第18話『ポンジ・スキームを見破れ! 天才財務卿の仕掛けた罠』
「――では、審議を開始しましょうか」
ルーカス財務卿が自信満々に提示した『大陸横断・巨大物流ルート構想』の財務計画書。
ページ数にして数百枚、緻密なグラフと莫大な数字が並ぶその資料を、私はパラパラと高速でめくっていった。
「フフ、いかがです? 我が国の金融チームが1年かけて算出した完璧な収支予測です。年利【15%】の確実なリターンを約束する投資案件……隙などないはずです」
ルーカスはモノクルをクイッと上げ、勝ち誇った笑みを浮かべている。
(……なるほどね。一見すると完璧なキャッシュフロー計画書に見えるわ。……けど)
私はパラパラとページを繰る手を止め、フッと冷ややかな溜め息を吐いた。
「ルーカス財務卿」
「なんでしょう、エレノア殿? 降参の弁なら聞き――」
「前世……いえ、私の知る世界では、こういうのを【ポンジ・スキーム(自転車操業の投資詐欺)】と呼びますわ」
「「……っ!??!」」
室内にいた全員の息が止まった。ルーカスの顔から一瞬で笑みが消え去る。
「な、何を言い出すかと思えばバカバカしい! 我が帝国が詐欺だと!? 根拠を提示したまえ!」
「根拠? ええ、山ほどございますわ」
私は資料の【第4章・インフラ維持費の減価償却費】と【第7章・想定通行量の推移】のページをバシッと開いた。
「まず第一に、この計画は『最初の3年間は通行量が前年比200%で伸び続ける』という不自然極まりない前提で組まれていますわ。物流の需要曲線(需要予測)を無視した、ただの願望(皮算用)です」
「くっ……! それは市場の成長率を考慮した試算で――」
「第二に! 道路と橋の『減価償却費』および『将来の修繕積立金』が、歳出データから完全に抜け落ちていますわ! つまり、新規投資家(出資領主)から集めた出資金を、既存の出資者への配当(年利15%)に回しているだけ……! 新しいカモが途切れた瞬間、破綻する典型的なネズミ講モデルです!」
「「ひっ……!!??!?」」
バシッ! バシッ! と資料の数字の嘘を指差し、完璧な金融ロジックで叩き潰していく私。
「な、なぜだ……!? 我が国の最高頭脳たちが仕組んだ『見えにくい数字の改ざん』を、なぜたった【5分】で見抜けるのだ……!?」
ルーカスは顔面を蒼白にし、ガタガタと震え出した。
「ふふ、数字の辻褄が合わない『違和感』は、決算書(P/LとB/S)を斜め読みするだけで浮き彫りになりますわ。私を騙そうなど、100年早くてよ!」
「ぐ……ぬぬぬ……!!」
完全敗北を悟り、膝から崩れ落ちるルーカス。
そんな彼を見下ろしながら、後ろで腕組みをしていたヴィンセント様が、冷ややかな、しかしどこか誇らしげな声で言った。
「ルーカス財務卿。我が妻の言う通りだ。これ以上の不当な経済侵略を画策するならば、次は我が騎士団と、王立財務院による『帝国の不正金融の告発』が待っているぞ?」
「ひ、ひえぇぇぇっ!! 撤退だ! 全員撤退ーーーっ!!」
アタッシュケースに書類をぶちまけながら、脱兎のごとく逃げ出していくルーカス財務卿。
「ふぅ……。本日も無事に害虫駆除完了ですわね」
私がホッと息を吐いて扇子を閉じると、間髪入れずにヴィンセント様が後ろからギュッと抱きついてきた。
「見事だ、エレノア! まさに圧巻の勝利だな! ……さあ、強敵を倒したご褒美に、私をたっぷり甘えさせてくれ!」
「ちょっと旦那様! 勝利のご褒美なら私がもらう側ですわよ!? なんであなたが甘える気満々なのですかー!?」
こうして、帝国の誇る「天才財務卿」すらも返り討ちにし、公爵家の平和と莫大な自衛力が再び証明されたのだった。
――だが。
この一連の騒動により、『数字の魔女』エレノアの名声は、ついに大陸全土の【さらにヤバい巨大組織】の耳に届いてしまうことになるのだった――!




