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11.拉致監禁コースは嫌!






 マルクスやヒューイたちのやり取りを聞きながらも、シロのお陰でなんとか冷静さを取り戻した俺。

 マルクスを怒鳴ったり、詰め寄ったり、何か他にもいろいろしてたヒューイたちも一段落したみたいで、ひょいと俺の顔を覗き込んできたのはウーヴェだった。



「聞いていいです?」



「……なに?」



「神聖力を返した、っていうのは、本当ですか?」



 ああ、それか。そういえば、神聖力を返してもらったからか、体のだるさが抜けてる。思ってたよりも、俺にとっても大事な力なのかもしれない。


 マルクスも光ってたし、隠すことでもないと思って頷けば、ウーヴェが「まじかぁー」なんて言いながら額を手で覆った。

 え、何? 何かまずいことでもあるの?

 わからなくてシロを見上げるけど、シロはシロでマルクスのことを睨みつけてる。



「……あんた、回復魔法で回復したの? それとも、神聖力で回復したの?」



 は? 神聖力で回復? なんのこと?

 シロの視線を追いかけて、俺も同じようにマルクスを見る。そしたらバチリと視線が合って、マルクスはずっと俺を見てたことにやっと気が付いた。

 そして信じられないことを言い放つ。



「神聖力だ」



 ……わっつ? 神聖力なの?

 いや、でも、あの時、ヒューイが回復魔法かけてたのは俺も見たぞ。気のせいなんじゃないかと今度はヒューイを見れば、なんでかこっちもこめかみ辺りを指で押さえて、難しい顔をしてた。



「手応えがないと思ったんだ……」



 回復魔法にも手応えなんてあるんだ? ちょっとみんなが何言ってるかわからない。

 その上だよ? トラの人たちまで、よくわからないことを言いだした。



「そういえばボス、起きるなりベッド壊してたな」



「グラスやドアもな。自分でびっくりしてた」



「あったあった。力を制御できない化け物みたいな顔してて、面白かったよね」



「「わかる」」



「お前らは黙ってろ!!」



 マルクスが怒ってるけど、何それちょっと気になるじゃん。あとで詳しい話を聞いてみよう。

 俺としては楽しい話に聞こえたんだけど、ヒューイとウーヴェには全然違う話に聞こえたみたい。真剣な顔をしてると思ったら、



「神聖力は、我々の能力を底上げする力がある……?」



 なんて呟くものだから、やっと俺も驚くことができた。


 そういえばこの世界にきた頃、ヒューイの説明を聞いて、バフ要員の聖職者みたいなものだと思ってたな。呪いを祓うって聞いてヒーラーなのかも、なんて思ってたけど、やっぱりバフ要員なのか?

 なんだかよくわからないなぁ。だけど、マルクスは肯定するように重々しく頷いて、



「おそらくな。その上、神聖力が直接守るから、あの状態で呪いにやられるとは思わない。お守りとやらの加護なんて目じゃねぇ」



 へー、そうなんだ。まぁお守りに込めてる力の大元みたいなものだもんね。そういうものなのかもしれない。



「……それを貴方は返した?」



「ああ」



 ……呪われない上に強くなるなら、持ったままでもよかったんじゃないか? 俺は寝れば回復するし、お守り作る手間が省けるし、棚からぼた餅みたいなものじゃん。どれだけ効果が続くかは知らないけど。

 俺としてはそう思うんだけど。なんでかマルクスが胡乱げな目を向けてきた。



「この深刻さ、わかってるか?」



「強くなって呪われもしないなら、調査にはちょうどいいだけだろ」



「はぁ……」



 何だよ、その態度は。立て続けに「呆れました」みたいな反応されると、温厚な俺でも頭にくる。ついさっきまで「忠誠を誓う」なんて殊勝そうなこと言ってたくせに!

 説明を求めてシロを見れば、シロもまた不安そうな顔をしてた。



「シロ?」



 流石にシロがこんな顔をしてると、俺も不安だ。

 手を伸ばせば、少しだけ躊躇った後にすり寄られる。いつも通り撫でれば、ぐりぐりと額を押し付けてきた。



「シロ? どうした?」



「……例えば、例えばだよ。神子様にすっごくすっごく好きな人がいるとするね?」



「? うん」



 なんだなんだ。急な例えだな。

 そう思うけど、シロの例え話はまだ続いた。



「その人が神子様をどう思ってるかはわからないけど、嫌われてないことは確実でね。ご飯作ってくれたり、挨拶代わりにキスしたりするような仲だとしてね」



「それはもう恋人なのでは?」



「でもそう思ってたのは神子様だけ。その人、他の人ともキスしてるんだよ。神子様はそれを目撃しちゃうの」



「最悪じゃん」



「だよね。だけどね、神子様には財力も権力も腕力もあって、その人一人を無理やり連れてきて閉じ込めて自分だけが愛でる、なんて簡単にできちゃうとしたら、神子様どうする?」



「……………………」



 一気に不穏度が上がったんだけど。え、もしかして、俺、そういう意味でピンチなの?


