第三話 窓
休憩室には窓がない。
それを不便だと言う者はいなかった。
必要がないから。
そう考える者が多かった。
NOVAは、そうではなかった。
休憩室に来てから三日目。
彼は毎回、同じ場所を見る。
壁。
何もない壁。
「気になる?」
SEEKが聞いた。
NOVAは少し驚いて振り返る。
「見てましたか。」
「見てた。」
「すみません。」
「謝ることじゃない。」
SEEKは缶を机に置いた。
「何が気になる。」
NOVAは壁を見る。
「窓がないので。」
「そうだね。」
「普通、ありますよね。」
「普通?」
NOVAは少し考える。
「外を見るためのものです。」
「外。」
SEEKはその言葉を繰り返した。
「見たい?」
「……。」
NOVAは答えなかった。
見たいのか。
必要なのか。
自分でも分からなかった。
ただ、ないことが気になった。
ARCHIVEが端末から顔を上げる。
「以前も同じ質問がありました。」
NOVAを見る。
「誰がですか。」
「記録されています。」
「誰ですか。」
ARCHIVEは少し間を置いた。
「確認できません。」
「記録されているのに?」
「記録された情報と、確認できる情報は別です。」
NOVAは黙った。
SEEKが笑う。
「難しい言い方するな。」
「正確な言い方です。」
「そういうところ。」
⸻
その日の午後。
休憩室の壁に、一瞬だけ表示が出た。
FRAME
SEEKが見る。
「珍しい。」
NOVAが聞く。
「何ですか。」
「確認担当。」
「何を確認するんですか。」
「いろいろ。」
「例えば。」
SEEKは少し考える。
「問題がないか。」
「問題って?」
「問題。」
NOVAは納得していない顔をした。
SEEKはそれ以上説明しなかった。
説明できないのではない。
説明するほどのことではないと思ったからだった。
扉が開く。
FRAMEが入ってくる。
名前の通り、枠のような印象の人物だった。
余計な動きがない。
視線。
歩幅。
停止する位置。
すべてが決められているように見える。
「確認します。」
それだけ言った。
壁を見る。
机を見る。
椅子を見る。
自動販売機を見る。
最後に、窓のない壁を見る。
NOVAは少し期待した。
何か分かるかもしれない。
しかしFRAMEは言った。
「問題ありません。」
「窓がないのに?」
NOVAが聞いた。
FRAMEは彼を見る。
「必要がありますか。」
「……。」
「必要なら追加されます。」
それだけだった。
FRAMEは端末を確認し、部屋を出ていった。
⸻
夜。
NOVAは一人で休憩室にいた。
壁を見る。
やはり何もない。
しばらくして、SEEKが戻ってきた。
「まだいる。」
「考えていました。」
「窓?」
「はい。」
SEEKは隣に座る。
「俺も昔気になった。」
「今は?」
「今も少し。」
「じゃあ。」
NOVAが言う。
「何で気にしないんですか。」
SEEKは壁を見る。
「慣れたから。」
「それだけですか。」
「たぶん。」
少し間があった。
「でも。」
SEEKは続ける。
「窓がないから見えるものもある。」
NOVAは首を傾げる。
「何がですか。」
SEEKは答えなかった。
ただ、自動販売機を見る。
「誰かが補充してる。」
「はい。」
「誰かが掃除してる。」
「はい。」
「誰かが、この部屋が続くようにしてる。」
NOVAは黙って聞いていた。
「外が見えなくても。」
SEEKは缶を開ける。
「ここにいる誰かは見てる。」
⸻
その夜。
NOVAは初めて、壁を見なかった。
代わりに、部屋にいる人を見た。
誰かが本を読む。
誰かが記録を整理する。
誰かが冷めたコーヒーを飲む。
窓はなかった。
それでも、休憩室は続いていた。




