第3話『3分で終わる決算口撃(※腐敗側近、全滅)』
「――というわけで、急遽全員に集まってもらった」
公爵邸の大会議室。重厚な長テーブルの上座に座るヴィンセント様は、未だにどこか魂が抜けたような顔をしていた。
その周囲を囲むのは、前当主の代から公爵家に巣食う高官や側近たちだ。
彼らは「朝から一体何の用だ」と言わんばかりの不機嫌な顔で、だるそうに椅子へ深々と腰掛け、茶をすすっている。
特に、財務を統括しているバルト管理官は、嘲笑を浮かべながら口を開いた。
「ハッ、公爵閣下。ただでさえお忙しい身なのです、こんな早朝から呼び立てて何のご用件でしょう? まさか……また『赤字をどうにかしろ』などと、不可能な注文をなさるおつもりでは?」
「……いや、私ではない。発言権を与えるのは、彼女だ」
ヴィンセント様が視線を送った先。
会議室のドアが静かに開き、私――エレノア・ヴァルハイトが足を踏み入れた。
手に、分厚い羊皮紙の束をズシリと抱えて。
「……は? 誰だあの娘は?」
「新しく嫁いできた子爵家の娘だろう。おいおい、公爵邸の重要会議に女を連れ出すとは、閣下も焼きが回られたか」
男たちがクスクスと鼻で笑う。
私はそんな雑音を完全に無視し、テーブルの中央へ歩み出ると、優雅にお辞儀をした。
「皆様、初めまして。ヴィンセント様の妻、エレノア・ヴァルハイトと申します。本日は皆様の【退職手続き】と【損害賠償のお請求】のために集まっていただきました」
「……は?」
会議室の空気が凍りついた。
バルト管理官が顔をひきつらせ、怒鳴り声を上げる。
「な、何を馬鹿なことを! たかが新妻が、何の権限があって我々にそんな口をきく!」
「権限なら、たった今ヴィンセント様より全権委任状をいただきましたわ。――さて、時間も惜しいので早速本題に入りましょう」
私は一番上の資料をサッとめくると、バルト管理官をまっすぐ見つめた。
「バルト管理官。あなたが管轄する『特定商会への購入費』ですが。市場価格の3倍で買い付けを行い、差額の7割をあなたの個人口座へ流転させていましたね? 過去3年間で合計、金貨800枚の横領です」
「なっ、ななな何を根拠にそんなデタラメを――!?」
「デタラメ? こちらがその『特定商会』の裏帳簿の控えと、あなたが愛人に買い与えた邸宅の購入資金の流出ルートです。……あら、筆跡鑑定も済んでおりますわよ?」
「ぎくっ……!? な、なぜそれを……!?」
バルト管理官の顔面が、一瞬で土気色に変わった。
私は間髪入れずに、隣に座る人事担当の男へ視線をスライドさせる。
「続いて、人事担当のミューラー殿。存在しない架空の兵士100人分の給与を毎月請求し、そのまま懐に入れていましたね。いわゆる『幽霊社員』の手口です。過去2年で金貨400枚」
「ひっ……!?」
「さらにこちらの軍需物資担当の……」
「「「っ!!!?」」」
パンッ! パンッ! とテンポよく資料を叩きつけ、ファクトと数字を突きつけるたびに、高官たちが悲鳴を上げて崩れ落ちていく。
わずか【3分】。
ついさっきまで威張り散らしていた腐敗側近たちは、全員ガタガタと震え上がり、床に膝をついて白目を剥いていた。
「以上ですわ。皆様、長年の悪事、誠にお疲れ様でした。本日付で全員解雇とさせていただきます。なお、横領された金貨につきましては、本日正午までに全額返還されない場合、私兵団を派遣して私財をすべて差し押さえさせていただきますので、あしからず」
私は満面の笑みで、地獄のような通告を言い渡した。
「さあ、お片付けの時間です。出て行ってくださる?」
側近たちは悲鳴を上げながら、這うようにして会議室から逃げ出していった。
……静まり返った会議室。
残されたのは、私と、開いた口が塞がらないヴィンセント様のふたりだけだ。
「……す、すごい……。数年間、誰も暴けなかった奴らの不正を、たった3分で……」
ヴィンセント様は震える手でこめかみを押さえ、信じられないものを見る目で私を見つめている。
かつて「氷結公爵」と呼ばれた男の冷酷な面影は、どこにもない。
「エレノア……君は、一体どれほどの切れ者なんだ……? 私が今まで一人で抱え込んでいた悩みは、一体……」
「あら、簡単なパズルみたいなものですよ、旦那様」
私はフッと微笑み、胸を張った。
「これで無駄な支出(毒虫)はすべて排除いたしました! 次は『収入の増加(即金化)』に取りかかりますわ。……どうやら、この公爵家には眠っているお宝(資産)がたくさんあるようですから」
悪魔のように頼もしく微笑む私に、ヴィンセント様は完全に気圧され、ただコクコクと首を縦に振るのだった。




