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古きもの、愛しきもの、座敷童子の花嫁〜ストレスフルな日常の手芸屋店員ですがイケオジ座敷童子に溺愛されています〜  作者: TYOUKO


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7/26

7 嫁、ということなので

 今日の出勤、午後からで良かった……。


 店長が毎回組んでくれるシフトのランダムさ加減に感謝してしまうのはもう仕方ない。

 昨日は結局、浴槽の白衣が片付くのに結構時間がかかった。なので春華がお風呂に入れたのは深夜。疲れ切っていたから早めに休みたかったのにそういうわけにもいかず就寝時間がずれ込んだ。

 そして春華の場合、睡眠時間の確保は死活問題なのだ。睡眠不足で動こうとすると決まって体調が悪くなるので。

 そんなわけで朝は少しゆっくり寝て、その後動き始める。


「ひいらぎ屋にまず寄ってから行こうかな」

 部屋の片隅に置いてある紙袋にはひいらぎ屋で売り物として出すつもりの手作り品がいくつか入っている。

 今日は朝からのんびりしてしまったので昼食の準備ができていない。


 ……たまにはパン屋さんに寄ってパンでも買って公園で食べる、というコースでもいいかな。

 普段は節約も兼ねて、仕事ならお弁当、公園で食べるなら軽食を手作りしているけど今日は買って食べて、その後出勤という計画を立てる。バタバタしているわけではないので珈琲だけ淹れて持参することにして。



 そんなこんなでひいらぎ屋。

 そしてすっかり忘れていたけど「嫁」という「肩書き」がある身だった。


「いやぁ、良かったですねぇ」

 あからさまに満足げな柊が、二人に視線を送る。

 二人。

 もちろん、ヒスイと春華。

「あ、ああ……まぁ……ありがとな」

 どことなくおどおどしながらヒスイが柊に答え、春華はなんとなくそわそわしながら自分用に作られているコーナーに持ってきた作品を並べたりディスプレイを調整したりして誤魔化している。


「肩書き」だからね。肩書き。別に実質上の嫁になったわけじゃないからね。


「で、結婚式はいつやりますか?」

「は?」

「ええ?」

 柊の楽しそうな問いかけにヒスイと春華が同時にぐるん! と柊の方を向く。

「え、だって嫁認定済んだんですよね。それなりの式を用意しないと。女性にとっては特にこういうの大事でしょう? 一生に一度の結婚式なんだしきちんとしないと可哀想ですよ」

 何を今さら、とでも言いたげな柊に春華が絶句。

 そして、ヒスイの方は。

「あ……そうか……俺さえよけりゃなんでもいいって訳じゃなかったか……」

 と頭を抱えてしまった。

 で。

「あ! いいんです! 私のためならやらなくても! 私、結婚式に憧れとかありませんから!」

 と勢いよく春華が声を上げた。


 そう、「私のため」ってことなら本当にやらなくていい!

 結婚式とかって本当に意味がわからないと常々思ってたのだ。

 花嫁衣装って基本的に動きにくそうだし目の前にご馳走並べて食べられない新郎新婦ってなんの拷問よって思う。あ……相手がヒスイの場合ドレスじゃなくて着物かな……となるともはや被り物……ああもうムリ。化粧だってとんでもない濃さになるわけで……特殊メイクじゃん、とか思う。

 世界中の花嫁を敵に回すとは思うけど……いや、他の人が可愛い花嫁さんに変身するのは全くもって構わない。心から祝福することだってできる。ただ、自分がこっ恥ずかしくてできないってだけ。


「ええー……春華さんのウエディングドレス、見てみたいんですけど」

「……ドレス……?」

 柊が残念そうに呟き、ヒスイがボソリと疑問符を投げるので。

「着ませんよ、あんなコスプレ」

 温度ゼロ度で却下すると柊が目を丸くした。

「そもそも、ヒスイと結婚すると言っても披露宴で誰かを呼ぶとか婚姻届を出すとか一般的な結婚式にまつわるあれこれは一切できないでしょう?」

 思いつくままに春華が捲し立てる。


 だって妖怪相手の結婚だ。

 戸籍なんかないだろうから入籍ってできないだろう。それに披露宴。百歩譲って私の親族や友人はいるとしても新郎の方の招待客って誰よ。柊さん……は良いとして、残りは全員妖怪仲間です、とかになっちゃうんじゃないの? あ、妖怪仲間……それはそれで楽しそうだな……いやでも、むしろそれなら新婦側の招待客いらないよね。となると、どっちにしても不自然な結婚式じゃん。やる必要ない。


 と。

「……すまない。普通の女はそういうの大切にするもんだったな」

 ヒスイがやけに肩を落としている。

「ええ! いやいやいや! 大丈夫です! 私、そういうのに夢を見るタイプではないので!」

「ヒスイ、良かったですね。稀に見る規格外な唯一の女性が春華さんでした」


 ……規格外。

 なんか色々失礼な気はするけど、ここはそういうことにしておこう。

 と、春華がにっこりと笑顔を作った。


「で、新居なんですけど」

 トントンと話を進める……というか進めようとする、柊に。

「はいっ?」

 思わず春華が声を上げた。


 新居って言った?

