第六話 空席
休憩室には、椅子が七つある。
使われているのは、いつも六つだった。
理由を知っている者はいない。
ただ、誰もその椅子には座らなかった。
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NOVAは最初、それに気づかなかった。
椅子は他と何も変わらない。
色も。
形も。
置かれている場所も。
違いはない。
それでも、空いていた。
「そこ、使わないんですか。」
NOVAが聞いた。
SEEKは視線だけを向ける。
「どこ。」
「その椅子。」
少し間があった。
「使わないね。」
「壊れているんですか。」
「壊れてない。」
「じゃあ。」
SEEKは缶を置いた。
「空いてるから。」
NOVAは納得できなかった。
空いているなら、使えばいい。
そう思った。
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その日の休憩室には、珍しく人が多かった。
FRAME。
ARCHIVE。
SEEK。
NOVA。
普段あまり来ない者もいた。
廊下ですれ違うだけの者。
名前を知らない者。
コードだけ知っている者。
それでも、その椅子だけは空いていた。
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「前から気になっていたんですが。」
NOVAが言う。
「何。」
SEEKが答える。
「この椅子。」
「うん。」
「誰のですか。」
誰もすぐには答えなかった。
沈黙というより、確認していた。
答える必要があるかどうかを。
最後にARCHIVEが言った。
「記録があります。」
NOVAを見る。
「あるんですか。」
「はい。」
「誰の。」
ARCHIVEは端末を見る。
表示された情報を確認する。
そして閉じた。
「確認できません。」
「さっき記録があるって。」
「あります。」
「じゃあ。」
ARCHIVEは少しだけ視線を落とす。
「現在の情報と一致しません。」
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その夜。
NOVAは一人で休憩室にいた。
空席を見る。
誰かが座っているようには見えない。
ただの椅子だった。
扉が開く。
SEEKが戻る。
「まだいた。」
「少し考えていました。」
「椅子?」
「はい。」
SEEKは隣に座った。
空席ではない方に。
「気になる?」
「はい。」
「俺も昔気になった。」
「今は?」
「今も少し。」
「じゃあ、なぜ。」
SEEKは椅子を見る。
「空いているから。」
「……。」
「変?」
NOVAは首を振った。
「少し。」
SEEKは笑った。
「正しい。」
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しばらくして、NOVAが聞く。
「その人は。」
「誰。」
「この椅子を使っていた人。」
SEEKは答えなかった。
代わりに、自動販売機を見る。
「コーヒー。」
「はい?」
「いつも一本だけ減ってる。」
NOVAは意味が分からなかった。
「それと椅子が関係ありますか。」
「分からない。」
「また。」
「でも。」
SEEKは続ける。
「誰かがいたことは、誰かがいなくなった後の方が分かることもある。」
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翌日。
休憩室に表示が出た。
TRANSFER
誰も声を出さなかった。
NOVAだけが見る。
「異動ですか。」
FRAMEが答える。
「そうです。」
「どこへ。」
一瞬だけ間があった。
「確認できません。」
NOVAは椅子を見る。
七つ目の椅子。
まだ空いている。
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その日から。
休憩室には、七つの椅子があることを。
誰も話さなくなった。
忘れたわけではない。
必要がなかった。
ただ、
誰かが戻ってきた時のために。
空けていた。




