串焼きとレモンスカッシュ
最近は暑くなってきた。
冷たいものが欲しいが、あえてピリッと辛いものを食べたくなる時期でもある。辛いものを食べることによって、体温と気温の差が広がり涼しく感じるらしい……なんてことはさておき。
夏祭りももうすぐだな、と心中を切り替える。
開催自体は領民たちが仕切ってくれるが、屋台の配置や舞台の出し物などの書類には目を通す必要がある。安全に問題はないか、それを確認するのは領主の役目だ。それに当日もハメを外すものがいないか、トラブルがないかを確認しなければいけない。
……そのついでに領民たちが勧めてくれる、屋台の食べ物に手が出てしまうのは仕方ないだろう、と自己弁護してしまう。
特に好きなのは、串焼きだ。牛も豚もいいが、中でも好きなのは鶏肉。
それに歩きながら食べられる、という貴族らしからぬ背徳感にも似たそれも堪らない。それもまた、美味しさを引き立てているのだろう、とルイは思う。
そして。
ルイは鶏肉、そして串を取り出した。
鶏肉を手頃な大きさに切って、串へと刺す。それを2本作ったところで、1本には香辛料を、もう1本には塩を適量振っておく。
そして油を敷いたフライパンへと並べれば、じゅううっ、と良い音をたてた。
ぱちぱちと良い音が鳴るのを心地よく思いながら、今度は茸と香草を取り出して、こちらも手頃な大きさに切っていく。別のフライパンに今度はバターを溶かし、茸と香草を炒める。ふわり、と広がる甘い香りに鼻を鳴らしながら、ある程度炒めたところで塩胡椒を振りかけつつ、鶏串をひっくり返す。じゅわじゅわ、ぱちぱちと鶏から滲み出る油が奏でる音、そして香辛料の香りがバターと混ざり合い、思わず顔が綻んでしまう。
しんなりとしたところで、茸と香草を皿へ。そしてこんがりと焼けた鶏串も皿へと盛り付ける。
(何か飲むものが欲しいな。紅茶より、ここは炭酸系の……)
取り出したのはレモンスカッシュの瓶。それはよく冷えていて、水滴が瓶を滴り落ちていた。
カシュッ
小気味よい音をたてて蓋を開ければ、レモンの爽やかな香りが広がる。
とくとくとグラスに注げば、しゅわしゅわと炭酸が昇ってぱちぱちと音をたてた。
「いただきます」
手を合わせて、ほんのりと熱い串焼きを手に取る。
本当は一つずつ外して食べる方が行儀が良いのだろうけど、ここは思いっきりかぶりつきたい!
衝動のままに、ルイはこんがりと焼きあがったそれに、大口を開けてかぶりついた。柔らかな皮がぷつりと弾け、肉からじゅわりと熱い肉汁が溢れ出す。そして鶏本来の旨味が口いっぱいに広がり、思わず目が細められた。
程よく振りかけられたスパイスはぴりりと舌を刺激し、鶏肉の旨味をさらに引き立たせ、噛むほどに脂のコクと旨味が溢れていく。
そして、すかさずレモンスカッシュに口を付ける。
まずレモンの爽やかな香りが広がり、ぱちぱちと炭酸が弾けた。炭酸の心地良い刺激がしゅわしゅわと喉を通り、焼き鳥の脂で少し重くなっていた口の中が、すうっと洗い流される感覚が堪らない。
さっぱりとしたところで、もう一串。
こんがりと焼けた皮はパリパリ。鶏肉からはじゅわりと肉汁が溢れ、鶏本来の旨味と共に、程よく振られた塩はシンプルながら肉の甘みを引き立て、噛む程に脂のコクと鶏肉の旨味が重なって、思わず頬が緩んだ。
レモンスカッシュで一気に喉を潤した後は、茸と香草の皿へとカトラリーを向ける。
立ち昇る湯気からは芳しいバターの香りと、香草の爽やかな香りが混ざり合って、鼻を心地よく潜った。
茸を口へ運べば、まずバターの芳醇な香りと濃厚なコクが広がり、歯をたてるとぷりっとした弾力と共にじゅわり、と旨味たっぷりの汁が溢れ出す。噛めば噛むほど旨味と風味が広がり、それを香草の清々しい香りが静かに引き締めていた。程よく効いた塩胡椒が素材の味を引き立て、焦げ目のついたところからは芳ばしさが鼻へ抜けていく。濃厚でありながら後味は軽く、もう一口、もう一口とフォークが止まらない。
そしてまたレモンスカッシュを煽り、はあ、と息をつく。
「ごちそうさまでした」
きちん、と手を合わせてから、食器を片付ける。
今年の夏祭りはどのようなものが出るのだろう。出来れば全店制覇したいけれど、それはさすがに無理だ。
じっくりと吟味しないと、とルイは思いながら食器を綺麗に拭いてから棚へとしまった。
(終)