 新居って……新しい住まい、のことだよね?


「え、嫁が新婚早々別居するわけにいかないでしょう?」

 柊がしれっと続け、ヒスイがすいっと視線を逸らした。


 ……うん?


「なので、うちの蔵を提供しようかと思いまして」

「え、蔵……?」

 ヒスイの方にツッコミを入れようと思ったところだったが、思わぬ言葉に春華の好奇心が勝った。

「そう、蔵。あそこ、今のところ中身は割と少なくなってるんです。で、業者に頼んで中をリフォームだかリノベーションだかしたら良い感じに生活できる程度に出来上がりそうなんですよね。最近はああいう建物をカフェにして使う人も多いらしくて」

「ええええええ!」


 なにしろ、柊家の蔵。

 実は春華にとっては密かに憧れの場所だったのだ。

 ひいらぎ屋の商品は、実はその蔵に溜まっている古い家財道具の類を出品しているのだ。

 柊の祖父が溜め込んだあれこれをこの代で整理を兼ねて売り捌いている。ちなみに柊の家は元々資産家だったらしく巽本人は若い頃はともかく今は働かなくとも生活できる程度に蓄えがあるらしい。で、あとは亡き祖父の持ち物を心ある人に使ってもらうように、という父の遺言に従ってひいらぎ屋でそれらを売るという商売を、気の向くままに行なっているという事らしい。

 そんなわけで。

 古い物が大好きな春華は、ひいらぎ屋の店で見られる古道具や古い家具だけでも眺めていて幸せになれるところが、大元の蔵があると知った時からいつかその蔵を見てみたいと思っていたのだ。


 ……今の話の流れ……私はもしかしてそこに住んでいいってことになるのかな?

 なんなら……あわよくば……そこにあるお宝の管理、みたいなことが出来ちゃったりしないかしら?


 もはや目的を間違えた方向で目がきらりと輝く春華に柊が満足げに頷いて。

「ですよね。ほらヒスイ、規格外だって言ったでしょう? これで名実共に嫁取りができるというわけです」


 ……ん?

 あれ? なんか、今私、罠にハマったりした?

 と、春華が我に返ると。


「まぁ……春華が良いならそれはそれで。どっちにしてもまだ出来上がってないんだからすぐにこっちに移るってわけじゃないんだしな」

 決まり悪そうにヒスイが付け足す。

「そうなんですよね。できるなら明日からでもどうぞ、って言いたいところですがリフォームに結構時間がかかりそうでして」

 と、柊が付け足す。


 あ……え……私、本当にこっちに引っ越してくるの?

 いや、え、そんなの急に言われても。


「いや、あのね、今住んでるところってそう簡単に引き払うわけにはいかないのよ? ああいうのって退去する三ヶ月前くらいに申し出るとかきまりがあったと思うし、それに今一緒に住んでる子がいるから……」

「その子が引き続きそこに住むならそれで良いんじゃないですか?」

 セリフの途中で柊がバッサリと。


 ……あ、そうか。綾ちゃんがそのまま世帯主になれば良いだけの話か。

 と、春華もそのまま尻窄まりになる。

 いや、でも、ですね。

 だって! ヒスイが一緒に住まなくて良いって言ったんだよね!

 だから私も軽ーく考えて嫁の件を承諾したわけで!

 そんな気持ちを込めて春華がキッと視線をヒスイに向けると。


「いや……まぁ……あれだ。すぐにどうこうってわけじゃないんだから、追々考えながら進めていけば良いんじゃないか? こういう事には普通もう少し時間をかけるもんだろう?」

