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第4話 隣の席の生徒会長

「な……なんだと!!!」


 案の定、翌日俺と花宮が隣同士で座っているのを見た涼は、出会ってから一度も聞いたことのないような叫び声を上げた。


 やっぱり次の日、涼が俺と花宮が隣に座ってるのを見て、こいつと知り合ってから一度も聞いたことがない叫び声をあげたんだ。


「おい翔太!一体どうやったんだよ!」


「あはははは……」


「誤魔化して済む問題じゃねえぞ、この野郎!昨日までお互い知らなかったのに、なんで一晩明けたら隣に座ってるわけ!?」


 涼……頼むから頭掴んでブルンブン振らないで……頭、クラクラする……


「……花宮さんも何か言ってやってくれよ」


 こんな時は、隣にいる“原因”の一人に頼るしかない。


 でも、彼女は俺と涼をちょっと見ただけで、何も言わずにまた本を読み始めたんだ。


 でもよく考えてみれば、もし彼女が「自分から隣に座りたいと言った」なんて口にしたら、大騒ぎになるに違いない。


 そうなれば、道を歩いているだけで他の男子たちに殺されかねない……


 明日の学園ニュースのトップ記事は、「本校の男子生徒、生徒会長の隣の席になったことが原因で惨殺される」みたいな報道になるだろう……想像するだけで背筋が凍る。


 はあ……こいつに頼りにするのは無理みたいだな……




「もういいだろ涼。花宮さんは俺に勉強教えるために隣に座ってるだけでさ、お前が思ってるようなことじゃないんだよ」


 正直に答えたんだけど、涼の顔を見ても、嫉妬なのか怒りなのか、さっぱりわからなかった。


「はぁ……俺の翔太が生徒会長様に奪われちまうよ……」


「誤解されるようなこと言うなよ!しかも俺、ホモじゃねえし」


「ってことは、生徒会長様に奪われたってのは本当ってことか?」


「本当なわけないだろ!」


 ……もう完全に言い訳できない。


 昨日まで花宮と全然知らなかったのに、今日突然勉強を教えに来るなんて、そりゃ誰だって俺と彼女の間に何かあったと思うよな。


 あ、確かに俺と彼女は『取引』したようなものだけど……でも今、本当に涼に話すべきなのか……?


