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12.新しい可能性







 次の日から、俺はまたお守り作りを再開した。


 まずはファルコの分。マルクスを助けるときに乱暴な扱いしたから、ボロボロになっちゃったんだよね。もうほんと、見るも無残な姿に。ファルコはそれでも大事に持ち歩いてくれていたけど、流石に申し訳ないから作り直してる。

 それと、ライナーたち4人の分。誰かしらは部屋にいて、いつも雑談相手になってくれるから、俺はすっかり4人にも慣れてしまった。シロはちょっと嫌そうな素振りをしてたけど、俺の交友関係が広がること自体はいいことだと思ってくれてるみたい。



「神子様の一番は僕だから!!」



 なんて可愛い嫉妬を口にしながら頭突きされたから、思う存分撫で回させてもらった。シロはやきもちまで可愛い。


 後は単純に、お守りが不足してる気がしたんだよね。戦闘中、分担して戦うなんて本当によくありそうだもんな。お守りがないから別動隊を出せなくて全滅しました、なんてシャレにならない。数はいくらあってもいいと思う。むしろ、トラ以外の人たちはよく無事だったよ、本当に。



「神子様のお守りって、そうやって作ってるんですね」



 今日、一緒にいるのはエルストだ。なんとなく、本当になんとなくだけど、トラの獣人たちの中でマルクスの次に偉い感じがする。で、たぶんマルクスよりもしっかりしてる。知り合って間もないけど、俺の中では頼りになる人ランキングですでに上位だ。

 ちなみに一位は不動のシロです。これは仕方ないのです。


 最近は、まずはお守りの側を大量生産してから、中身を作って、一気に加護を込める、っていう方法をとってる。日によって何をやるかは違うから、毎日俺の傍にいるシロじゃないと全部の工程はわからない。

 エルストは今日やっと、全部の工程を見終わったところだった。


 出来上がったお守りを手に取って、ふぅーん、と何か唸ってる。



「お守りを握って神聖力を込めてるように見えますが、あってます?」



「たぶん」



 数をこなして、ウーヴェに効果を見てもらって……を繰り返すうちに、自分でもなんとなく出来がわかるようになってきた。今エルストが見てるのは、神聖力を込めるのにちょっと失敗した奴。失敗しても後で重ね掛けできるのはわかってるから、そのまま置いてある。

 エルストは不思議そうにお守りを見てから、じっと俺を、正確には俺の手を見つめてきた。



「手でものに神聖力を込めれるなら、人にも手渡しできないんですか?」



「……………………なるほど!?」



 確かに!! 口移し嫌だもんな!? 俺だって嫌だ!!

 マルクスの時は練習してる暇なんてなかったけど、今なら時間もあるし、試すだけならタダだ!!

 お守りを置いて、エルストに向かって両手を差し出す。



「ちょっと手を貸してくれない?」



「どうぞ」



 これで迷いなく差し出してくるんだから、言い出した俺がびっくりするよ。実験台みたいなものなんだけど。でもまぁ、たぶん、怪我するようなことはないはずだ、たぶん。

 俺の顔よりも大きな手を、両手で握りしめる。お守りにするようにぎゅっと握って、いつもと同じように願ってみた。


 エルストが呪いになんて負けませんように。呪いなんて全部はじき返して、ホルストと仲良く過ごせますように。


 いつもお守りにしているのと似たような願いだ。両手は少しずつ温かくなってきたけど……なんか違う感じがする。



「……無理かも」



「でもちょっと光ってましたよ」



「んー……でも無理そう」



 神聖力が光るのは慣れてきたけど、今は無理だと思う。出来るときは出来ると思うけど、そう思わないときは出来ないんだよね。まぁ、ただの勘でやってるから、当たり前だけど。

 あれ? ってことはだよ?



「練習すればできる、かも?」



 勘じゃなくて、ちゃんと練習すればいいだけなのでは? 今まで考えたことなかったけど、そういうことなのでは?

 俺のひらめきに答えてくれたのは、じっと成り行きを見守ってくれていたシロだった。



「神聖力の練習するなら、ルディにお願いするといいよ」



「ルディ?」



 ゾウの? 未だにあんまりちゃんと話したことない人だ。


 マルクスやヒューイはいいんだよ。元の世界では猫耳とか犬耳はカチューシャがあったし、背中に羽が生えてるのも天使様って感じで、そんなに違和感なかった。コスプレによくありそうだしね。

 でもルディの見た目はちょっと違う。耳が動物耳なんだけど、ゾウなんだよね。マルクスたちみたいに頭の上じゃなくて、俺と同じような場所にゾウの耳が付いてる。で、流石に本物のゾウほどじゃないけど、ちょっと大きい。逆に尻尾はシュッとしてるから、アンバランスだよね。

