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ルイ・デリシュー伯爵の夜食録  作者: 柊


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4/5

串焼きとレモンスカッシュ

 最近は暑くなってきた。

 冷たいものが欲しいが、あえてピリッと辛いものを食べたくなる時期でもある。辛いものを食べることによって、体温と気温の差が広がり涼しく感じるらしい……なんてことはさておき。


 夏祭りももうすぐだな、と心中を切り替える。

 開催自体は領民たちが仕切ってくれるが、屋台の配置や舞台の出し物などの書類には目を通す必要がある。安全に問題はないか、それを確認するのは領主の役目だ。それに当日もハメを外すものがいないか、トラブルがないかを確認しなければいけない。


 ……そのついでに領民たちが勧めてくれる、屋台の食べ物に手が出てしまうのは仕方ないだろう、と自己弁護してしまう。

 特に好きなのは、串焼きだ。牛も豚もいいが、中でも好きなのは鶏肉。

 それに歩きながら食べられる、という貴族らしからぬ背徳感にも似たそれも堪らない。それもまた、美味しさを引き立てているのだろう、とルイは思う。


 そして。


 ルイは鶏肉、そして串を取り出した。

 鶏肉を手頃な大きさに切って、串へと刺す。それを2本作ったところで、1本には香辛料を、もう1本には塩を適量振っておく。

 そして油を敷いたフライパンへと並べれば、じゅううっ、と良い音をたてた。

 ぱちぱちと良い音が鳴るのを心地よく思いながら、今度は茸と香草を取り出して、こちらも手頃な大きさに切っていく。別のフライパンに今度はバターを溶かし、茸と香草を炒める。ふわり、と広がる甘い香りに鼻を鳴らしながら、ある程度炒めたところで塩胡椒を振りかけつつ、鶏串をひっくり返す。じゅわじゅわ、ぱちぱちと鶏から滲み出る油が奏でる音、そして香辛料の香りがバターと混ざり合い、思わず顔が綻んでしまう。

 しんなりとしたところで、茸と香草を皿へ。そしてこんがりと焼けた鶏串も皿へと盛り付ける。


(何か飲むものが欲しいな。紅茶より、ここは炭酸系の……)


 取り出したのはレモンスカッシュの瓶。それはよく冷えていて、水滴が瓶を滴り落ちていた。


 カシュッ


 小気味よい音をたてて蓋を開ければ、レモンの爽やかな香りが広がる。

 とくとくとグラスに注げば、しゅわしゅわと炭酸が昇ってぱちぱちと音をたてた。


「いただきます」


 手を合わせて、ほんのりと熱い串焼きを手に取る。

 本当は一つずつ外して食べる方が行儀が良いのだろうけど、ここは思いっきりかぶりつきたい!


 衝動のままに、ルイはこんがりと焼きあがったそれに、大口を開けてかぶりついた。柔らかな皮がぷつりと弾け、肉からじゅわりと熱い肉汁が溢れ出す。そして鶏本来の旨味が口いっぱいに広がり、思わず目が細められた。

 程よく振りかけられたスパイスはぴりりと舌を刺激し、鶏肉の旨味をさらに引き立たせ、噛むほどに脂のコクと旨味が溢れていく。


 そして、すかさずレモンスカッシュに口を付ける。

 まずレモンの爽やかな香りが広がり、ぱちぱちと炭酸が弾けた。炭酸の心地良い刺激がしゅわしゅわと喉を通り、焼き鳥の脂で少し重くなっていた口の中が、すうっと洗い流される感覚が堪らない。


 さっぱりとしたところで、もう一串。

 こんがりと焼けた皮はパリパリ。鶏肉からはじゅわりと肉汁が溢れ、鶏本来の旨味と共に、程よく振られた塩はシンプルながら肉の甘みを引き立て、噛む程に脂のコクと鶏肉の旨味が重なって、思わず頬が緩んだ。


 レモンスカッシュで一気に喉を潤した後は、茸と香草の皿へとカトラリーを向ける。

 立ち昇る湯気からは芳しいバターの香りと、香草の爽やかな香りが混ざり合って、鼻を心地よく潜った。

 茸を口へ運べば、まずバターの芳醇な香りと濃厚なコクが広がり、歯をたてるとぷりっとした弾力と共にじゅわり、と旨味たっぷりの汁が溢れ出す。噛めば噛むほど旨味と風味が広がり、それを香草の清々しい香りが静かに引き締めていた。程よく効いた塩胡椒が素材の味を引き立て、焦げ目のついたところからは芳ばしさが鼻へ抜けていく。濃厚でありながら後味は軽く、もう一口、もう一口とフォークが止まらない。


 そしてまたレモンスカッシュを煽り、はあ、と息をつく。


「ごちそうさまでした」


 きちん、と手を合わせてから、食器を片付ける。

 今年の夏祭りはどのようなものが出るのだろう。出来れば全店制覇したいけれど、それはさすがに無理だ。


 じっくりと吟味しないと、とルイは思いながら食器を綺麗に拭いてから棚へとしまった。


(終)

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