「ねえねえ~教えてよ翔太~どうやったら彼女ができるんだよ~」


「気持ち悪いこと言うな。それに俺と花宮さんはやましい関係じゃない。これ以上しつこくするなら、飯は奢らないからな」


『奢る』という言葉を聞いた瞬間、涼はパッと元気になり、俺の肩に腕を回してきた。




「思い出したぜ、昨日賭けをしたんだったな。翔太、何奢ってくれるんだ?ステーキ屋?それともピザ屋?あー、寿司食べに行くのもいいなあ!」


「高いのばっか選ぶとか、お前なあ……」


 おいおい、表情の変わり方が本をめくるより早いってか……さすがは涼……




「あなたは、加藤くんだよね?」


 長らく沈黙していた花宮が、ようやく俺たちの会話に加わってきた。これで少しは息がつける。


 花宮に呼ばれた瞬間、涼はとても紳士的なお辞儀をした。


 俺から見れば明らかに演技……


「はい、生徒会長様。私が星野翔太の友人、加藤涼です」


 うわぁ、気持ち悪い。この瞬間、こいつと絶交したくなった。


 しかし、隣の花宮は涼のキモい行動にまったく反応せず、いつもの、みんなの前で見せるだけの無表情を保っていた。


 昨日の花宮のあの顔、私だけが会ったことがあるのではないでしょうか……


 あ、違うわ。それってちょっと自惚れすぎか……花宮だって友達の一人や二人くらいいるだろ。親しい人の前では表情豊かになるのかもしれない。


「加藤涼くん……あ、記憶によれば成績も良かったわね。毎月の定期試験でも上位にランクインしているのをよく見かけるわ」


「おおおお!生徒会長に覚えてもらえるなんて光栄です」


 頼むからその時代遅れの貴族みたいな話し方はやめてくれないか、涼……俺と一緒にいる時はまともな人間たぶんなのに。


「不思議ね。あなたは成績が良いのに、星野くんの成績はちょっと言葉に詰まるレベルよね。どうしてかしら?」


 そう言って、彼女はわざと俺の方をちらっと見た。俺は恥ずかしくてうつむくしかなかった。




「あいつね、興味あることにしか本気出さないんだよ。しかも自称『シングルタスクの戦士』なんだぜ」


「『シングルタスクの戦士?』」


「俺が説明しよう。シングルタスクの戦士ってのは、一度に複数のことを処理できなくて、何かをする時は一つのことにしか集中できないってことだ。そうしないと全部中途半端になっちまうんだよ」


 これが良いことなのか悪いことなのかわからないが、とにかく小さい頃から二つのことを同時にやろうとすると、いつも両方とも失敗に終わっていた……


「なるほどね」


「ところで、生徒会長はどうして翔太に勉強を教えようと思ったんだ?成績が悪いのはこいつだけじゃないだろ」


「それなら星野くんに説明してもらおうかしら。あ、普段は花宮って呼んでくれていいわよ」


「え?俺が説明するの……って、痛たたた……」


「どうした、翔太。便秘みたいな顔して」


「いや……何でもない、あはは……」


 何の予兆もなく、腰に鋭い痛みが走った。


 花宮が、俺の腰をつねっている……痛い……


 つねりながら、彼女は目で合図を送ってきたが、そんなことをされても俺には何の意味かさっぱりわからない!


 仕方ない、彼女の考えを推測するしかない……


「あのさ……実は……昨日お前が帰った後、花宮さんがまだ教室にいたから、彼女は成績が良いだろ?だから彼女にお願いして……あ、痛たたたた……」


 今度は太ももをつねられた。花宮の力は想像以上に強い……


 もしかして、言い間違えたか?


「俺から花宮さんのところに行って、勉強を教えてほしいって願したんだ……」


 あれ、痛みが消えた。ちらっと横を見ると、花宮がこっそり満足げな表情を浮かべていた。


 彼女はそんなに主導権を気にするのか……昨日自分から俺のところに来たくせに……


 でも今彼女に逆らえば、俺の平穏な日々(元々ないけど)も終わりを迎えるだろう……




「へえ、翔太がそんなことするなんて全く想像できないな。彼が言ってることは本当か、花宮?」


「本当よ。昨日私の前で長い時間土下座されたから、見かねて引き受けたの」


 顔色一つ変えずに嘘をつくのは、生徒会長の必須スキルなのだろうか……


 しかも『土下座』なんて言葉を使って……俺をあんなに卑屈に描写するなんて、ただでさえもろい俺の心がさらに深い傷を負ってしまった。


 これって、昨日ちょっかい出したことへの仕返しってわけ?


「花宮は本当にお優しいですね。そんなお願いまで聞いていただけるなんて。翔太、あなたは幸せ者ですね」


 彼女につねられている時に、お前が『優しい』なんて言葉を言えるかどうか試してみたいよ……


 ※  ※  ※


 昨日予想した通り、俺と花宮が隣の席になったことは学校のトップニュースになった。


 新聞部が大々的に宣伝しなくても、俺と花宮が一緒に座っていれば、全校生徒の視線を集めるのは当然のことだ。


 さすが美少女生徒会長の人気だなあ……


 花宮にとって注目されるのは日常かもしれないが、オタクの俺にはこんな待遇を経験したことがない。


 でも、一番嫌なのは……花宮と隣の席になったせいで、携帯ゲーム機ができなくなったってことだよな!


