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23.ダニエルの頼み事





 帰ってきてからも、ルディによる神聖力の練習は続けることにした。俺にとっては、お守り作りと同じくらい大事なことだ。予防と治療。どっちも重要度に変わりはないからね。

 とはいえお城の中じゃ、ルディの家にいた時と同じ方法は使えない。シロに手伝ってもらいながら、エルストやライナーたちも何故か一緒に練習してる。

 そう。本当に何故かトラのみんなも一緒なんだよね。それが嫌なのか、マルクスは様子を見に来ることはあっても長居はしない。

 ちなみに、一応ライナーは抵抗してた。



「俺たちは神聖力は使えなくていいんですが!」



「お前たちは魔力に決まっているだろう。肉体強化に使うにしても、無駄が多すぎて気になっていたんだ。神子様も仲間がいたほうがやる気も出るでしょう?」



 とのルディの言葉で、文句も言えなくなってしまった。巻き込んで申し訳ない。


 でも練習のおかげで、俺はちょっとずつ神聖力を使えるようになってきた。っていうか、すでに一回、ルディの前で無意識に使った前例があった。



「フィオットに加護をくださったではないですか」



 そう言われた時、めちゃくちゃ驚いたよ。

 確かにな!? あの時の俺、ちゅーもなにもしてないもんな!?


 とはいえあの時のことは、正直フィオット可愛いしか覚えてない。でも、無意識でも「一回できた」っていう自信が、俺には大事だったみたい。少しずつだけど、手渡しもできるようになってきた。

 おかげでお守り作りも順調だ。俺が作ったものじゃなくても、神聖力を込められるようになったんだよ! 初めて成功したのはルディの身につけてるブレスレットだったんだけど、ウーヴェも唸る出来だった。俺はやればできる子なのだ!


 そうやって充実した日々を過ごしていた時。

 ダニエルが深刻そうな顔で、俺の部屋にやってきた。



「他の奴らに話すと反対されそうなので、先に神子様のご意見を聞いときたいと思って」



「深刻な話?」



「それはもう」



 ダニエルがそこまで言う、ってなんだろう。思わず姿勢を正してしまった。

 ちなみに「他の奴らに話す前に」なんて言ってるけど、アルヴェルとホルスト、それにルディも部屋にいる。もちろんシロも。アルヴェルたちがいるからマルクスにも筒抜けになると思うんだけど、ダニエルは気にすることなく話し始めた。



「俺と親交のある部族に、オオカミがいるんです」



「オオカミ?」



「ええ。王都から離れたところにナワバリを持ってるんですけど、だからこそ魔獣たちとやりあうことが多くて。最近は頻度も上がってるらしく、怪我人が多く出てるみたいで、神子様のお守りをいくつか分けてもらえませんか?」



「…………」



 え、これ駄目なやつじゃないの。

 思わず黙り込んでしまった俺に、ダニエルの耳と尻尾が分かりやすいくらいに垂れさがった。



「やっぱり駄目っすか……」



「あ、いや、そうじゃなくて」



 事情が事情だし、お守りくらいいくらでも持って行っていいんだけど。量産とはいかないけど、それなりに数も出来てきたしね。

 だから俺が気になったのはそこじゃない。



「怪我人って、呪いではないの?」



 この一点だけだ。


 だって魔獣と戦うってことは、呪われるってことだろ。お守りはあくまでも予防であって、治療はできない。もしも怪我人が呪われた人のことだったら、お守りだけじゃ役に立たないはずだ。

 俺の質問に、ダニエルは少しだけ口ごもった後。



「…………呪われてる人も少なくないと思います」



 だろうね。だからヒューイたちを通してじゃなく、俺に直接話に来たんでしょ。


 顔を上げれば、ばちりとルディと視線が合った。俺が言いたいことがわかるんだろう。ルディは困った顔をしてる。

 だけど俺は迷わず口にした。



「俺も行っていい?」



「…………」



 ルディは答えない。代わりに口をはさんだのは、シロたちのほうだった。



「神子様が行く必要はないよ」



「そうですよ! オオカミのナワバリなんて、魔獣がいなくても危ないのに!」



「神子様はまだ神聖力を完全に扱えるわけでもないのでしょう? 不特定多数の前に出るのは危険すぎます」



 わかる。わかるよ、みんなが言いたいことは。

 でも、魔獣化、って怖い現象でしょ。マルクスの件でしっかり学んだんだ。あれと同じことを、オオカミたちには耐えろなんて言えない。言いたくない。危ないってわかってるけど……それでも、助かるかもしれない命なら、助けたいじゃないか。


 もちろん、一人で行くつもりなんてない。だからみんなを見て、



「ついてきてくれないの?」



 と聞けば、何故かみんな小さく呻いて、頭を抱えてしまった。

 え、そんなまずいこと言った……?

