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応答待機中  作者: MiSo
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第九話 保全

 休憩室の時計は動いていない。


 そもそも時計ではなかった。


 表示装置だった。


 時刻を示すためではなく、状態を示すためのもの。


 そのことを知っている者は少なかった。


 知る必要がないから。


⸻


 ある朝。


 休憩室の照明が一度だけ消えた。


 すぐに戻る。


 誰も騒がなかった。


「停電ですか。」


 NOVAが聞く。


 SEEKは缶を開けながら答えた。


「違う。」


「なぜ分かるんですか。」


「停電なら、自動販売機も止まる。」


 NOVAは自動販売機を見る。


 確かに動いていた。


「そこを見るんですね。」


「大事。」


⸻


 しばらくして、扉が開く。


 表示。


MAINTAIN


 知らないコードだった。


 NOVAが見る。


「保全?」


 SEEKが頷く。


「たぶん。」


「たぶん?」


「正式な呼び方は知らない。」


 MAINTAINが入ってくる。


 手には小さな工具箱。


 それだけだった。


⸻


「確認します。」


 MAINTAINは部屋を見る。


 照明。


 端末。


 椅子。


 自動販売機。


 最後に、壁を見る。


「問題があります。」


 NOVAが少し緊張する。


「何ですか。」


「照明。」


「さっき消えました。」


「はい。」


「直せますか。」


 MAINTAINは少し考える。


「直します。」


 その言葉に、NOVAは安心した。


 しかし。


「完全には戻りません。」


⸻


 NOVAは聞き返す。


「直すのに?」


 MAINTAINは工具を出す。


「壊れる前と、同じ状態にすること。」


 作業を始める。


「それを修復と言います。」


「はい。」


「保全は違います。」


⸻


 作業音だけが続く。


 小さな音。


 ネジを回す音。


 確認する音。


 記録する音。


⸻


「じゃあ。」


 NOVAが聞く。


「保全って何ですか。」


 MAINTAINは手を止めない。


「続けられる状態にすることです。」


「同じじゃないんですか。」


「違います。」


「なぜ。」


 少し間。


「時間が経つからです。」


⸻


 SEEKが聞いていた。


「つまり。」


「はい。」


「古くなることを前提にする。」


「はい。」


「壊れることも。」


「はい。」


「それでも使えるようにする。」


 MAINTAINは頷く。


「そうです。」


⸻


 作業が終わる。


 照明は正常に戻った。


 見た目は何も変わらない。


「終わりました。」


 MAINTAINが言う。


 NOVAは天井を見る。


「前と同じですか。」


 MAINTAINは答える。


「違います。」


「でも直った。」


「はい。」


「変ですね。」


 MAINTAINは工具をしまう。


「よく言われます。」


⸻


 帰り際。


 NOVAが聞いた。


「あなたの仕事って、大変ですか。」


 MAINTAINは少し考えた。


「壊れたものを見ることは多いです。」


「嫌じゃないんですか。」


「いいえ。」


「なぜ。」


 MAINTAINは休憩室を見る。


「壊れる前だけを知っているより。」


「はい。」


「壊れた後も知っている方が、長く使えます。」


⸻


 MAINTAINが出ていく。


 休憩室はいつもの状態に戻った。


 照明。


 机。


 椅子。


 自動販売機。


 変わったものはない。


 ただ。


 SEEKは少しだけ違和感を覚えた。


 いつもより、明るい気がした。


⸻


 夜。


 ARCHIVEはその日の記録を整理していた。


 項目を入力する。


照明 復旧


 少し考える。


 修正する。


照明 継続


⸻


 保存。

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