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ロシアン ルーベッド  作者: 楠本 茶茶(クスモト サティ)
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第26部分 葬儀の争議

第26部分 葬儀の争議


 すべては終わった。


 …つもりだった。しかし、まだまだ終わってはいなかったのだ。この書き出しは2度目だが、気にしないでほしい。実際そうだったのだから。


 もうおわかりだと思う。オレにとっての騒動は収束し、生活も安定してレナとの将来も約束されたも同然だったのに…


 きっかけは、かねて危惧(きぐ)されていたことだった。死者の叔父が、死体の喉元と顔にも傷があることに疑問を抱き、身体の傷跡を発見して騒ぎ始めたのである。そういうことになっているが、この葬儀の死者は、すこぶる付きの評判の美少女で、実はS階の儀式の犠牲者だった。傷があったのは事実だったが、おそらくはスケベ根性で服をめくってみたに違いない。

 

 火葬待ちのため、葬祭会社の一室で死者を守るための一夜、夜間の家族の隙をついて服の中を改めたのであろう。死者は翌日の会葬を行う予定の部屋に安置され、家族はその近くの一室で夜を過ごす。トイレに行くフリでもすれば、彼一人で死者と対面する時間は充分に作ることができるのだ。


 通常の検死では有り得ない狼藉(ろうぜき)の痕(あと)を見て、彼女の叔父が騒ぎ始めたのである。

『病死のはずなのに、なぜ乳房が切除され、腹が三か所も切られているのか』


「まあまあ、これもきっと検死だよ」

と宥(なだ)めても、

『警察がこんな検死をするか? 警察でなければ、誰がやったのだ』

家族はまともに答えることができなかった。そりゃそうだろうが…


 家族はS階の実情を当然知っている。


 死者はいわゆるメンヘラ、昔でいう精神分裂病傾向の強い患者で、いつも『死にたい』と口にしており、週三ペースのリストカットに本気の自殺未遂四回という、いわく付きの少女だった。家族も諦め気味で、無理して大金を支払い、もちろん父母が付き添ったうえでホテルに少女の運命を試したのだった。


 そこには二つの祈りが込められていたという。一つは死のルーレットに当たった時、このときは本人の希望どおり死なせてやろう。二つには他人の「死」を見てからの「彼女の内心の変化」を期待してのことだった。二つ目の狙いは見事に外れ、一層死に憧れを抱くようになってしまったのだ。残るは一つしかない。四部屋から一部屋を選ぶ本選で、彼女はわざと大きく的を外したように見えた。


 彼女に決まった。


 彼女が美女であったことは紹介した。とびきり金持ちの男が、とびきり高額の報酬で死ぬ前の彼女を「自由にすること」を提案した。どうでも良かったのだろう、彼女は提案された額を1ケタ上げた上で承知した。莫大なカネが動き、S階の中では裕福とはとても言えない父母に「彼女の生きた証としてのカネ」を遺(もこ)すつもりだったのだろう。


 金持ち男は彼女を存分に犯したあと、美しい肉体を幾筋にも切り裂き、得意げに死の導師をも務めた。

その後得意気に内臓を分別して切り分けてトレイに載せ、仕舞いには切り裂いた乳房と膣と肉片でオナニーまでてみせたというから尋常の精神ではない。


 大量の麻薬と痛み止めを処方された彼女に痛みは無い… むしろ本望であるかのように見えたという。そうして…彼女は死んだ。しかし切り裂かれた痕は遺っていたのである。


 家族は答えに詰まったものの、ホテルとの約束を守って叔父を宥め、そのまま葬儀を続けようとした。叔父はいったんその場を去り、電話で警察に問い合わせた。


 問い合わせを受けた電話口の警察官は、何も知らなかった。話はそこから正規のルートに進み始めた。



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