 ちなみに鼻は長くない。人の顔でゾウの鼻は流石に怖いので、シュっとした顔つきでよかった。


 まぁ、見た目なんてこの世界じゃ細やかな問題だ。獣人たちから見れば、俺こそ正体不明だろう。この世界にサルがいるかどうか知らないけど、なんとなくいない気がするし。

 ただ俺が見慣れないっていうだけ。他にもゾウの獣人たちはいるだろうし、慣れれば違和感もなくなると思う。


 そう、慣れれば、だ。ルディはあんまり俺の部屋に来ない。たまに見かけたらみんなとは普通に話してるから、俺が嫌われてると思ってたんだけど……

 お願いなんて、聞いてもらえるのかな?



「あんまり話したことない」



 人見知りするタイプじゃないけど、嫌われてるなら話しかけたくない。そう思ってちょっと駄々を捏ねるみたいに言えば、シロは安心させるように穏やかな声で教えてくれた。



「大丈夫、大人しい人だから。ヒューイとも仲がいいから、気になるならヒューイ経由でもいいと思うよ」



「そもそもなんでルディ?」



「ゾウのナワバリには神殿があるんですよ。神子様に力を貸している創世神様を奉る神殿です」



「そーせーしん」



 また来たぞ、初めての単語。

 オウム返しが棒読みになってしまった。だけどお陰で俺が知らないことを、エルストも気付いたみたいだ。



「……白猫、神子様に説明は?」



「ヒューイがしてたと思うけど、神子様はこの世界に来てすぐの頃だったからね。混乱してて、それどころじゃなかったんじゃない?」



「「なるほど」」



 一回聞いてるけど、右から左に聞き流したんですね、俺。ごめん、ヒューイ。

 エルストと言葉が重なって、お互いの視線が合う。そしてエルストは「仕方がないなぁ」とでもいうかのように眉根を下げて、教えてくれた。



「この世界を作ったのが創世神様です。創世神様は海を作り、大地を作り、空を作り、森をつくり、様々な動物を作ったと言われています。その中で魔力を持つものが生まれはじめ、それが我々の祖先になると言われています」



「ほー」



 言葉の通り、この世界を創った神様なわけね。

 あれ? ってことはだよ?



「呪いも神様が?」



「いえ、創世神様は世界の基礎を作った後は、この世界から立ち去り、どこか遠くから見守っておられるそうです。呪いはその後に自然発生したと考えられています」



「自分たちのことは自分たちで、ってことだよ。でも獣人たちだけじゃどうしようもなかったのが『呪い』と『魔王』で、見かねた創世神様が神子様を遣わしてくれた、って言われてる。神子様は獣人たちを支えて、魔王を倒したんだって。もうずっとずっと昔の、神話みたいな時代の話だけどね」



「神話? もう数百年どころじゃないくらい昔、ってこと?」



「うん。だから僕たちが知ってることも、全部が全部正しくないかもしれない」



 なるほど! 正しくあってほしくないこともあるもんな!! セックスで呪い解除とか、間違って伝わったに全ベットだ!! 賭けるものないけど。

 なんとなく神様のことはわかったつもりになったけど、それと神殿が何の関係があるんだろ?

 そんな疑問は顔に出たらしい。エルストが答えを教えてくれた。



「神殿は神話の時代に建てられた、と言われています。もしかしたら神聖力の使い方についても、何か残っているかもしれません」



「なんでそんなものが、王都じゃなくてゾウのナワバリに?」



「王都は比較的新しい場所ですからね。ゾウ以外のナワバリにあったら、群れ内のいざこざで壊してたと思いますし」



「…………」



 なるほどなるほど。時代が違うのか。それに、確かに肉食獣っぽい怖い人たちの中に残しておくのは駄目だな。それなら気性の穏やかな獣人たちの住み処にあるのが正しそうだ。

 ゾウやルディが本当に気性が穏やかなのかどうかは、ちょっとわからないけど。


 でも興味は出てきた。力の制御方法を知る意味でも、一回行っておきたいな。



「ちょっと頼んでみるよ」



「いい成果がでるといいですね」



 うん、そうだね。その時はちゃんとエルストに一番に……いや、一番はシロとして、二番目には教えてあげよう。

 それに俺にとっては2回目の外出の機会だ。1回目と違って勉強が目的ではあるけど、ちょっと楽しみ。

 俺がそわそわしてるのが分かるんだろう。シロもエルストも微笑ましそうに俺を見てることに気付いたけど、気付かなかったことにした。








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