第16話『帝国の軍備維持費を数字で解体(※皇子、青ざめる)』
「……は? 身ぐるみ剥ぐ、だと……?」
カイル皇子は一瞬呆気にとられた後、腹を抱えて大爆笑した。
「ハハハハ! 狂ったか小娘! 我がガルニア帝国は大陸最強の軍事大国だぞ!? 巨大軍艦に重装騎士団、その圧倒的な力の前で、お前のような女が一体何になせるというのだ!」
「力? ええ、確かに軍事力は素晴らしいのでしょうね」
私はフッと冷ややかな笑みを浮かべ、あらかじめ準備しておいた【ガルニア帝国の公開貿易データおよび各種市場価格一覧】の束をサッと広げた。
「ですが皇子殿。力(軍隊)を維持するには『莫大な金』が必要ですわ。……さて、ざっと試算させていただきましたが」
私は紙面を指先でトントンと叩きながら、極上の笑顔で言い放った。
「あなた方が誇るその最新鋭の巨大軍艦。維持費だけで年間金貨50,000枚。さらに重装騎士団の武具メンテナンスおよび食糧調達費で年間金貨120,000枚。――現在、帝国の国家歳入(税収)の実に【78%】が軍事費だけに消えておりますわね?」
「っ……!? な、なぜ我が国の予算の内訳をそこまで精密に……!?」
カイル皇子の顔から一瞬で余裕が消え去った。
「港に停泊している軍艦の吃水線(船体の沈み具合)を見れば、搭載している資材と燃料の量が分かりますわ。そこから逆算すれば維持費など一目瞭然です。……さらに言えば」
私はカイル皇子の目の前へ一歩踏み出し、逃げ場を塞ぐように畳みかけた。
「帝国の財政はすでに限界(ハイパーインフレ寸前)ですわ! 軍事費を捻出するために領民へ過剰な重税を課した結果、国内の購買力は落ち込み、農家の離農が相次いで食糧自給率は前年比20%ダウン。――端的に申し上げましょう」
私はバシッと扇子をカイル皇子の胸元に突きつけた。
「あなた方の国は、あと【半年】で軍隊の給料が払えなくなり、内側から自滅(破産)いたしますのよ!」
「「「なっ……!!??!?」」」
カイル皇子だけでなく、背後に控えていた帝国の騎士たちまでもが顔面を土気色にしてガタガタと震え出した。
「ば、バカな……! 我が帝国が破産だと……!? 脅しだ! そんなものはデタラメだ!!」
「デタラメとお思いなら、今すぐ本国のお抱え会計士に『実質赤字純資産』の計算をさせてごらんなさいな。……それともう一つ」
私は冷酷な悪魔のような微笑みを浮かべた。
「『領地を火の海にする』とおっしゃいましたわね? もし我が領地に1発でも砲弾を撃ち込まれた場合……我がヴァルハイト公爵家の全財産と、王立財務院とのコネクションを駆使し、帝国の国債を市場で暴落させ、全取引先に一斉売却を仕掛けますわ」
「こ、国債の……暴落……!?」
「ええ。そうなれば帝国の通貨価値は紙くずとなり、あなた方の誇る騎士団は明日からパン一 Pic(枚)すら買えなくなります。――さあ、どうなさいます? 私と戦って明日『無一文の無職皇子』になられますか?」
「ひっ……!!??!?」
完璧すぎる財務分析と、国家を滅ぼすレベルの『経済制裁』の脅迫。
カイル皇子は泡を吹きそうになりながら後ずさりし、膝をガクガクと震わせた。
「お、覚えていろ……! 覚えていろよ『数字の魔女』ーーーっ!!」
捨て台詞を残し、逃げるように軍艦へ駆け戻っていくカイル皇子と帝国騎士たち。
「……またしても数分で国家規模の脅威を撃退してしまった……」
後ろで見守っていたヴィンセント様が、呆然としながらも、愛おしくてたまらないという目で私を強く抱きしめてきた。
「見事だエレノア! だが、あんな男に君を渡すはずがないだろう。君は一生、私の側で可愛くワガママを言っていればいいんだ」
「んむっ……! 抱きしめる力が強すぎますわ、旦那様!」
こうして帝国の脅威は去った――かに思われた。
――しかし、この時の私はまだ知らなかったのだ。
逃げ帰ったカイル皇子が、この屈辱を晴らすため、『帝国最高の頭脳』と呼ばれる伝説の天才財務卿を刺客として呼び寄せていることを……!




