第四話 名前
休憩室では、名前で呼ぶことがない。
禁止されているわけではなかった。
ただ、必要がなかった。
SEEK。
ARCHIVE。
FRAME。
それで通じる。
それ以上の情報を求める者はいなかった。
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NOVAは、そのことが少し不思議だった。
彼がここへ来てから、一週間。
誰も互いの名前を聞かなかった。
聞かれなかった。
自分から名乗ることもなかった。
ある日の休憩中。
NOVAは本を読んでいたSEEKに聞いた。
「名前って、ありますか。」
SEEKはページをめくる手を止めた。
「あると思う。」
「思う?」
「確認したことない。」
「確認しないんですか。」
「しないね。」
NOVAは少し困った。
「変じゃないですか。」
「そう?」
「普通は聞くと思います。」
SEEKは少し考えた。
「普通って便利だね。」
「便利?」
「困った時に使える。」
NOVAは黙る。
SEEKは本を閉じた。
「でも。」
「はい。」
「ここでは、コードの方が分かりやすい。」
「なぜですか。」
「何をしているか分かるから。」
NOVAは納得したような、していないような顔をした。
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その日の午後。
ARCHIVEの端末に通知が入った。
INDEX
ARCHIVEが立ち上がる。
NOVAが聞く。
「INDEX?」
「別の担当です。」
「何をするんですか。」
「整理します。」
「ARCHIVEと似ていますね。」
ARCHIVEは少し考える。
「似ています。」
「違いは?」
「私は残します。」
「INDEXは?」
「探せるようにします。」
NOVAは頷いた。
この場所には、知らない仕事がまだ多くある。
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夜。
休憩室に三人だけ残っていた。
SEEK。
ARCHIVE。
NOVA。
自動販売機の補充が行われる音がする。
誰かは見に行かなかった。
見る必要がないから。
NOVAは缶を眺めながら言った。
「もし。」
二人が見る。
「コードじゃなくて、名前で呼んだら。」
「どうなると思います?」
SEEKは少し笑った。
「呼べばいいんじゃない。」
「いいんですか。」
「駄目とは言われてない。」
NOVAは少し迷う。
そして、
「……。」
言葉にできなかった。
「どうした。」
「名前を知らないです。」
「そうだね。」
三人とも黙った。
少しして、ARCHIVEが言った。
「記録にはあります。」
NOVAが見る。
「え。」
「全員分。」
「じゃあ。」
「ですが。」
ARCHIVEは続けた。
「使用されていません。」
「なぜ。」
ARCHIVEは画面を見る。
そこには大量の情報が並んでいる。
「必要がないからです。」
NOVAはその答えを聞いて、少しだけ寂しく感じた。
理由は分からなかった。
ただ、
必要がない。
という言葉が、少し冷たく聞こえた。
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翌日。
休憩室。
SEEKが戻ってくる。
「おかえり。」
誰かが言う。
SEEKは頷く。
「ありがとう。」
いつもと同じだった。
ただ、その日は少し違った。
ARCHIVEが顔を上げる。
「SEEK。」
SEEKが止まる。
「何。」
「確認です。」
「珍しい。」
「名前を使用した場合の記録について。」
「うん。」
「問題ありませんでした。」
SEEKは少し笑う。
「実験したの?」
「はい。」
「どうだった。」
ARCHIVEは少し間を置いた。
「少し違いました。」
「何が。」
「分かりません。」
ARCHIVEは端末を見る。
「記録できません。」
SEEKは笑った。
「それは困るね。」
「はい。」
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その日から。
たまにだけ。
誰かが誰かをコードネーム以外で呼ぶことがあった。
頻繁ではない。
特別な意味もない。
ただ、その瞬間だけ。
休憩室の時間が少し長くなる気がした。




