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古きもの、愛しきもの、座敷童子の花嫁〜ストレスフルな日常の手芸屋店員ですがイケオジ座敷童子に溺愛されています〜  作者: TYOUKO


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25 いざ親睦会へ

 公園に到着すると、既に支度が始まっている。

 用意されたテーブルには買い出し班が持ち込んだ野菜や肉や果物にお菓子。

 クーラーボックスも用意されていて飲み物の準備も抜かりないようだ。


「あ、高瀬さん、こっちですよー」

 端田が明るい声を出して手招きするのでそちらに行くと、何人かで小さめのテーブルを囲んで話に花が咲いていた様子。

「こちら隣の店舗のスタッフさんです。高瀬さんに会うの楽しみにしてたんだって!」

 端田に紹介された二人の女性は、四十代半ばくらいの主婦さん。

「え、そうなんですか! 光栄です! いつもお世話になってます」

 勢いよく春華がぺこりと頭を下げると。

「あーやっぱり思ってた通りの人だ!」

「本当ねー! もううちの店、高瀬さん大人気よ?」

 と楽しそうに返される。ので。

「え……なんですかそれ?」

 嬉しいけれども意味がわからない、ので口元に笑みを浮かべつつも眉間にシワを寄せながらつい聞き返す。

「えーだって、ねぇ?」

 一人がくすくす笑いながらもう一人に目配せし、もう一人が、うんうんと頷きながら。

「うちの店に電話かけてくる時とか、うちからかけて高瀬さんが出た時はみんなで『今日は当たりだった!』って言うのよ。高瀬さんの応対って聞いててすごく気持ちいいんだよね!」

「え……それは……本当ですか……?」

 いや、とても嬉しいことを言われたのはわかる。でも電話の対応なんて誰がやってもそう変わらないと思うんだけど、と疑ってしまうのは仕方ない。

「本当本当。まず声のトーンがいい! そして聞いてくる内容が分かりやすいし、こっちが聞いてることに対する反応もいい!」

「そうそう! こないだの対応も全員のツボだった!」

「え……こないだの……って……まさかのあれ……?」

 春華にはちょっと思い当たる事があり、顔が熱くなるのが分かった。


 店同士で電話でやり取りすることは時々ある。

 商品が品切れしていて、客からの要望で他店から取り寄せる必要があったり、客が自分で買いに行くから行った先の店の在庫を確保しておいて欲しいと頼んだり、あとは店同士で連絡したい事があったり。

 で、つい最近、かかってきた電話に出る時に、他のスタッフと直前まで込み入った話をしていたので考え事をしながら出たところ「お電話ありがとうございます」と言ってから自店を名乗るところを「お電話ありがとうございました」と言ってしまった。

 で、相手が一瞬息を呑んだ空気が伝わってきて、こちらで話していたスタッフが「高瀬さん、電話に出た途端その電話終わらせてるから!」と結構大きな声で突っ込んでくれて電話の向こうが大笑いになった。

 あれ……この方々の店だったっけ……。


「ああいう大したことない笑いって大事よねー! ほんと和んだわ」

 と、終始上機嫌でいてくださるので。

「いや、もうすみませんでした。お騒がせしたお詫びと言ってはなんですが、ケーキ焼いてきたのでどうぞ」

 と、若干おどけながら持ってきた風呂敷を解いて重箱をテーブルに出す。

「わー! 待ってました! 高瀬さんのお菓子って美味しいんですよ!」

 と、端田が真っ先に三段の重箱を広げていく。

 それと同時に小さい歓声が上がるのは、見ていて楽しい光景だ。


 和気藹々とケーキをつまみ、バーベキューに参加し、親しみやすい他店のスタッフとお喋りして。

 と、無難に時間が過ぎていく。


 今日は各店の店長も公休を利用しているのでこの場にいる。

 もちろん店は営業しているので何かあったらすぐに連絡が入って対応できるようにしてあるし、なんならこういう日は店の方に出ているスタッフはベテラン揃いにしてあるので特に心配することもない。


