第24話『最高の休日と、公爵様の止まらない「甘々お返し」』
国王陛下から『永久不介入の勅命』をいただいてから、数日。
私は今、人生で最高に幸せな時間を噛み締めていた。
「ふはぁぁ……柔らかい木漏れ日、鳥のさえずり、最高級のふかふかソファ……! これぞ私が夢にまで見た、完全無欠のニート生活ですわ……!」
場所は公爵邸の離れにあるプライベート庭園。
手元には焼き立てのサブレと、熟練の侍女が淹れてくれた極上のアールグレイ。
前世では毎日終電まで数字と睨めっこし、今世でも公爵家の破産回避から悪徳貴族の撃退まで駆け抜けてきた。
だが、もう私を脅かす決算書も、怪しい闇組織も、面倒な国家からの依頼も存在しない。
完全に「仕事から解放された優雅な公爵夫人」の完成である。
「うふふ、今日はこのまま夕方まで読書をして、夜は美味しいお肉を食べて、9時間睡眠を決め込みますわ……!」
私が幸せの絶頂で頬をゆるめていると、背後からスッと温かい腕が回され、すっぽりと包み込まれた。
「ん……? エレノア、ずいぶん嬉しそうな顔をしているな」
耳元で響く、低く甘い声。
振り返るまでもなく、我が夫ヴィンセント様である。
「旦那様。……あの、いま非常に良いところでしたので、邪魔をしないでいただけますか?」
「断る。国王陛下から『君に仕事をさせてはならない』という勅命は出たが、『妻を甘やかしてはならない』という命令は出ていないからな」
悪びれもせず堂々と言い放つヴィンセント様。
彼はそのまま私を自分の膝の上に抱き上げると、私の肩口に顔をうずめて深く息を吐いた。
「はぁ……至福だ。最近は悪党どもの対処で、君を十分に抱きしめる時間も取れなかったからな」
「ちょっと旦那様! 抱きしめるのはいいですけれど、これではページがめくれませんわ!」
「私がめくろう。君はただ、私の腕の中でじっとしていればいい」
そう言って、ヴィンセント様は本当に手際よく小説のページをめくりつつ、空いた方の手でサブレを一枚つまむと、私の口元へと運んできた。
「ほら、あーん」
「~っ! 自分で食べられますわ!」
「あーん、だ。それとも……私からの『あーん』は不満か?」
少しだけ悲しそうな顔(※演技)をして見せるヴィンセント様。
冷酷な「氷結公爵」と呼ばれていた男が、今や妻を甘やかすためならどんな表情でも作ってみせるのだから恐ろしい。
「うぐっ……不満、ではないですけれど……」
毒気を抜かれた私は、諦めて小さく口を開けた。
「……んぐ。……美味しいですわ」
サブレをモグモグと噛み締めると、ヴィンセント様は満足そうに目を細め、私の頬にちゅっと優しく口づけを落とした。
「よくできました。……さあ、今日は一日中こうして過ごそう。君が望む限りの贅沢と、私が与えたい限りの愛を込めてな」
「あ、甘やかすのは嬉しいですけれど……これだと、別の意味で腰が落ち着きませんわ……!」
数字とロジックで大陸の危機すら解決してきた元・公認会計士だったが、目の前の溺愛公爵が仕掛けてくる「無制限の甘やかし」だけは、やっぱり一生計算通りにはいかないのだった――。




