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ルイ・デリシュー伯爵の夜食録  作者:


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2/2

夏を待つトマトスープ

 今年のトマトの収穫量はどうだろうか、とふと考える。


 昨年、籠に山積みにされたトマトは壮観だった。太陽光につやつやと光る赤い肌は、ほんの少し触るだけで弾けそうに新鮮だ。


 「領主さまもいかがですか?」と川水に浸されていたトマトを礼を言いながら受け取れば、それはよく冷えていた。

 滴る雫もそのままに、大口でかぶり付けば、皮がぷつん、と弾けて中からひんやりとした果肉がじゅわりと溢れる。最初に瑞々しく柔らかな甘みが広がり、すぐに青い香りと一緒にきゅっとした酸味が舌を柔らかく刺した。しゃしゃくと噛むたびに果汁が溢れて口腔内を満たし、種のまわりのとろりとした食感と対照的なのが楽しい。

 後味は大地を思わせる自然な青さが少しだけ残り、さっぱりと消えていく。

 

 良い出来だな、と褒めれば、ありがとうございます、と壮年の農夫は嬉しそうに、それでも誇らしげに笑った。

 あの笑顔が今年も見られると良いが、と何となく思う。


 昼は汗ばむくらいに暑いが、夜になるとまだ肌寒い。それにトマトのことを考えたせいで、すっかりトマトの口になってしまった。


「よし」


 そう声をあげながら、ルイはそっと椅子から立ち上がった。



 取り出したのは、ベーコン、玉ねぎ、キャベツにニンニク、そしてトマト缶。バゲットもあったから、これをお供にしよう、と考えつつ、まずはベーコンを一口大に切っていく。野菜も同じく一口大に。

 だけど具材感を強くしたいから少し大きめに、と、とんとんと包丁を手際よく動かす。ニンニクは潰して細かく刻む。


 オリーブオイルを敷いた鍋に、まずはベーコンを投入。じゅううっ、と油が弾ける良い音が響いた。漂う芳しい香りにも目を細めながら、しばらくの後ひっくり返せば、良い焼き色が付いている。

 その後にはニンニクをぱさりと投入。ぱちぱちと跳ねる油とニンニク、そして香りに鼻を鳴らしながら炒めていけば、ベーコンが良いキツネ色になった。

 そして玉ねぎ、キャベツをぱさぱさと入れていく。野菜から水分が出て、じゅわじゅわとさらに良い音を奏でた。

ベーコンの脂を絡めるように炒めれば、玉ねぎは白くなり、キャベツと共に良いツヤを纏う。


 ブイヨン、塩、白ワインを入れてまたしばらく炒めてから、トマト缶の中身をどーん、と入れる。一気に華やかになった見た目に口元を緩ませながら軽く掻き混ぜて、水を加えて蓋をする。


 その間にバゲットを準備。ざくざくと必要な分だけ切り離してスライスし、フライパンで軽く炙る。良い焼き色がついたところで、お皿へ。


 鍋の蓋を取れば、ふわり、と白い湯気があがる。くつくつと鳴る音と光景に、ごく、と喉が鳴った。

 トマトの赤に混じって野菜とベーコンがごろごろと入っているそれを器に盛り付け、バゲットの皿と共にテーブルへと置き、椅子へと座る。


「いただきます」


 手を合わせて、スプーンで掬い上げて口へと運ぶ。


「……っ」


 まず感じたのはトマトのほのかな甘さと酸味。そして玉ねぎとキャベツが溶けだした自然な甘さが溶け合った。そしてベーコンの脂の旨味が加わることで、コクのある味わいが口の中へ心地良く広がる。

 大き目に切った玉ねぎとキャベツは食べ応えがあり、柔らかく煮込まれたそれは優しく口の中で蕩ける。ベーコンは噛んだ瞬間肉の旨味が溢れ出て、思わず頬が緩んだ。

 身体の芯からじんわりと温かくなるその感覚に、ほう、と息が零れる。


 こんがりと焼けたバゲットを浸して食べれば、外はカリカリのまま、染みこんだトマトスープがじゅわりと溢れ出し、とろりとした食感が舌に伝わる。パンの芳ばしさの後から野菜の甘みとトマトの酸味がじゅわ、と広がった。

 そのまま食べるのとは違った味わいに、ルイはその赤い瞳を恍惚に潤ませる。


「……美味しかった」


 食べ終えて、ふう、と息を吐いて、食器を洗って片付け、火の後始末。


 厨房の灯りを消して、自室への廊下を余韻に浸りながら歩いていく。


 今年の収穫量が楽しみだ、と改めて思いながら。


(終)

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