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ルイ・デリシュー伯爵の夜食録  作者:


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3/3

チーズが溢れるその瞬間

 乳製品は料理に欠かせないものの一つだと思っている。


 牛乳はそのまま飲むのも良いが、紅茶に入れたり、果物と混ぜてジュースを作ることも出来る。料理に使えば旨味とコクを出す調味料にもなるし、加工すれば主役にもなる。菓子などは言うまでもない。


 このように多大なポテンシャルを秘めている乳製品を、ルイは無性に食べたくなる時がある。


 普段の食事にも毎日のように乳製品は使われているが、それとは別に『乳製品に塗れた』ものを食べたいのだ。


 しかし以前、さらにプラスして『甘いもの』を食べたくなった時、ボウルにいっぱいのホイップクリームを抱え込むようにして食べていたところを、厨房を覗いた料理人に見られて声にならない物凄い悲鳴をあげられてからは、さすがに自重している。さらにちょっとした騒ぎとなり、料理人から「甘いものが食べたいのなら仰ってください」と懇願され、「わざと行儀悪く食べる背徳感みたいなものも味わいたかったんだ」と思ったが余りにもアレだということは分かっていたため、口に出さずに素直に謝罪した。


 閑話休題。


 それを思い出したことにより、なんだか乳製品を使ったものが食べたくなってきた。

 だが今日は甘いものという気分ではない。

 それなら。



 取り出したのは、ほうれん草とベーコン、卵にもちろんチーズ。


 まずはほうれん草とベーコンを切り、卵と牛乳、塩胡椒をかしゃかしゃと混ぜておく。

 フライパンにオリーブオイルを敷いて、ほうれん草とベーコンをぱさぱさと投入して炒める。じゅわじゅわと水分と油が弾ける音を聞きながら、しんなりしてきた頃を見計らって、一端皿へ。


 次に卵を投入し、掻き混ぜながら熱していく。ぷちぷちと卵が弾ける音に口元を緩ませながら、ある程度固まって来たところでたっぷりのチーズを入れて、先程炒めたほうれん草とベーコンも入れる。そして卵をフライパンの端に寄せながら具材を包み、とん、とん、と揺らしながら形を整える。

 芳ばしい香りに目を細めつつ、フライパンを皿にひっくり返せば出来上がりだ。


 椅子に座って、きちん、と手を合わせる。


「いただきます」


 焦げ目一つない、綺麗な黄色の肌にナイフを入れれば、すうっ、と静かに下りていく。

 出来た切れ目をフォークで広げれば、とろり、とチーズが溢れ出て、色鮮やかなベーコンとほうれん草が姿を見せた。たちまちに強くなる甘い香りに、ルイは目を細めながらフォークで掬って口へと運ぶ。


「……っ」


 半熟気味の卵がとろりと滑らかに舌へと降りた。そしてチーズのコクと混ざり合い、心地良く口腔内を満たしていく。そこへベーコンの塩気と香ばしさが重なり、味にぐっと深みが出るのを感じた。


 ほうれん草は僅かな歯ごたえを残しつつ、ほのかな甘みと瑞々しい風味で、濃厚な卵とチーズを優しく引き締めてくれる。噛む度に、じゅわり、と肉の旨味が舌先を刺激し、まろやかなチーズのコク、卵の優しい甘みが混ざり合って、どこか懐かしさを感じさせる味わいに、ルイはうっとりと目を細めた。


 黒胡椒をかければ、ぴりり、とした刺激が舌を刺して、また違った味わいになり、ケチャップをかければ酸味と柔らかな味わいが食欲を刺激する。


 さらに焼いておいたバゲットに乗せて一口。バゲットの芳ばしさを感じたのも束の間、卵の柔らかなコクとチーズの濃厚な味わいが舌へと降りた。噛む度に卵の甘みとチーズの塩味、そして小麦の香りが混ざり合って鼻へ抜けていく。バゲットのざくざくとした食感が、オムレツのとろとろな食感を引き立てて、思わず頬を押さえてしまう程に美味しい。卵とチーズの濃厚さとバゲットの芳ばしさが交互に押し寄せ、最後にほんのりと塩気が余韻として残った。


「ごちそうさまでした」


 きちん、と手を合わせて、ふう、と息を吐く。


(ああ、美味しかった……)


 満足げに腹を摩って、天井を見上げる。


 ああ、そうだ。明日は酪農の視察に行くのだった。

 だから乳製品の口になってしまったのかもしれない。


 ルカはそんなことを思い出しながら立ち上がり、食器を洗い場へと持っていった。


(終)

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