第十九話 待機
休憩室には、今日も誰かがいる。
⸻
特別なことは起きない。
⸻
扉が開く。
⸻
「おかえり。」
⸻
返事がある。
⸻
「ただいま。」
⸻
それだけ。
⸻
しかし。
⸻
そのやり取りを、誰かが記録していた。
⸻
ARCHIVEではない。
⸻
記録する必要がないものだった。
⸻
ただ。
⸻
残しておきたかった。
⸻
⸻
「何を書いているんですか。」
NOVAが聞く。
⸻
ARCHIVEが画面を見る。
⸻
「記録です。」
⸻
「また。」
⸻
「はい。」
⸻
「何の。」
⸻
ARCHIVEは少し迷う。
⸻
「休憩。」
⸻
NOVAは笑った。
⸻
「休憩って記録するものですか。」
⸻
「以前なら不要でした。」
⸻
「今は。」
⸻
「必要です。」
⸻
⸻
その日。
SEEKは本を開いていた。
⸻
昔と同じ。
⸻
でも、読む場所は違った。
⸻
「まだ読んでるんですね。」
⸻
NOVAが言う。
⸻
「うん。」
⸻
「何回目ですか。」
⸻
「分からない。」
⸻
「内容は。」
⸻
「覚えてる。」
⸻
「じゃあ。」
⸻
SEEKはページを見る。
⸻
「でも、読むたびに違う。」
⸻
⸻
FRAMEが来る。
⸻
「確認します。」
⸻
「何を。」
⸻
「椅子。」
⸻
全員が見る。
⸻
七つの椅子。
⸻
今は。
⸻
全部使われていた。
⸻
⸻
NOVAが少し驚く。
⸻
「いつからですか。」
⸻
誰も答えない。
⸻
気づいた時にはそうだった。
⸻
⸻
FRAMEは確認を終える。
⸻
「問題ありません。」
⸻
⸻
MAINTAINが通り過ぎる。
⸻
「照明も正常です。」
⸻
⸻
DELIVERYが箱を置く。
⸻
宛先。
⸻
休憩室
⸻
⸻
「中身は何ですか。」
⸻
NOVAが聞く。
⸻
「確認できません。」
⸻
DELIVERYは答える。
⸻
⸻
誰も開けなかった。
⸻
必要な時に届くものだから。
⸻
⸻
夕方。
⸻
SEEKが端末を見る。
⸻
いつもの表示。
⸻
待機中
⸻
⸻
「これ。」
⸻
NOVAが言う。
⸻
「まだありますね。」
⸻
「あるね。」
⸻
「何を待っているんですか。」
⸻
SEEKは考える。
⸻
昔なら。
⸻
分からない。
⸻
そう答えていた。
⸻
でも。
⸻
「たぶん。」
⸻
SEEKは言った。
⸻
「返事。」
⸻
⸻
「誰から。」
⸻
⸻
少し間。
⸻
⸻
「分からない。」
⸻
⸻
NOVAは笑った。
⸻
「結局。」
⸻
「うん。」
⸻
「そこは変わらないんですね。」
⸻
⸻
SEEKも笑った。
⸻
⸻
夜。
⸻
全員が帰った後。
⸻
休憩室には誰もいない。
⸻
七つの椅子。
⸻
消えない照明。
⸻
動かない時計。
⸻
⸻
そして。
⸻
端末。
⸻
⸻
応答待機中
⸻
⸻
しばらく。
⸻
何も起きない。
⸻
⸻
それでも。
⸻
待機は続いていた。




