顔をしていなかった。


答える者はいない。


教室には、壊れた机と椅子。

夕焼け。

そして、静かに眠るメイ。


日常は、もうさっきまでと同じ顔をしていなかった。


でもエイトはまだ知らない。

これは終わりじゃない。


自分の“影”が目を覚ました、始まりにすぎないことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。