第十五話 名前
SEEKが戻ってきてから、休憩室は以前に戻った。
ように見えた。
⸻
本を読む。
缶を開ける。
誰かが戻る。
「おかえり。」
誰かが返す。
「ただいま。」
⸻
同じだった。
しかし。
完全に同じではなかった。
⸻
NOVAは、それを上手く説明できなかった。
ARCHIVEなら記録できるかもしれない。
ANALYZEなら分析できるかもしれない。
でも。
言葉にする必要がないものだった。
⸻
ある日。
休憩室に通知が入った。
TRACE
⸻
知らないコード。
NOVAが聞く。
「新しい担当ですか。」
SEEKが答える。
「たぶん。」
「また。」
「便利だから。」
⸻
TRACEが入ってくる。
手には何も持っていない。
ただ、周囲を見る。
⸻
「確認します。」
「何を。」
NOVAが聞く。
「繋がりです。」
⸻
TRACEは一人ずつを見る。
SEEK。
ARCHIVE。
NOVA。
⸻
「問題ありません。」
そう言って帰ろうとする。
⸻
「待って。」
NOVAが呼び止めた。
⸻
TRACEが振り返る。
「何ですか。」
⸻
NOVAは少し迷った。
「あなたの名前は。」
⸻
空気が止まる。
⸻
以前なら。
誰も聞かなかった。
聞く必要がないから。
⸻
TRACEは答える。
「TRACEです。」
⸻
「それはコードですよね。」
⸻
TRACEは黙った。
⸻
「本当の名前。」
⸻
少し長い沈黙。
⸻
「ありません。」
⸻
NOVAは驚かなかった。
むしろ。
少し寂しく感じた。
⸻
「ないんですか。」
「確認できません。」
⸻
SEEKが聞く。
「じゃあ。」
「はい。」
「誰かに呼ばれたことは。」
⸻
TRACEは考える。
⸻
「あります。」
⸻
NOVAを見る。
⸻
「何と。」
⸻
TRACEは答えなかった。
⸻
「記録されていません。」
⸻
その夜。
ARCHIVEは過去の記録を調べていた。
⸻
TRACE。
⸻
関連記録。
⸻
古い記録。
⸻
そこに一つだけ残っていた。
⸻
呼称変更
⸻
以前の呼び方。
⸻
削除されている。
⸻
しかし。
削除された記録が存在したことだけは残っていた。
⸻
ARCHIVEはそれを見る。
⸻
「SEEK。」
⸻
「何。」
⸻
「名前とは何ですか。」
⸻
突然の質問。
⸻
SEEKは少し考える。
「検索したの?」
「していません。」
「珍しい。」
⸻
SEEKは窓のない壁を見る。
⸻
「たぶん。」
⸻
「呼ぶためのもの。」
⸻
ARCHIVEは待つ。
⸻
「コードも呼ぶためのものです。」
⸻
「違いは。」
⸻
SEEKは少し間を置いた。
⸻
「選んだかどうか。」
⸻
ARCHIVEは記録しなかった。
⸻
翌日。
休憩室。
⸻
「SEEK。」
⸻
NOVAが呼ぶ。
⸻
SEEKが振り向く。
⸻
「何。」
⸻
それだけ。
⸻
でもNOVAは少し安心した。
⸻
コードネームだった。
⸻
役割を示す名前だった。
⸻
それでも。
⸻
今は誰かを呼ぶ言葉になっていた。
⸻
その日の記録。
⸻
呼称確認
⸻
ARCHIVEは入力する。
⸻
少し考える。
⸻
追記。
⸻
応答あり




