はるなのモノローグ
ぱっと舞台の照明が落ち、一条のスポットライトが中央の丸テーブルの上を静かに照らし出した。
そこに置かれているのは、生々しくへし折れた巨木の枝と、乾いた血と泥に汚れた毛布。
そして、それら戦場の遺物とはあまりにも不釣り合いな、小さく湯気を立てる素朴な湯呑み。
その傍らに、艶やかな黒髪を夜風に揺らしながら、背筋を美しく伸ばした一人の女性が静かに佇んでいた。
「皆さま、お疲れ様でございます。本日もこの拙話にお付き合いいただき、作者ともども本当にありがとうございます」
はるなは観客席に向けて、淑やかに一礼する。
しかし、彼女はふと何かを思い出したように動きを止めると、
「……あの、さっそくで不躾なのですが、一つだけよろしいでしょうか」
すっと両手で顔を覆い、指の隙間から覗く耳までを林檎のように真っ赤に染めて、身を縮めた。
「振り返ってみて、他チームの方々が何とスマートにこなしていたのか……我ながら恥ずかしくて、ほんとに……恥ずかしい////」
あの優雅な我が家へ帰り着いたミナトたちの平穏を思い、己の無様さを突きつけられたかのように身悶えする。
だが――次の瞬間、はるなは覆っていた手をゆっくりと下ろした。
その瞳は、先ほどまでの淑やかな少女のものとはおよそかけ離れた、冷たく、昏く、鋭く据わった戦士のそれに切り替わっていた。
「綺麗に隠蔽して、風のように戦う? ……そんな余裕、あるはずがありません」
声音から温度が消える。
「魔力は底を突き、暗闇の森そのものが敵。……生き残るためには、泥をすすってでも牙を立てるしかなかった」
はるなの手が、テーブルの上に置かれた、へし折れた巨木の枝を強く掴み、力を込める。
――ギリ、ギチリ、と硬質な木繊維が悲鳴を上げて軋む。
「あの最後の猿──。……『はるな』は、あの燃える岩猿を前に、ただの飢えた狼でした。作法も気品もすべて捨てて、ただただ、目の前の肉塊を打ち砕くことしか頭になかった……!」
その瞳に宿る、圧倒的な獣の闘志。
だが、自分の指の力で爆ぜかけた枝の音に、はるなはハッと我に返った。
握りつぶしかけていた枝からそっと手を離し、深く、胸の熱を吐き出すように息をつくと、そっと己の胸元に手を当てる。
「……失礼いたしました。……ですが、心から思うのです。南沢教官、さやかさん。二人が助かって、本当に、本当によかった」
安堵の吐息と共に、彼女の纏う空気がようやくいつもの少女のものへと戻っていく。
「さて……。懐かしい面々のお話を久しぶりに聞き、私も……少し、胸がいっぱいになってしまいました」
そっと目尻に浮かんだ涙を指先で押さえ、はるなは客席へ向けて、今度は静かに、深く頭を下げた。
そのまま、ぴたりと動きを止める。
――ガギィ、と重々しい音が響き、舞台の厚い幕がゆっくりと閉じられていく。
彼女の圧倒的な気迫に呑まれ、限界まで張り詰めていた客席の呼吸が、幕の閉鎖と共に、ようやく静かに、平穏なものへと戻っていった。




