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ロシアン ルーベッド  作者: 楠本 茶茶(クスモト サティ)
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第28部分 横取り

第28部分 横取り


 不思議なもので、シアワセでも不幸でも、たとえ何をしなくても腹は減る。オレが三軒隣のコンビニエンスストアへ食料を買いに出たところで、

『いやぁ、奇遇ですね』


 南風原だった。


「まさか、出待ちじゃないですよね」

南風原は答えなかった。


『先日の話、考えていただけましたか。連絡先を渡していなかったので』

「南風原さん御存知ですよね、帝北ホテルのこと」

『なにやら大変なようですね。これじゃ先行き不安かと』

「もしかして、南風原さん…」

そこまでは考えたくなかった。

『なんです?』

「いや、タイミングが、ね」

『あははは、考え過ぎですよ』


 たしかにオレは大物ではない。ただ、帝北ホテルの大きな収入源と名声を潰し、そこ五月雨ホテルが入り込むことが充分考えられた。

「南風原さん、じゃとりあえず名刺はいただきます」

オレは周囲を意識して、やや大声で申し出た。オレは五月雨の手先ではないし、情報も漏らしてはいないからだ。

「たしかに次の就職を考えなきゃいけないですからね」


『ああ、私から連絡しますよ、必要な方ですから』

オレに名刺を渡しながら彼が言った。

『月見里さん、電話番号を教えていただけますか』


 オレは自分の番号を小声で告げ、コンビニに行きかけた…が振り向いて南風原に近づいた。もっと小声で

「南風原さん、もしもチームになるなら隠し事は困るな」


『なんのことです?』

「今日は出待ちでしたよね」

『はい』

彼は笑って答えた。


「もうひとつ、あの騒ぎの死者の《叔父さん》て、五月雨さんと無関係ではないですよね」

オレは思い切ってカマを掛けてみた。二秒ほど虚ろな目をしたあとで彼は苦笑いした。


『味方ならお答えします。たいした推理、お見事です』

やはりか… しつこすぎると思ったよ。


『さすがです。それでこそヘッドハンティングの価値があるというものです。こりゃ参った、じゃあ、もう決まりみたいなものですが、念のために明日電話しますね』

オレも敢(あ)えて拒絶はしなかった。


 レジ袋を下げて侘(わび)しいアパートの部屋に帰ると、電子レンジで好みの加減に温め直したスパゲティカルボナーラを啜(すす)り、唐揚げを齧(かじ)り、例のヨーグルトを貪(むさぼ)りながらこれからの生活戦略を独り考え続けた。


 南風原と一緒に働くのも悪くはないか。そう悪いやつじゃなさそうだし。


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