第25話『公爵様、妻への愛が爆発して「特大のサプライズ」を用意する』
完全なる「合法ニート生活」を手に入れてから、数週間。
平穏で甘やかな日々が過ぎる中、ある日の朝食時、ヴィンセント様が紅茶のカップを置くと、すっと一枚の羊皮紙をテーブル越しに差し出してきた。
「エレノア。いつも公爵家を支えてくれている君へ、私からの『日頃の感謝のしるし』だ。受け取ってほしい」
「感謝のしるし……ですか?」
「ああ。君が好きなように使ってくれて構わない」
いつものように甘く微笑むヴィンセント様。
私は「新しいドレスの仕立券か、高級なお菓子の引換券かしら?」などと呑気に考えながら、羊皮紙を開いた。
そこに書かれていたのは――
【王都一等地における『国立図書館級の巨大個人書庫』の所有権証書】
【ならびに、大陸中の希少本を買い集めるための『無制限・無期限の事業資金口座』の開設書】
「……っ!?!?!?」
私は目を見開き、思わず手にした羊皮紙を二度見、三度見した。
「だ、旦那様……!? これ、桁を数え間違えているわけではありませんわよね……!? 建物自体の建設費だけで金貨50,000枚、さらに無制限の購入資金って……!!」
「当然だ。君は読書とお昼寝が好きだろう? ならば、世界中の面白い本を集めた『君だけの城』を造るのが一番だと思ってな。すでに王都の最高の建築家を集めて起工式を済ませてある」
ドヤ顔で言い放つ公爵様。規模が大きすぎる。スケールが格違いすぎる。
「ち、ちょっと待ってください! 感謝のプレゼントにしては、あまりにも原価とROI(投資対効果)が見合っていませんわよ!? そもそも私一人の趣味にここまでの莫大な資本を投下するのは会計学的に――」
「会計学など関係ない」
私が元・会計士の癖でパニックになりながら論理的な計算を始めようとすると、ヴィンセント様はすっと立ち上がり、私の隣へと歩み寄ってきた。
そして、私の身体を後ろからそっと包み込むように抱きしめると、耳元で低く甘い声を囁いた。
「君の笑顔と喜び……それに比べれば、金貨100,000枚などただの『紙くず』と同じだ。私の全財産は、君を幸せにするためだけに存在しているのだから」
「~っ!!??」
ストレートすぎる愛の言葉に、私の顔が一瞬で真っ赤に染まる。
「そ、そんな殺し文句、ずるいですわ……っ!」
「ふ……素直で可愛いな、エレノア」
ヴィンセント様は嬉しそうに目を細めると、私の真っ赤になった頬に、それから唇に、優しく愛おしそうに口づけを重ねた。
「完成したら、一緒にあの書庫へ行こう。二人で静かに本を読み、疲れたら膝枕でお昼寝をするんだ。……楽しみだな?」
「……はい。とっても楽しみですわ、旦那様」
数字と計算で世界を解き明かしてきた私だったけれど、この公爵様が私に注いでくれる「無限の愛の総量」だけは、きっと一生、どんな決算書を使っても弾き出せないのだった――。




