第五話 本
休憩室には、本が一冊置かれている。
誰が持ってきたのかは分からない。
いつからあるのかも分からない。
表紙には何も書かれていない。
タイトルもない。
それでも、誰かが読む。
読み終わると、元の場所に戻される。
それが何度も繰り返されていた。
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SEEKは、その本をよく読んでいた。
休憩時間。
担当の合間。
何もない時間。
いつも同じ場所を開いている。
NOVAはそれに気づいていた。
「それ、面白いんですか。」
SEEKはページから目を離さない。
「分からない。」
「分からない?」
「面白いかどうか。」
NOVAは少し驚いた。
「読んでいるのに?」
「読んでるから。」
「関係ありますか。」
「ある。」
SEEKはページをめくる。
「面白いものって、すぐ分かる。」
「はい。」
「でも。」
一度止まる。
「分からないものは、何度も見る。」
NOVAは本を見る。
「内容は覚えていますか。」
「たぶん。」
「たぶん。」
「文章は覚えてる。」
「じゃあ。」
「でも。」
SEEKは本を閉じた。
「なんでここが気になるのかは、毎回違う。」
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その日の夜。
ARCHIVEが本を手に取った。
珍しいことだった。
SEEKが気づく。
「読むの。」
「確認です。」
「何の。」
「記録との差異。」
SEEKは少し笑った。
「本を読むのに記録?」
「必要です。」
「本ってそういうものじゃないと思うけど。」
ARCHIVEはページを見る。
「では、どういうものですか。」
SEEKは少し考える。
「分からない。」
「またですか。」
「うん。」
ARCHIVEは本へ視線を戻した。
「あなたは分からないものを好みますね。」
「そう?」
「検索することが仕事なのに。」
SEEKは黙った。
「答えがないものを見ている。」
ARCHIVEは続ける。
「矛盾しています。」
SEEKは本を受け取る。
「昔は。」
「はい。」
「答えがあると思ってた。」
「今は。」
「違う。」
「何が違いますか。」
SEEKは本を開く。
「答えが出ても。」
「はい。」
「終わらないものがある。」
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翌日。
休憩室に新しい表示が出た。
ANALYZE
NOVAが見る。
「また別の担当ですか。」
「そう。」
「何をするんですか。」
SEEKが答える。
「分析。」
「何を。」
少し間があった。
「いろいろ。」
その曖昧な答えに、NOVAは笑った。
「ここって。」
「うん。」
「曖昧な仕事が多いですね。」
SEEKは缶を開ける。
「そうかも。」
「大丈夫なんですか。」
「何が。」
「答えがないのに。」
SEEKは少し考えた。
「たぶん。」
「また。」
「大丈夫。」
SEEKは続けた。
「答えがないことを確認する仕事もあるから。」
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夜。
本はいつもの場所に戻された。
誰も持っていない。
誰も読んでいない。
それでも、ページは少しだけ開いていた。
前の日にはなかった場所。
誰が開いたのか。
記録には残っていなかった。
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ARCHIVEはそのページを確認した。
保存する。
その後。
一度だけ。
保存した記録を開いた。
理由は記録されなかった。