 いや、そりゃまずいか。みんなわざわざ危険な場所に行く必要なんてないもんな。


 うーん。ってなると、ダニエルと二人旅で行くことになるのかな。ダニエルも仲間と一緒かな? せめて他にも気の合いそうな人がいるといいんだけど。



「ダニエル、俺一人でもついて行っていい?」



 とはいえ一応ダニエルには許可を取らないとと思ったんだけど。ダニエルが答えるより先に、アルヴェルががばっと顔を上げて俺に詰め寄ってきた。



「俺たちもついて行きますって!!」



「でも」



「違う違う! 神子様の魔性のあざとさに驚いただけで、嫌だなんて思ってません!!」



 なんだ、魔性のあざとさって。身に覚えがなさすぎる。

 思わず変な顔をしてたと思うけど、変な顔にもなるだろ。そんな俺の頭を撫でる大きな手があった。ルディだ。



「神子様の優しさを無下にする者などいませんよ。ですが、準備は必要ですね」



「準備?」



「ええ。少なくても護衛は必ずつけなくては。腕が立つのは当然として、神子様が一日中傍におけるほど信頼できる者を」



 そんなに物騒なのか、オオカミのナワバリって。ちょっと不安になってきた。

 一日中ずっと一緒にいられる、という意味では、真っ先に浮かぶのはシロだ。シロの巨体を見上げれば、申し訳なさそうな顔が近付いてくる。



「すっごくすっごく行きたいんだけど!! 僕、移動陣に入らないから一緒に行けない……ごめんね神子様……」



「あああああ……」



 なるほど……なるほどぉ!? あの陣に収まるサイズじゃないとだめなのか!! そりゃシロ駄目だわ!!

 魔法陣はそれなりにでかくて物資も一緒に数人単位で移動できるらしいけど、何せシロは巨大な白猫。丸くなったとしても収まらないだろう。立ち上がれば収まる気がしないでもないんだけど、高さはどこまでOKなんだろう? できたとしても、身動きしたらアウトとか怖すぎる。ワープに失敗したらどうなるのかなんて知らないけど、体の一部だけワープしました、なんてことになったらマジで怖い。安全第一で。うん。


 シロの次に信頼できるのはルディだけど、ルディはこの前神殿でずっと一緒にいてもらったんだ。可愛い可愛いお孫さんもいるんだし、戦場に連れて行くのは気が引ける。

 そうなると、やっぱり次はトラのみんななんだけど。



「一日中かぁ……」



 起きてる時はいいとして、寝る時も一緒ってなるとちょっとどうなんだ? 流石にみんなにもちゃんと寝てほしいし、ヒューイみたいに同じベッドで寝るって言い出されたら嫌なんだけど。そうなるくらいなら雑魚寝がいい。学生時代の修学旅行みたいな感じでさ。

 ちらりとアルヴェルとホルストを見れば、二人はやる気満々の顔をしてた。それどころか、とんでもない暴露をしてくれる。



「俺と神子様の仲でしょう。今更じゃないですか」



「いや、そこまでの仲じゃなくない?」



「いやいや、俺は神子様の裸まで知ってますからね。そりゃあもう体の隅々まで」



「え!?」



 え? なんで!? アルヴェルの前で脱いだことなんて…………



「ボスと街に出かけた時、支度を手伝ったのは俺とライナーですよ」



「うあああああああああ!!!!」



 まさかの!! あの時! あの時いたのか!! 服を全部剥かれて頭の先からつま先まで洗われた上に、なんかいろいろ塗りたくられた時の!! 恥ずかしすぎて顔なんて見てなかったよ!!

 慌ててアルヴェルの口を覆うけど、アルヴェルは楽しそうだ。こ、この! このやろう!!



「アルヴェル、説明を」



 そんな俺をアルヴェルから引き離して、ルディの冷静な声が響く。俺としてはもう本当に穴があったら入りたい気持ちで、ルディの頼もしい胸元に顔を隠した。

 で、アルヴェルは俺も知らなかったことを口にした。



「神子様、すっごく甘い匂いするでしょ。街に出たら匂いでバレそうっていうんで、トラの子供に見えるようにちょっと小細工を」



「…………なるほど」



 俺は初耳ですね!? ルディは理解したみたいで、責めるような口調をやめてしまった。

 でも俺は全然何もわからないんですけど!?



「ねぇ! 匂いって何!? どういうこと!?」



 獣人たちの嗅覚がいいのはわかるけど、俺そんなに独特な匂いするの!? なんか嫌なんだけど!!

 自分で自分を嗅いでみても、もちろんわからない。ルディを見上げれば、困ったような顔をした。



「神子様は獣人たちとは違い、花のような匂いがします」



「すっごくいい匂いなんですよ!」



「でもいい匂いすぎて、神子様だってすぐわかるんですよね。騒ぎになるのは嫌だろうと思ってのことなんで、許してください」



 花って……花ってなんだ!? めちゃくちゃ嫌なんだけど!! 俺、女の人じゃないんだけど!!

 思わず拳を握りしめてしまったけど、言葉が出てこない。だって、なん、え、花!?



「あのぉー……そろそろ俺の話戻していいです?」



 ってダニエルに言われて、やっと本題を思い出した。そうだった。今はそっちの方が優先だ! これ以上聞いたらもっと知りたくないことが出てきそうだからじゃないよ!!

 慌ててダニエルに向かい合い、



「も、もちろん行くよ! トラのみんなも一緒でいいだろ?」



「はい、もちろん。ただし大人数だとオオカミを刺激するんで、無限には連れてこないでほしいっす」



 まぁ、そりゃそうか。ナワバリに他の種族がたくさんは、問題あるんだろうな。

 頷けばダニエルも安心したみたい。尻尾が揺れてるのは、本当に犬っぽいね。






いつもお読みいただきありがとうございます。

3章の途中で、R-18に切り替える予定です。

その際はまたお知らせさせていただきます。

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