5.護符を作ってみよう
翌日、ヒューイがいろんなものを持ってきてくれた。なんで話をしたダニエルじゃなくてヒューイが持ってくるんだ? とは思わないでもないんだけど、お金持ってるって言ってたもんな。深く気にしたら負けなんだと思う。
ちなみに持ってきてくれたのは、紙とか布とか木とかだった。他にも、たぶん動物の毛皮とか骨っぽいのとかもあったけど、こっちは見なかったことにした。
だって、こんなのどうしろって言うんだ。何基準で選んだのか知らないけど、もうちょっと選抜してほしかった。
それに、作るのは護符でしょ? 護符って言われると、紙に何か書いたお札を連想するけど、何を書けばいいんだろ? 全く分からない。
しかも持ち運びってなると……
「お守りっぽいもの、作ってみる?」
布も糸も針も紙もペンもある。それっぽいものは作れるかもしれない。
とりあえず布は二つに折って、端っこだけ縫えばいいかな。初めてだし、細かいことは気にしない。縫い目がガタガタだろうと、大きかろうと、中に入れるのは所詮紙。落ちることもないだろう。
俺が四苦八苦してる間、シロは興味深そうに手元を覗き込んでた。ヒューイもずっと見てるけど、集中してる俺は気にもならない。
「できた!」
うん、形はそれっぽい! ちょっと歪だけど、試作品だからいいんじゃなかろうか!!
「完成したの?」
「ううん、もうちょっと」
後は中に入れる紙か。うーん。お守りの中身なんて開いたことないから、何が書いてあるのか知らないや。
呪いって厄みたいなものかな? とりあえず厄除けって書いてみよう。
意を決して羽ペンを握ったけど、使いにくい。インクが垂れて、一枚駄目になっちゃった。ま、使ったことないから仕方ないよね。ボールペンをくれ、って言いたいけど、ないものはないからこれも仕方ない。今度は慎重に少しだけインクを付けたら、全然書けなかった。このやろう。
三度目の正直。今度はちゃんと書けた。ちょっとインクが垂れたけど、このくらいなら可愛いものでしょ。
書いた紙を小さく折り畳んで、お守りの中へ。一番上に紐を結べば、これで完成だ。
「シロ、見て見て! できた!」
「すごい! 神子様上手!!」
へへ、よせやい。お世辞だってわかってても嬉しくなるだろ。
でもこれだけで本当にいいのかな? 肝心の加護とやらが入っているのかどうかがわからない。シロもわからないみたいだから、大人しくヒューイに差し出した。
「ヒューイ、これって加護ある?」
「……ある気がしますが、専門外なので何とも。ウーヴェを呼んでくるので、少々お待ちください」
ウーヴェって誰だ。初めて聞く名前だけど、断る理由もない。こくこくと頷いたら、ヒューイは部屋を出て行った。
それを見届けてから、俺はシロを振り返る。
「ウーヴェって誰?」
「神子様が倒れた時に、神聖力不足って診断したタカだよ。覚えてない?」
「ああ、あの人」
ヒューイと同じように、背中に大きな羽を持っていた人か。そういえばあの診断、めちゃくちゃ気持ち悪かったな……
「神聖力の不足って、簡単にわかるものなの?」
「普通は無理だね。ウーヴェは鑑定スキルを持ってるから」
「鑑定スキル」
スキル? 魔法じゃなくて?
初耳の単語だ。思わずオウム返しに口にすれば、シロはえへんと胸を張った。
「そう。ヒューイの収納もスキルだよ。魔法は魔力があれば誰でも使えるけど、スキルは持ってないと使えないんだ」
「え、そうなの!? 俺、収納使ってみたかったんだけど!」
「残念。神子様はスキル持ってないから駄目っすね」
「うぉわ!?」
び、びっくりした! シロと二人だけだと思ってたら、急に知らない声が返事した!! 驚きすぎて、ちょっと足が浮いたじゃん!!
恐る恐る声のした方を見れば、開いたドアからヒューイと、たぶんウーヴェが入ってきたところだった。で、ウーヴェが俺を見てにっこりと笑う。
「収納も鑑定も、レア中のレアなんですよ。神子様の神聖力には及びませんけどね」
「……でも神聖力じゃ収納と同じことは出来ないんだろ?」
「そんなに使いたいなら、ヒューイにおねだりすればいい。スキルは限られてますが、同じことができる魔法道具ならありますから」
ほ? 魔法道具? そんなものがあるの?