 本来なら退屈な学校生活もゲーム機のおかげで乗り切れていたのに、今では嫌でも授業を聞かなければならない。


 ああ、まったく、なんて苦しい人生なんだ……


 ※  ※  ※


「さっきの数学の授業、何か分からないところはあった?星野くん?」


「全部わかった、全部わかった」


 口ではそんなこと言ってるけど、実際は授業中ぜんぜん聞いてないで、ずっとボーッとしてたんだ。


「本当に?じゃあ、ちょっとテストしてみようかしら」


「結構です!お願い!授業全然聞いてませんでした本当にごめんなさい次は気をつけます!」


「もう……そうなると思ってたわ。もう一回だけ教えてあげるから、よく聞いて。これからは最初から教え直すなんてことしないからね」


 え……こんなに早く許してくれるの……


「なにその顔。何をそんなに緊張してるのよ。私だって鬼じゃないんだから。それに……私たちには取引があるんだし、後であなたに頼まなきゃいけないこともあるんだから」


 彼女は少し身を乗り出し、俺たち二人にしか聞こえないように声を潜め、それからかすかに微笑んだ。




 可愛い……


「可愛い……」


 しまった!心の声が漏れてしまった!


「え……バババババ、バカ、何言ってるのよ!急に褒めるのやめてくれない……私……私、全然嬉しくなんかないんだから……そうやって私を褒めたところで、あなたの勉強を放っておいたりしないからね……」


 彼女は顔をそっぽに向けたので、表情が全く見えなくなってしまった。ちょっと残念。


 幸い今は昼休みで、教室には俺と花宮以外みんな食堂へご飯を食べに行っていたため、この生徒会長の別の顔を見られたのは俺だけだった。


 涼と一緒に飯を食べに行かなかった理由。あいつの言い分は『節約のため』。また一人で購買に昼食を買いに行って、おそらく新しい楽器か何かを買おうって考えてるんだろう


「でも……」


 花宮はまだこちらを向かないまま、再び口を開いた。


「ありがとう……」


「え、何か言った?」


「何でもない!はい、問題の解説続ける!」


 花宮の様子、もう大丈夫そうだったから、俺もおとなしく続きを聞くことにした。


 ただ、花宮の教え方は本当に丁寧で、今まで分からなかったところも彼女の指導で一気に視界が開けるような感覚があった。個人的には先生の授業より分かりやすいと思う。


 もちろん先生をけなしているわけではない。先生は生徒全員に気を配らなければならないからだ。




「どう?これで分かった?」


「うん、大体理解した。君、意外と教えるのが上手いね」


「褒めすぎです、先生には敵わないよ」


「いやいや、花宮さんは先生の素質があると思うよ」


「そう……あ、もうこんな時間!ごめんなさい、遅くまで引き止めちゃって。私、先にご飯行ってくるね」


 俺が返事をする間もなく、彼女は小走りで教室を出て行った。


 本当はヒロインのことについて聞きたかったんだけど、あんなに急いでいる様子なら、また時間がある時にゆっくり話すしかないな。


 確かに、もうお昼の時間だ。何を食べようかな……


 少し考えて、節約すべき時は節約しようと思い、涼と合流することにした……


 ※  ※  ※


「アルバイト?」


「うん、そう。アルバイト」


「生活費が足りないの……?」


「まあ、親も外で働くの大変だし、生活費くれって頼むのも悪いしな。だから自分で稼いでるんだよ」


 実際は両親から定期的に生活費は送られてきているが、自分の欲しいものを買うには、やはり自分で稼いだお金を使う方が現実的だ。


「そうなんだ……じゃあ、早く帰った方がいいわね。遅刻したら大変だし」




 教室のドアを出た直後、背後から誰かに引っ張られるのを感じた。


「花宮さん、どうしたの?」


「……はい」


 彼女は俺に一枚の紙切れを差し出した。そこにはきれいな字で一行の番号が書かれていた。


「私のLineの連絡先。もし分からないことがあったら、これで聞いてね。友達追加するときは、ちゃんとあなたの名前を書いておいてね。そうじゃないと、受け付けないから」


 彼女、なかなか細かいところまで考えてるんだな……


 俺は紙切れをポケットにしまい、彼女に向かって頷いた。


「他の人には絶対に私の連絡先を教えないでよ。たとえあなたの友達の加藤くんでもダメだからね」


「わかった、わかったよ」


 こんなに早く彼女の連絡先を手に入れるなんて、花宮を好きな男子連中が知ったら嫉妬で俺を殺したくなるだろうな……


 彼らにバレないことを祈ろう……


 そう思いながら校門を出て、アルバイト先へ向かった。

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