「そういえば高瀬さんがこっちに出てるのって珍しいですね」

 初見の他店スタッフが声をかけてくる。

「あ……そうですね……大体いつもは出勤の方のメンバーに入れてもらってますので……」

 ついおずおずと答えると。

「そうそう、高瀬さんの接客はどこかで他店ともシェアした方がいいってエリアマネージャーが言ってたんですよね」

 店長がしれっと爆弾投下してきた。

「あ、聞いてる聞いてる。接客もさることながら売り場の管理とかの手際が半端ないって言ってたね。もーうちのスタッフがさー『そういう人と私たちを比べないでください!』って言うんだよね」

 へらりと笑うのは今日初めてお目にかかる隣の店舗の店長さん。


 まぁ、嫌な感じは、しない。

 その店のスタッフさんの反応についても「いい迷惑だ」という感じの話し方ではなく、むしろそこまでエリアマネージャーにベタ褒めされる人ってどんな人だろう? っていう好奇心丸出しな雰囲気だし。

 とはいえ。


 褒められ慣れてないんだよ私。

 こういう時にどんな顔していいかわからないから、これ、下手すると感じ悪い人になっちゃいそうだ……。

 変な謙遜の仕方したら嫌味な人になっちゃうし……中途半端に受け止めちゃうといい気になってるとか思われるかもしれないし……!


 そう思いながら春華は「いやいや、エリアマネージャーが大袈裟なんだと思いますよー」と目を泳がせてしまう。


「うちのスタッフは皆んなそれぞれに頑張ってるんですよ。そういえばこないだミシン三台まとめ買いしたお客様が『今度生地をまとめて買いに来る』って仰って昨日事務所に五反取り置きしたんですけど店長に報告するの忘れてました。今日会うからいいかなと思ってー」

 バーベキューの取り皿を片手にふらっと輪に入って来た木下がそう言いながら店長の方に視線を向ける。

「え、三台?」

 すかさず隣の店舗の店長が食いついた。


 うん、わかる。

 普通ミシンはまとめ買いしない。

 そして一度に三台なんてまず買わない。


「そうなんですー! なんか、最初は真っ直ぐ縫うだけのミシンが欲しいって言われたんですけどミシンについて説明したら結局職業用ミシンとロックミシン両方欲しいってなって、刺繍ができるミシンもあるっていう話をしたらそれも買うってなって、即買いだったんですー」

 木下が嬉しそうに説明するので春華の方に向いていた興味が一気に方向転換した。

「凄いねそれ。どんな財力の人なの?」


 そのツッコミは、うちの店舗でも一回みんな通った道。


「なんかー、旦那さんが会社経営しているから奥様はお金が結構自由に使えるらしくて。私、前にそういうお客様ばかりと取引するような仕事してたから、そういう買い物の仕方をする人って大体雰囲気でわかるんですよね。なので相手に合わせて色々提案してみたんです」

 木下も楽しそうに説明している。


 うんうん。

 その話もうちの店舗では一通り聞いている。

 いいんだけどさ。

 いや、別にやっかみとかは一切なく、単に妙な勘が働いてしまうので……で、それが飽くまで「勘」なのでわざわざ言葉には出さないんだけどさ。

 ……あの手のお客様って……気分を害した途端無茶な返品とかクレームに発展するからあんまり軽々しく対応しない方がいいような気がするんだよねぇ……。


 と、春華はその話を聞くにつけ思ってはいた。でも口出しをして変に関わらない方がいいかとも思ってその話が出たらなるべく口を挟まないようにしていたのだ。

 なので、なんとなくこれも条件反射なのだが、そんな話題になったところで春華はそろりと会話の輪から外れる。


 そんな春華をチラリと見やった木下が妙に嬉しそうな顔をしていたのは……見ないふり。


 話題がとんでもない種類なだけに別の話題で盛り上がっていた人たちも「なになに?」とそちらに集まって行く中、春華は空いたテーブルに移動してペットボトルから紙コップにお茶を注ぎ一口。