真意を求めてヒューイを見れば、なんてことないように頷かれた。
「お望みとあれば。使いやすそうなサイズで見繕いますね」
あるんだ。すごい世界だった。言ってみるものだな。
思わぬご褒美を手に入れたけど、今の本題はスキルじゃない。出来上がったお守りをウーヴェに渡せば、「へぇ」と感嘆の声を漏らした。
「確かに神聖力が宿ってる。これは神子様が作ったんですか?」
「うん」
「なるほどなるほど」
ウーヴェは眼鏡をしてるけど、今は眼鏡をはずしてじっくりとお守りを見てる。表裏もあいまいなお守りだけど、ひっくり返したり、止め紐を少しだけ緩めて中を覗いたり。そんなに見るところある? ってくらい、いろいろと見てた。
で、お守りを置いたと思ったら、今度はじっと俺のことを見た。
「神聖力は宿ってますが、加護はちょっと弱いですね。試しに俺……じゃ、無理だな。シロの無事を願う祈りを吹き込んでみてもらえません?」
「祈りを吹き込む?」
「これを握って、頭の中で祈ってもらえれば」
それくらいなら、まぁ。
お守りをもう一度受け取って、両手で握る。多分、神社とかお寺でやるのと同じようなものだろう。
どうかシロが呪われることがありませんように。あ、ついでだから健康もお願いします。無病息災、健康長寿。シロが病気を患うことなく、長生きできますように。
そう願った時だった。
「えっ!?」
「おお!」
急にお守りが光りだしたんだけど! え、何!? これ何が起きたの!?
ヒューイとウーヴェはすごいものを見るかのように、俺とお守りを凝視してる。俺も俺でびっくりしたけど、お守りを放り出したりはしない。というか、なんでか手を放そうと思えない。
俺の手の中で光りだしたお守りは、次第にゆっくりと光が収まっていった。
マジで何。怖すぎるんだけど。
「失礼しますね」
固まってしまった俺の手から、ウーヴェがお守りを持っていく。で、今度はじっくり見るまでもなく、楽しそうに目を細めた。
「すごい。これが神子様の加護……」
ほう、とどこか恍惚な表情で言われて、俺は自分の作ったお守りを凝視してしまった。
え、成功したの? そんな試作品第一号すぎる歪なお守りでOKなの? 結構適当だね?
驚く俺をよそに、シロとヒューイも俺の作ったお守りを興味津々に見てる。二人にも教えるように、ウーヴェが鑑定結果を口にした。
「『神子様のお守り』。あらゆる呪いをはじき返し、状態異常を無効化する。ただし、効果は使うたびに半減する」
ほうほう。状態異常って、毒とかかな? この世界にもあるのか。無病息災がその効果になって表れたんなら、いい結果じゃん。
半減していくってことは、2分の1、4分の1、8分の1、って減っていくのかな。じゃあ使えても2回くらいかな。初めてにしてはいい出来なのではないでしょうか!
にしても、何かの説明文を読んでるみたいな説明だったな。鑑定スキルってどう見えてるんだろう。ゲームみたいな感じなのかな? ちょっと気になる。
そんなことを考えていた時だ。どんと急にシロが体当たりしてきた。
「神子様、神子様! これ、僕がもらってもいい?」
「え、試作品だから下手だよ? もっと練習してからじゃダメ?」
「これがいい!!」
「うーん……まぁ、シロが欲しいなら」
「やったぁ! ありがとう!!」
尻尾をぶんぶん振って喜んでくれるなら、俺としても本望だ。シロの健康を願ったらいろいろ付いたんだし、シロが持ってるのが正当な気もする。
じゃれついてくるシロを撫でていたら、ヒューイとウーヴェが何故かドン引きした顔でこっちを見てることに気が付いた。
「伝説級の魔法道具が、いとも簡単に……」
「いや、でも、神子様ならまた簡単に作るのかもしれないし……」
…………伝説級? 今、なんか恐ろしい言葉が聞こえなかった?
怖いから聞かなかったことにして、シロを撫でながら違うことを考える。
シロはどうやってお守りを持つんだろう? 巨大な猫であって、獣人じゃないんだ。服を着てるわけじゃないし、ヒューイみたいな収納スキルとやらも持ってないだろう。どこかに置いておいてもいいけど、どうせならずっと持っておいてほしい。そうじゃないと、たぶん効果ないもんな。
うーん、どうしようかな。
「……ネックレスにすれば、シロも身に付けられるかな?」
「! うん!!」
シロの首にかけられるサイズのネックレスか。俺が作るとなると、時間がかかりそうだ。
うん、でもまぁ、シロがこんなにも喜んでくれるんだから、頑張ってみようかな。
紐にしたいけど、シロのサイズならロープみたいなものになっちゃうのかなぁ。出来るだけシロがつけてても違和感がなくて、邪魔にもならないものがいい。ロープじゃ流石に太すぎて邪魔になるか。もうちょっと細いのがいいかもしれない。
意識が完全にシロに向いてしまった俺は、もうヒューイとウーヴェがどんな顔をしているかなんて、気にもならなくなっていた。




