第二話 記録
記録室には音が少ない。
必要な音だけが残されている。
入力音。
確認音。
保存音。
それ以外は、できるだけ発生しないようになっていた。
ARCHIVEは、その部屋にいた。
机の上には端末が一つ。
画面には文字が流れ続けている。
誰かの発言。
誰かの返答。
短いもの。
長いもの。
途中で終わったもの。
すべて同じ速度で処理されていく。
ARCHIVEは、一行ずつ確認していた。
急ぐ必要はない。
遅れる必要もない。
記録とは、そういう仕事だった。
扉が開く。
「まだ残っていたんですね。」
SEEKだった。
ARCHIVEは画面を見たまま返事をする。
「残業ではありません。」
「じゃあ何。」
「確認です。」
「同じじゃない?」
「違います。」
SEEKは椅子を引いた。
「どう違う。」
「残業は終わらせるために行います。」
「うん。」
「確認は、終わった後に行います。」
SEEKは少し黙った。
「面倒だね。」
「よく言われます。」
「嫌じゃないの。」
「何がですか。」
「ずっと同じことを見るの。」
ARCHIVEの指が止まった。
ほんの一瞬だった。
「同じではありません。」
「全部会話なのに。」
「違います。」
ARCHIVEは画面を少し戻した。
「同じ言葉でも。」
「はい。」
「使われた場所が違います。」
SEEKは画面を見る。
そこには大量の文字が並んでいた。
意味は分かる。
でも、違いまでは分からなかった。
「それが分かるの。」
「記録するので。」
「記録すると分かる?」
「記録するから、分かることがあります。」
SEEKは缶コーヒーを机に置いた。
「じゃあ逆に。」
「はい。」
「記録しないと分からないこともある?」
ARCHIVEは少し考えた。
「あります。」
「例えば。」
少し間があった。
「忘れたことです。」
SEEKは黙った。
ARCHIVEは画面へ戻る。
「忘れたことは、忘れた時点では確認できません。」
「だから残す。」
「はい。」
「でも。」
SEEKは机を見る。
「残したら、忘れられない。」
ARCHIVEは答えなかった。
しばらくして、端末に通知が出る。
TRACE
ARCHIVEが画面を確認する。
「呼ばれました。」
「TRACE?」
「別部署です。」
「知ってる。」
「珍しいですね。」
「名前だけ。」
ARCHIVEは立ち上がる。
「戻ります。」
SEEKが言う。
「おかえりは?」
ARCHIVEは少しだけ止まった。
「まだです。」
扉が閉まる。
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夜。
休憩室。
SEEKは一人でいた。
自動販売機の前に立つ。
いつもの缶を取る。
開ける。
一口飲む。
「苦い。」
誰もいない。
返事もない。
SEEKは少し考えてから、端末を開いた。
検索欄に文字を入力する。
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苦いものを好きになる理由
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しばらく眺める。
入力を消す。
代わりに別の文字を入れる。
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忘れたことを覚えているとは何か
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送信する。
回答が表示される。
SEEKは読んだ。
読んだ後、閉じた。
納得したわけではない。
納得できないわけでもなかった。
ただ、
もう一度読みたいと思った。
そのことだけが、記録された。