 と笑顔が作られる。


 うう。

 なんだ、ずるいなその笑顔。

 ちょっと満足げでもあり、どことなく魅力的。

 まぁ……急がなくて良いってことだし、ヒスイはなんだかかっこいいし……蔵に住んで良いんでしょ? 蔵。そういうことなら……この際流されても良いかな……蔵だし。


 と、春華が完全に流されてしまったところで。


「なにもしてやれないのも申し訳ないんだが……一つ贈り物をするから受け取ってもらえる、か?」

 ヒスイが真顔で春華に一歩近づく。

「え?」

 春華が反射的に聞き返すと。

 ヒスイが小さめの木箱をスッと春華の目の前に出した。

 両手で受け取れる程度の箱。

 と、柊が目を眇めて一瞬固まった。

 ついヒスイの行動の流れで春華が箱を受け取る。

 そして、促されるままに脇のテーブルにそれを置いて蓋を開けると。

「え……これ……すごい……骨董? アンティーク?」

 中に入っていたのはブレスレット。

 細かい細工はたぶん銀。彫り込みのある銀の小さなプレートと、石が嵌め込まれた銀のプレートが交互に繋げられていて……とても素敵。

 こういうの、ファッションセンスがあれば普段使いしてもいいかもしれない。サイズはちょっと主張の強い腕時計のベルト程度だし。

 こういうデザインでこの古い感じって……日本にこういうものが外国から入って来た経路ごと曰くありげで……もうロマンだ。

 どことなく雰囲気に重みを感じるので迂闊に触っちゃダメだという気がして箱の中に手を入れるのを躊躇う。ので、春華は蓋を両手に持ったまま眺める、にとどめる。

「ああ、お前になら持っててもらっても良いかな、と」

 ふっとヒスイの視線が和らいだ。

 で。春華は。


「え、おい?」

 ヒスイの視線が若干焦ったようなものになる。

 春華が両手に持った蓋をそのまま箱にかぶせ直して、その箱をテーブルの上で少しだけヒスイの方に押したので。

 その仕草は、とても慎重でありながらも「このお品はお返しします」の意思表示。


 だって。

 今、柊さんが固まったもの。

 これ、絶対「ちょっとした」骨董とかですらない。がっちりした骨董品。相当高価なものだ。

 私はそういう目利きはできないけど、「見る目がある柊さん」があの反応をしたというだけで分かる。……これ、私がひょいっと貰っちゃいけないもの。


 春華がそう確信しながらヒスイを見据える。

「私、そういう高価なものとか貴重なものはいらないの。万が一傷でもつけたら大変でしょ?」

 と言ってからにっと笑うと。

 ヒスイが困ったように眉を下げ、柊があからさまにホッとため息をついた。

 で。


「……そうか……じゃあ何だったら貰ってくれる?」

 とヒスイが今度は悪戯っぽい笑みを浮かべる。ので。

「うーん……」

 春華がその流れで店の中の商品に視線を送る。

「……あ、そういえば」


 店の奥。

 売り物でもある古い茶箪笥の中にこれまた売り物として陳列してある食器、の中に心惹かれる物があったのだ。

 いつか自分へのご褒美に買おうか迷っているお皿。

 あれは多分、有田焼。色が華やかでも絵が細かくて落ち着いた柄なので絢爛豪華、という印象はない。程よい華やかさ。そして、使い勝手も良さそうで、ケーキとかクッキー数枚とか……なんなら和菓子を乗せてもサマになるようなサイズ感。隣に珈琲カップを置いても急須とお茶を置いてもしっくり馴染むようなお皿なのだ。

 ここ最近、時々眺めては「まだ売れてないな」と妙な確認までしていたお皿なのです。


 なのでついそちらへと歩み寄り。

「……それか?」

「うん。これ買ってくれる? ……あ」

 しまった。言ってしまってから、妖怪ってお金なんか持ってなさそう、と思い当たり。

「ああ分かった」

 とヒスイが小さめの皿を手に取るのを見て軽く混乱した。

「そういうわけで、これ、貰うぞ」

「わあああああ! 待って待って待って! それ、ヒスイは買えないでしょ? お金なんか無いでしょ!」

 思わず止めに入る春華に今度は柊が声を上げて笑い出した。

「良いですよ。ヒスイにはうちの座敷童として働いてもらっているも同然です。このくらい給料の範囲内ですよ」

「……あ、そうなの?」


 思わず春華が顔を赤くして俯いた。

 ……そうか、給料。

 ごめん、五千円程度のお皿一つを座敷童としての給料と比較させるようなことした。

 いやでも、こんなケーキ皿程度のサイズに五千円は結構思い切らないと買えないんだからね。こういう店にいると金銭感覚おかしくなるけど、普通このサイズの皿なら最安値で百均で買えるんだから!


「良いんじゃないですか。付き合い始めの最初のプレゼントにしては上出来だと思いますよ」

 そう言って柊が手際よく包んだ皿を春華に手渡した。


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― 新着の感想 ―
おい、この仲人、あやかしの嫁取りに実まで求めてきたぞ笑 ぽやぽやのヒスイ春華コンビじゃ太刀打ちできそうにもない笑 ヒスイは普通の人の目にも見えるのかな? 見えなかったら、春華さんと巽氏がペアに見える…
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