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ロシアン ルーベッド  作者: 楠本 茶茶(クスモト サティ)
25/34

第25部分 ヘッドハント

第25部分 ヘッドハント


 すべては終わった。


…つもりだった。しかし、まだまだ終わってはいなかったのだ。


 ちょっと面白い仕事に就き、レナとも結ばれる寸前で、これぞ人生絶頂期ってな時期である。永く続いてほしい「平和」だったが、ある日帰宅する途中、突然名指しで声を掛けられたのだ。


『失礼ですがヤマナシさん、ちょっとお時間いただけますか?』


 オレの苗字は「月見里」であり、漢字を見てもまず「よみ方」は当たらない。しかもオレは普段「タク」としか呼ばれないから、苗字で呼ぶヤツはほぼいないのだ。これはオレを事前に調査してから来たヤツだ…


 直感したオレは、逆に聞いてみた。

「その前に… 失礼ながら、どなたかに紹介していただきました?」

『いえいえ、申し訳ありません、飛び込みです』 軽く頭を下げ、続けた。

『わたくし、五月雨(さみだれ)ホテルの南風原(はえばる)と申します』 と名刺を差し出した。


 まだオレは話さない。


『月見里(やまなし)様は帝北ホテルにお勤めですよね。相談があるのですが、お時間頂けますか』

「調べたんですね。まあいいや、付き合いましょう、三十分だけですよ。

『ありがとうございます、お茶だけでも御馳走させてください』

すぐ近くのファミレスを目で指して彼が言った。


 早い話が、いわゆるヘッドハンティングというアレだった。オレは小者だが、誰かにウワサを聞いたようで、先日の事件をかなり知っている口ぶりだった。

『ウチの社長が気に入ってるから是非一度おいでいただきたいのです』

続けて

『入社しなくても良いから、せめて話だけでもしてみたい』

と言うのである。さらに、


『もし入社してくれるなら、給料は今の倍出そう』 だそうである。


 オレは断った。

「もし行ったことが帝北ホテルに伝わると、私の立場が無くなりますので」

『それはそのとおりですね』 南風原は逆らわない。

『仕方がなければ、電話か、ビデオ通話でも良いのですが、いかがです?』

「ふふふ。それもたいして変わらないですよ。ふふふ、ウワサは怖いです」

『ははは、それもそうですね。わかりました』 


 ちょっと改まると

『これから話すことは口外しないでいただきたいのですが…』


 オレは手をあげて話を遮った。

「いや、ははは、口はヘリウムガス並みに軽いんですよ、だからこれで失礼します」

五百円玉を机に置いて、オレは席を立った。


『あ、それは困ります』

言いかけるのを無視して、オレは店を出た。


 正直、自分が認められたようで、ちょっと嬉しかった。

しかし…給料の話は美味しそうだが、それはオプションであるに過ぎない。本当の目的はおそらく…帝北ホテルの「ロシアンルーベット」の二番煎じを企画しているに違いない。理由は… 他に思いつかなかったからだ。おそらくはそのノウハウを聞き出し、差別化したプランを作りたいのだろう。


 明日、出社したら報告しておこうと考えた。オレに声が掛かるということは、他にも可能性はあるのだし、すでに誰かにアプローチしている可能性も充分にあるはずだからだ。


 ところが翌日出社して2時間ほど経った頃から、やにわに社内が落ち着きを失いだしたのである。特に偉い方々が顔面蒼白でヒソヒソ電話で話している。


 何だろう、おかしい… まだ、南風原(はえばる)の件の報告はしていないのに。



ここまで御愛読いただいた方々、ありがとうごさいます。

誠に申し訳ございませんが、ちょっと手を広げ過ぎてしまいまして… テヘ

今後しばらくは「ゆっくりペースで」投稿させていただきます。

必要な方はブックマークしておいてください(新着情報が入るようですので。)


今後ともよろしくお願いいたします。

                   楠本 茶茶     

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