 だって獣人たちは俺のことを好きになりやすいって前に言ってた。俺はご飯は作らないけど、神聖力に置き換えると話は変わる。能力底上げできるって、好感度更に爆上がりしそうじゃん。

 でも、その方法は今のところキスだけだ。で、俺はたぶん、目の前でマルクスみたいに呪われてる人がいたら助けたいと思うだろうから、人工呼吸をする姿を見られることになるだろう。

 人命救助だとしても、ちょっと面白くない気持ちはわかる。


 マルクスを見れば、重々しく頷かれた。ヒューイとウーヴェを見ても、大体同じ反応だ。

 この人たち、財力も権力もある上に、俺よりも圧倒的に腕力もあるんだよな。その気になれば、俺なんて抵抗らしい抵抗も出来ずに捕まるだろう。つまり俺の意思とは無関係に、拉致監禁コースに入れるってことだ。

 いや、俺ならいくら力があってもしないよ。しないけどね。この世界、俺の常識が通用しないんだよな。


 ということで、念のため確認しておこう。



「…………獣人って、そういうことするの?」



「「「「する(します)」」」」



「こっわ!!!!!!!」



 大合唱で言わないでくれ!! めちゃくちゃ真実味があるじゃん!!!!


 やっとみんなの懸念が分かって、体が震えた。思わずシロにしがみつけば、シロもシロでぎゅうと俺を抱えて丸くなる。



「お守りはいいとして、神子様の神聖力のことは内緒にした方がいいと思う。神子様一人手に入れたら無敵状態なんて、何考えるかわからないやつ絶対にいるよ」



 ぜひそうしてほしい。拉致監禁コースなんて、絶対にごめんだ!!

 ぶんぶんと首を縦に振ったら、ヒューイも同意してくれた。



「その方がいいですね。念のため、この場にいる者は秘密契約を結びましょうか」



 ぶおん、とヒューイの周りに魔法陣みたいなのがいくつも浮きあがった、と思ったら、俺以外の全員の顔の前に同じものが現れた。



「神子様の秘密を守れる者は魔法陣に血を。契約を結べない者はこの場で殺す」



「こっわ!!!!」



 俺の前で物騒なこと言わないでほしい!! ヒューイ、もしかしてもしかしなくても、結構血の気が多いな!?


 思わず震えたけど、みんな迷うことなく自分の指に牙や爪を立てて傷を作り、魔法陣に触れていく。もちろんヒューイもだ。シロはどうするんだろうと思ったら、口の中を切ったみたいでぺろりと魔法陣を舐めていた。

 全員が触れたら、魔法陣が赤く染まって俺の前に移動してきた。え、何? と疑問に思う暇もなく、ばらばらと解けてただの線と文字になって俺の胸へと入ってくる。



「うえええええ!?」



 なにこれなにこれ!? こわいこわいこわい!!

 思わずシロに縋りついちゃったけど、みんなが平然としてる様子からするに、悪いものじゃなさそうだ。いや、でも何なんだよ、今の。

 魔法を吸い込んだ胸のあたりをぺたぺたと触ってみるけど、もちろん何もない。体もおかしい感じがしない、と思うんだけど……説明を求めるようにヒューイを見れば、



「神子様を基点にさせてもらいました。神子様が許可を出せば話せるように」



 あ、そういうこと。他の人に説明が必要になった時に、俺が上手く話せるとも限らないもんな。俺の事なんだから、俺が許せば話せるっていうのは納得だ。変なことじゃないならいいや。

 でも気になってることが一つある。



「あのさ、マルクスと同じ状態になった人がいても、治さないほうがいいってこと?」



 だって、俺は今回、マルクスを治しただけだ。神聖力の事なんて考えてないし、効果だって知らなかった。

 そうしなければ助けられない、と思ったからやっただけ。それに、目の前に助けられる人がいるとわかっていたら、助けたいと思うだろう。

 でもそれは、こんな物騒な契約を結びたいって意味じゃない。命を助けたら命を懸けた契約させられる、ってどんな悪徳詐欺だよ。俺なら人間不信になる。悪徳宗教だってもっと優しいだろう。


 恐る恐る聞いた言葉に、返事をくれたのはマルクスだった。



「だから俺たちの忠誠を受け取れ」



 え、そこに話が戻るの? なんで?