 今日は結構疲れている。

 どこかでちょっと一休みしたいなぁ……と周りを見回す。


 木下が楽しそうにその時の接客の話で盛り上がっている周りにはその話を知らない他店舗のスタッフ達が群がっており、他の人たちは食事を一通り終えて広々とした場所で連れてきた子供と一緒に遊んだり、と自由に過ごしている。

 持ってきた折りたたみの椅子に座ってお喋りをしているスタッフ達もいるし本当に各自がそれぞれ気ままに過ごしているので、これなら一人でふらっと離れても大丈夫そうだ。

 そしてテーブルにちょっと良いものを見つけてしまった。

 大きいペットボトルの他に小さなペットボトルがたくさん。「買い過ぎたのでご自由にお持ち帰りください」のメモ付き。そしてその隣には大きなカゴに個包装の市販のお菓子が山盛り。

 紙コップに注がなくてもこれ一つ頂いて公園をふらっと散歩してこられそう。

 そもそもメインのバーベキューが終わったら各自適当に遊んで好きなタイミングで流れ解散、という気ままな集まりなのだ。


 春華は肩にかけたバッグに小さいペットボトルを一つ入れて少し離れた木陰を目指す。

 あの辺りなら木の陰になってみんなからも見えないし一人で静かに休憩できるかもしれない。


 そのささやかな移動距離。

 そう、ほんの百メートルかそこらで。


 かくん、と何かに躓いた。


 あ、やば。

 いや、転ぶほどのことでもないし、たいしたことじゃないんだけど。


「……と、とりあえずあの木の下まで……!」

 自分に言い聞かせる。

 なんとなれば、心臓が変な脈打ち方を始めてしまったのだ。


 持病の発作。

 発作性上質性頻拍症、というらしい心臓の疾患。

 年に何度か起こるそれが疾患による「発作」だと知ったのはつい最近だ。

 最初は幼稚園児の頃、みんなで追いかけっこ中にいきなり倒れた。で、おそらくてんかんか何かと間違われた。


 病院で検査をすることになり、どんなふうに具合が悪くなったかを説明しようとして「心臓がドキドキして……」と説明しかけたら母親に「何大袈裟なこと言ってるの。心臓がどうにかなるわけないでしょ」と怒られて、ただ「気持ち悪くなりました」とだけ先生に話したのを覚えている。

 勿論てんかんではなかったので、結果は問題なしの健康体。

 母親からは「いつも大袈裟なんだから」と叱られ、父親からは「人の関心をひこうとするのもいい加減にしなさい。他の人は多少大変でも頑張ってるんだから怠けようとするんじゃない」と叱られた。

 で、なんの疑問も持たずにそのままきてしまった。


 学校では「私は努力が足りないのでもっと頑張ろうと思います」という体でいたので、たまに「発作」を起こして保健室に行く度に「ああまた怠けてしまった」と思っていた。


 つい最近、外出先で発作が起こって全く動けなくなり「これ……普通の人はどうやって乗り越えてるんだろう?」と喫茶店で「怠け」ながら考えた結果、動けるようになってから病院に行った。


 で。

 怒られた。


「普通の人はそんなことにはなりません! それは心臓の発作だからすぐ救急車を呼びなさい! 放っておいたら死ぬこともあるよ」

 とのことで。


 不謹慎だけど、安心した。

 得体の知れない不調の正体が分かった時って、安心するもんなんだ、と思った。例え「命に関わる」疾患であったとしても。

 いや、まぁ、すぐに死んだりはしないんだけどね。発作によって血液に塊ができる事があってそれが血栓になると場所によっては死ぬという事で。


 ああそうか。

 目指せ血液サラサラ。

 水飲もう。

 いや、それより薬か。


 発作が起きているというのに割と冷静な自分に苦笑が漏れる。

 だって、こんな体との付き合いも長い。今までこれが普通と思って生きてきた事を考えると、今更発作が起きたからといって大騒ぎもできない。

 こういう時の頓服薬まで処方してもらってるんだもん。無敵よね。


 急ぎ足で木陰に向かって、座り込んだところで「あらしまった」と目を閉じる。

 ブラックアウト。

 視界が真っ暗になった。


 ……これが一番不便かもしれない。

 脈拍数が一気に上昇する代わりに血圧が一気に下がるらしくて目が見えなくなってしまうのだ。

 多分、発作慣れしていないと、ここで意識を失ったりするらしいんだけど……私の鋼の意識はそう簡単に落ちたりしない。なので何もなかったふりを装って目を閉じて後ろの木にもたれかかってみる。

