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ロシアン ルーベッド  作者: 楠本 茶茶(クスモト サティ)
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第21部分 同化

第21部分 同化


 不思議なことに… これで万事丸く収まってしまった。つまりオレの提案は受け入れられ、オレもサブチーフに昇格して働いている。同僚の中村は、未だにあのときのオレは怖かったと笑うことがある。


 オレはオレで、いつまでもハンターに狙われたくはない。奴らだって、オレみたいな小者を追いかけるのに、多額の費用と人手を掛けるのはバカらしい。結局双方に利益があれば、ヒトは手を結べるのだ。


 そしてもうひとつ、笑いの止まらないメリットが転がり込んできた。それは…

そう、レナである。こうしてオレとレナは晴れて自由に話せる身になったのだ。


 すべてが落ち着いたあと、アタシが知ってる分だけよとことわってから、ミナが死んだあの日のことをレナが話してくれた。レナが居た場所は、あの日のS階ロビーである。ワイングラスやタンブラーを傾けて談笑が弾む。ちょっとした社交場のムードが自然に漂っている場所だ。


『あんなにしてしまうの、ちょっと惜しかったんじゃないか』

『ふふふ、今日はなかなかの上玉だったね』

『あはは、久しぶりに劣情を催(もよお)したよ。あのあとね、ガールをコールしてしまったよ』

『うふ、あんたもかい。道理で今夜は出払ってますと断られたわけだ』

『あのカラダ、傷つけずにワシのものにしたかったな』


『ちょっとやり過ぎだったよ、それにしても… あれは』

『赤ちゃんはさすがに、な』

『ヤツには「美」というものがわかっとらん、やっぱり。特におっぱいの、な』

『うむ。あのバストトップは見事だった。惜しいなぁ』

『同感だね。しかも腸も心臓も美しかったぞ。私は肺の美しさに感動した』


『わたくしはね、あの横隔膜と胎児を焼いて食べてみたいと思ったよ』

『小生(しょうせい)は、あそこまで腹を開くことはないと思う。やはりあの年頃は外見だよ、うん』

『惜しかったな。きょうこそ権利を行使すれば良かった。後悔してるよ』


『アナタ何言うの、アタシという美人が隣に居るのに…』

『そうは言うが、もうおまえじゃピクリとも反応しないのさ』

『ま、失礼な。でも私でも触れて見たくなるような肌だったわ、口惜しいけど』

『そうね、私だって若い頃なら負けなかったわよ。今は完敗だけどさ』

『ははは、自分で認めてどうする? 今夜はワシが…おっと失礼、ガールが来るからね』


 ミナが亡くなった、あの日のホテルS階。社交場にしては、物騒すぎる会話が弾んでいた。話題をさらったのはもちろんミナだった。S階の大部分のヒトがミナの死に様を見物に出掛けたという。レナは涙をこらえて、部屋の隅で祈りを捧げていた、という。


 あの日、白羽の矢が立ったのはミナの部屋だった。一日ごとに部屋番号が変わるという軽部の話は本当だったのだ。同じ部屋でないと引っ越しばかりが多くなり、長く暮らすには不便である。そこで部屋は同じにしておいて、部屋番号をシャッフルするのだという。ただそれではルームサービス等に支障が出るので、一つの部屋には、旅館のように二つの呼び名があるのだそうだ。例えば、S一階の最も東の部屋の名前は「東風(こち)」であり、本日の部屋番号は「S87」です、というようなことになる。


 ふと思い出して聞いてみた。「ほおおお」ってあった? レナは美しく微笑んだ。きっと「鳳凰(ほうおう)」の間のことじゃないって。オレは「ほ~おおおっ」と感心して見せるしかなかった。


 では、部屋番号は何のためにあるのか。


 それは… 犠牲とでもいうのか、夜のショータイムの生贄(いけにえ)を提供する部屋を指定するためにある、というのだ。なるほど、ただ住むだけならその辺のホテルでも老人介護施設でも構わないはずだ。


 全室分の部屋番号は毎朝五時五十分にホテルのコンピュータがシャッフルして決めるが、まだ発表はしない。六時になると昨日の予選を第一位で勝ち抜けた部屋の代表が、任意の四つの部屋番号を選び、コンピュータに入力する。コンピュータは六時十分、その両方を同時に発表するのだ。少しでも時刻に遅れれば、昨日予選第一位の部屋が強制的にエントリーされるのだが… これもスリルの一つになっており、結構ギリギリまでわざと入力を遅らせるのが流行りなんだとか…

 だから、前日第1位勝ち抜けの部屋が、またまた自分の部屋を確率 4/100 で選んでしまうこともある。そして8時からは、選ばれた4つの部屋から代表が出て、弓矢かエアガンを選び、厳正な勝負をする。


 勝ち残るためには、的の真ん中に1ミリでも近く当てるしかない。勝負に負けた部屋には即座に監視が付く。その部屋からは必ず1名の生贄(いけにえ)を出すというのがS階のルールなのだという。みんなが生贄になることを理性的に承知しているのなら、なんかそれでもいいじゃないか… という気もしてきた。


 この世のものとは思えないルールだった。 

こうしてオレも毒されていくんだなぁ… 


「何の目的なのさ」

思わずレナを問い詰めてしまった。

『S階のヒトはね、なんかもうブッ飛んでるのよ、考えが』


 しぶしぶレナが語り始めた内容をまとめて紹介してみよう。途中で胸糞が悪くなったら、読むのを中断してほしい。


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