ほくほく野菜と溶けるバター
今日の夜食は、シンプルに。
ルイはじゃがいも、玉ねぎ、にんじんを取り出した。
じゃがいもは敢えて皮を剥かずに、十字に切れ込みを入れる。玉ねぎはぺりぺりと皮を剥き、人参はしゅりしゅりと包丁で同じく皮を剥く。
じゃがいもと玉ねぎは丸ごと、人参は適当な大きさに切って、用意しておいた蒸し器に入れて、蓋を閉める。しゅんしゅん、と蒸し器がたてる優しい音に目を細めながら、ルイは茶葉の入っている棚を開けた。ハーブティーにしようか、と伸ばしかけた手を止めて、その隣の缶を手にする。
(渋みの少ない、スッキリとした味わいの方が良いだろう)
蓋を開ければ、馥郁たる香りが鼻をくすぐった。それを楽しみながら茶葉を温めておいたポットに入れ、湯を注いで蓋をして蒸らす。
しゅんしゅん、と蒸し器がたてる音を聞きながら、ルイは思う。
もう過ごしやすい季節になったものだな、と。ついこの間までは、暑くて仕方がなかったというのに季節の巡りというものは早い。
そういえば年を取ると時間が経つのが早く感じるらしいが……いやいやまだそんな年じゃないだろう、とルイは首を軽く振った。
もうそろそろ良いだろうと蒸し器の蓋を取れば、ふわり、と白い湯気が顔を撫でる。そこにある食材たちも、またほこほこと湯気をたて、色濃く蒸しあがっていた。
崩れないように皿に盛り付け、そこにバターを一欠けら。熱でたちまちにとろけたバターが、食材へと沁み込んでその肌を伝い落ちていく光景がたまらない。
紅茶をカップに注げば準備万端だ。
「いただきます」
手を合わせて、カトラリーを手に取る。
まずはじゃがいも。十字の切れ目からナイフを入れれば、そこからまたバターがじわりと溶けて溢れた。
口へ運ぶと、まず舌を刺すような熱さが襲う。それに慣れると、じゃがいもの素朴な味とほのかな甘みが感じられた。それがほくほくと崩れたところで、バターの濃厚なコクがとろりと絡み、まろやかな旨味が口腔内を満たす。
バターの芳醇な香りが鼻へ抜け、じゃがいもの素朴な風味と甘みをさらに引き立たせてくれた。ほんのりした塩味が、もう一口、もう一口、と食べたくなってしまう程の美味しさに、拍車をかけている。
次は玉ねぎ。ナイフが何の抵抗もなく、すうっ、と通っていった。それを追いかけるようにバターが零れて、透明な肌に黄金色の筋を作る。
ほろりとほどけたそれを、一口。最初に感じたのは、玉ねぎのとろりとした濃厚でいて澄んだ甘み。それにバターの濃厚なコクとまろやかな塩味が絡まり、深い旨味が広がっていく。
噛む度にじゅわりと玉ねぎから甘い汁が溢れ出し、溶けたバターがその甘みを柔らかく引き立てていた。後味は軽やかだが満足感があり、玉ねぎの瑞々しさとバターの豊かな香りが長く残る。
最後に人参。湯気をまとったそれは、橙色が色濃くなり、ナイフを入れるとすっと通る程に柔らかい。
一口頬張ると、まず広がるのは人参本来の素朴で優しい甘さ。蒸したことで水分をたっぷりと含んだそれはしっとりとなめらかで、噛むごとに自然な甘みがじんわりと溢れた。
そしてバターの豊かなコクと芳醇な甘みが、その旨味をさらに引き立てる。野菜の青々しさはほのかに残しつつ、バターの塩味が全体を優しく包み込んで、後味は酷くまろやかだ。
人参の優しい甘さとバターの濃厚な旨味がゆっくりと溶け合い、ほっと心がほどけるような余韻が残った。
紅茶に口を付ければ、クセのない味わいがバターで濃厚になった口腔内を心地よくさっぱりせてくれる。思惑通りだ。
「ごちそうさまでした」
きちん、と手を合わせて、食器を持って立ち上がる。
これからはますます寒くなるばかりだ。
雪が降るような地域ではないが、越冬対策はきちんとしておかなければな、とルイは食器を洗いながら思いを巡らせた。
(終)