 このまま大人しくしていれば治るかも知れないし、治らなくても少し軽くなる。視力さえ回復すれば何事もなかったように運転して帰ることもできる。……筈。


「……春華、大丈夫か?」

 がさりと音がして聞き慣れた声がした。

「……え、ヒスイ?」

 閉じた目を控えめに開けてみるがまだ視力は回復しておらず。

「春華さん、具合悪いですか?」

 続けて柊の声がしてそばに二人いる事がわかる。

「あー……ごめんなさい……あの……今ちょっと目が見えなくて……」

 へへ、と笑いながら力なく答えてしまう春華に。

「え、ちょっと、見えないってなんですか! 顔色も只事じゃないですね、救急車、呼びますね」

「あ、ちょっと!」

 息を呑む気配と共に柊が慌てふためくので春華が声を上げた。

「だ、大丈夫、です。あの……ちょっとバッグの中から薬出してもらっても良いですか?ポーチの中に入ってるんですけど、今見えないもので……」

 もうちょっと休んだら視界は戻りそうなんだけどなーと思いつつ、柊の「救急車呼び」を阻止すべく隣に置いたままのバッグに手をかけると、がさりと音がして慌てたように中が探られる気配。

 で。

「はい手を出して」

 そう言われて手を出すと手のひらに薬を乗せられる。

 で、ペットボトルを手元に引き寄せると「ちょっと持って」という声と共に蓋を開けてくれた気配。


 視力の回復だけなら割と早い。

 経験上、日向にいるとあっという間に見えなくなるけど日陰に入って座るか横になるかすれば回復するのだ。

 なので。


「……あ……えーと……ごめんなさい……?」

 視界に真っ先に入ったのはヒスイの顔だった。

 やだもう。この人、こんな顔してたの? っていう……心配してましたって顔。

 いつももっと飄々としてるでしょうよ! って突っ込みたくなるけど、仕方ないよね、私がこんな状態だったわけだし。


「……なんでお前が謝るんだ」

 絞り出すような押し殺すような声に、内心「あ、変な突っ込み入れなくて良かった」と思う。

 いや、そこまで深刻にならなくていいんだけど。


「大丈夫、ですか?」

「あ、はい。視力戻りましたー」

 同じく心配そうな柊の問いかけに春華がへらりと笑って見せる。と。

「はああああああ……」

 地面に両手をつく格好でこちらを覗き込んでいた柊がかくんと頭を垂れて深いため息を吐いた。

「本当にヒスイのそれは便利ですね。春華さんの一大事って言われて駆け付けたんですよ。春華さん、持病があるなら教えておいてください……本当に驚きました」

「あー……ごめんなさい……心臓悪くてぇ……えへへ」

 もうあんまり深刻に話すと大袈裟って言われそうなので笑いも添える。

「は? 心臓? え、目じゃなくて?」

 柊が勢いよく顔を上げ、ヒスイが息を呑んだ。

 あ……しまった。自ら大袈裟にしてしまった。

「と、とりあえず病院!」

 ガバッと立ち上がる柊に。

「だ、大丈夫! 薬も飲んだし、しばらく休めば治るので帰って横になります!」

 思わず春華が声を上げると。

「家ってここから帰るのか? 横になるならうちに来れば良いだろ」

 心配そうなヒスイが顔を覗き込んでくる。


 あ……そうか。

 ここ、ひいらぎ屋のすぐそばか。

 この距離感、助かるかも。


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― 新着の感想 ―
春華さん! まさかの持病持ち! 心臓の疾患はおおごとですよ! ご両親、信じられない!(でもこういう人いそう…) 学校の心電図検査じゃタイミング的にひっかからなかったのかな。子どもの自己申告じゃうまく伝…
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