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保険体育

 高校で一番素晴らしい授業の時間がやって来た。


 それは、多彩な色とガラの下着が見放題、大中小の様々なメロン、いつもなら制服で隠れてしまい見ることが出来ない体、そして最大の幸福それは私に執拗に近寄ってくる男たちが一人もいない、体育の着替えだ。


「なんで五時間目に体育やらなきゃいけないの、五時間目だけ体育なしって決まり作ってほしいよね、奈々子ちゃん」


「そうだよね、お腹痛くなるし」


「それより奈々子ちゃん着替えるの遅いよ、私体育員だからもう行かないとだよ」

「それじゃあ行くね、心(こころ)一緒に行こー」


 手温井さんにばれないようにと着替えを覗いて、覗いてはいない、眺めていたので着替えが遅くなってしまった、ま、いつものことだが。


 私は校庭に一番遅くつき準備体操が始まった。


「一、二、三、四、五、六、七、八」


 私は着替え以外も体育の授業は好きだ、体を動かすこと自体好き、それに加え男は見てくるだけで近寄ってこない最高だ。


 いつもなら二、二、三、四と合唱されるはずが、今日は黄色い声援に変えられた。


 私は異変を察知し皆が向けてる方を見る、そこにはこの学校で一番の有名人、那九瑠球児(なくるきゅうじ)が立ち私たちのことをガン見していた。


「那九瑠先輩がこっち見てる」


「きゃ、目が合っちゃた」


「あの人が去年甲子園の決勝でノーヒットノーランと五本連続ホームランを達成した那九瑠先輩なの・・・・イケメンだわー」


「結婚したい」


「キャーーー」

「キャーーー」

「キャーーー」


 よし、何も気にしないようにしよう、大丈夫だ問題ない。


 体操が終わり那九瑠先輩もこっちを見ていない。


「今日は野球をするぞ、皆も知っていると思うがわが校は甲子園を優勝している、だからこれから半年間体育の授業は野球だと思え、いいな」


 教育委員会に通報するぞ、甲子園優勝したからってそんな横暴が許されて言い分けねぇだろ。


「それって、週一で那九瑠先輩に会えるってこと」


「マジ最高じゃん」


 そして手温井さんも。


「やったね心ちゃん、私この時間が天国に感じて来たよ」


「そ、そうね」


 このクラスから通報はされなさそうだ。


 別にいっか、野球が嫌いなわけじゃないし、何なら好きだし、それに平和であることは変わらないからな。


 そう思っていた時期が私にもありました。


 最初の体育からペアを組んでいる音葉ちゃんをキャッチボールに誘う。


「私でいいんですか?てっきり手温井さんとやるのかと」


「手温井さんは心さんとやってるから、それに私たちずっと一緒にやって来たでしょ音葉ちゃん」


 最初はあまりもの同士で組んだペアだったが、今の今まで楽しく体育の授業を二人でやって来た仲だ。


 友達以上恋人未満もうちょっと押せば恋人になれる関係だと私は思い込んでいる。


 それに体育の時間を楽しく行えているのは音葉ちゃんの存在が大きい。


 そんな時間に水を差す男が現れた。


「ボールの投げ方、僕が教えてあげようか?」


 那九瑠先輩だ、あーもう私の嫌な予感はなんでこうも当たるのか神に問いただしてやりたい。


 きっぱり断ろう、これが半年間続くようであれば私は体育の時間が嫌いになる。


「結構です、先生に教えてもらうんで」

 大きな声で先生を呼んだ。


「どうした百合神」


「あのボールの投げ方を教えてほしくて」


「まずは––


––「先生、僕が教えるので大丈夫ですよ」


「そうかそれなら教えてやってくれ」


「あの、私先生に教えてもらいたいんですけど」


「嬉しいな、だが野球に関しては那九瑠の方が適任だ、それじゃ」


 先生は行ってしまった、そして自然と那九瑠先輩に教わる流れになってしまった。


「じゃあ見ててね、まずボールは縫い目が横になるように持って、で中指を縫い目にかけて、人差し指は折り曲げて添える、他の指は支えるようにして投げる」


 綺麗なフォームから繰り出された球は目で追うのがやっとの速さで相手の胸まで飛んでいき、瞬きをした瞬間に相手の膝元まで落ち転がっていった。


「これがナックルカーブの投げ方さ」


 何故ナックルカーブなんだ?私別に変化球が投げたいわけじゃないんだけど。


「あの普通にストレート教えてください」


「ス、ストレートか、それなら適当に握って投げれば出来るんじゃないかな」

 はぐらかされたというよりこの感じは……


「もしかして、ストレート投げられないんですか」


「な、投げれるに決まってるだろ、野球歴十六年だぞ」


「じゃあ今みたいに投げてみてくださいよ、私変化球より速球の方が好きなので」


「よ、よしわかった、しかりとみてろよ」

 さっきみたいな握りの説明はなしにナックルカーブを投げた時の綺麗なフォームで腕を振り抜く。


 その玉はナックルカーブよりも遅くヘロヘロで中学生が投げそうなストレートであった。


「どうだ、投げられただろ」


「頑張れば私でも投げれそうな玉でした」

「普通、ストレートは変化球より早いはずなのに逆にすごいと思いました」

 馬鹿にした顔で言ってやった。


「仕方がないだろ、ストレートを投げたのは今日が初めてなんだ」


「そんなんでよく甲子園なんていけましたね」


「俺のナックルカーブの最高球速は百四十キロだ、そこらのストレートより全然早い、だから遅かったんだ」


「言い訳なんて聞きたくないです、教えられないんだったらどっか行ってください」


 ここまで言えば、もうこちらに来ることはないだろう。


「お前なんか、ただ顔がいいだけで 俺と釣り合いそうだからという理由で彼女にしようと思ってただけだった」

 負け惜しみか、言い返してやりたいが今日は聞き流してやろう。


「プロ野球選手確定な、と言われた俺をここまで馬鹿にしたのはお前が初めてだ」

「俺はお前が本当に好きになってしまったぞ」

 

 どうしてそうなるんだよ。


「いずれお前を俺の者にして見せる、それまであきらめないからな」


 そう言い残し男子の持ち場に帰っていった。


 私、付きまとわられるの確定か。

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