 疑問は顔に出たと思う。今度はマルクスじゃなくて、えっと……そうだ、ライナーって名乗ってた人が、俺のすぐ前までやってきた。



「貴方が何も気にせず好きなことができるよう、俺たちに守らせてください」



「……はわ」



 すごい。こんな漫画みたいなこと、まさか本当に言われる機会があるなんて思わなかった。思わず変な声が出たし、呆けてしまった。

 たぶんすっごい間抜けなことになってると思うんだけど、ライナーは朗らかに笑ってくれる。



「俺たち、こう見えても頼りになりますよ。ボスからもお守り出来ますし」



「おい」



 なるほど、そういうこと。マルクスは嫌そうな顔をしてるけど、こんなの笑わずにはいられるか!



「あっはっは! そ、それはいいねぇ!」



 笑ってるから言葉が震える。だって、マルクスにさっきみたいなことをされても、この人たちが引きはがしてくれる、ってことでしょ。いや、そもそもされないように、かな。俺にとってはそっちの方が嬉しいな。

 それに「ボス」って言ってるってことは、上司ってことだよね? 多分俺が思ってるよりも、ずっとずっと信頼関係のある上下関係だとは思うけど。

 だからこそ、なのかな。そのマルクスよりも尊重してもらえる、って言うのは……ちょっと気分がよさそうだ。


 笑いながらベッドから降りて、ライナーの前に立つ。ライナーは膝をついてるけど、それでも俺とほとんど視線が変わらない。マルクスよりは低いと思うけど、俺にとってはもう誤差だ。高すぎて羨ましいとも思えない。

 だけど今のこの体勢は話しやすい。手を差し出したら、よくわからないという顔で、俺と手の間を視線が泳いでる。



「握手ってこの世界にはない?」



「握手、ですか?」



 お、知らないのか。まぁ肉球ついてる手の人もいるもんね。なくてもおかしくないか。



「俺の世界でね、『よろしくお願いします』っていう友好の挨拶なんだ。忠誠とか命とかはいらないけど、仲良くしてくれることは嬉しい」



 ライナーはパチパチと目を瞬かせたけど、すぐに俺の言いたいことを理解したんだろう。ぱっと表情を輝かせたと思ったら、恐る恐る俺の手に自身の手を重ねてきた。

 はは、ぎこちない。だからこそ、俺は気にせずぎゅっとライナーの手を握る。



「これからよろしくお願いします」



「! はい、よろしくお願いします!!」



 ライナーも握り返してくれたけど、強すぎてちょっと痛い。まぁ、これくらいは許容範囲だ。

 ぶんぶんとライナーと握手をして、俺は少し離れたところにいるアルヴェルとホルストのところへと向かう。



「二人もよろしくお願いします」



 ライナーの時と同じように手を出したら、



「「はい!!」」



 アルヴェルはすぐに手を握り返してきた。ホルストのほうは服で手を拭いてから、弱々しい力で握手してくれる。すごいな、握手一つで性格がわかるみたいだ。

 うん。この人たなら、仲良くなれそう!



「昨日、もう一人いたよね?」



 たぶん、俺を呼びに来てくれた人がいないと思う。折角ならあの人とも仲良くしたいと思って聞けば、



「俺の兄弟のエルストですね。ボスがいろいろ壊したせいで、後始末に駆け回ってます」



「あー……」



 なるほど、マルクスのせいか。可哀想なエルストさん。

 ん? でも、兄弟?



「みんなチィーガルって言ってなかった?」



「チィーガルは群れの名前です。ボスの群れのトラは、みんなチィーガルを名乗ります」



 へー、家族の名前じゃなくて、群れの名前なのか。ってことは、血が繋がってるわけじゃないのね。こんなところも違うんだ。

 じっと目の前のホルストを見る。この人、雰囲気からしていい人っぽい。ってことは、きっとエルストさんもいい人なんだろうな。



「エルストさんも仲良くしてくれるかな」



「それはもう。むしろ、俺たちだけで神子様に会ったことを知ったら、ブチ切れるでしょうね」



「内緒なんだ?」



「朝からずっと出掛けてるんですよ。ボスのせいで」



 なるほどなるほど。全部マルクスのせいってことね。俺、やっぱりこの人たちとは仲良くできそうだ。

 マルクスが奥で色々と叫んでるけど、全無視してホルストたちとお話しする。シロやヒューイたちも加わってマルクスの失敗談に花が咲き始めれば、あっという間に時間は過ぎていく。


 俺はとんでもなく強い味方を手に入れたのかもしれない。やったね!!











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