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森林サバイバル最終日 炭と涙

(くそぉ……ッ)


カラヨドロスガパが完全に沈黙したゲート前で、ミナトは激しい内臓の痛みに耐えながら、心の中で毒づいていた。

視線の先には、先ほどの爆炎に飲まれたままぴくりとも動かない陽子とさやかの姿がある。


(さやか、陽子……! 痛い、全身の筋肉がまともに動かない。右腕の筋断裂は確定か……? いや、骨は辛うじて繋がっている。だが、指先に力が入らない。これじゃ、次の術式が紡げない……!)


ミナトは激痛に悲鳴を上げる右腕を左手で必死に押さえつけ、引きずるような足取りで歩き出した。一歩進むたびに口から血が溢れそうになるのを堪え、ただ一心に二人のもとへと向かう。


「ミナト!」

そこへ、息を切らせたニーコスが駆け寄ってきた。


「ぁ、ぁぁッ……!」

喉が焼け付いていて、まともな言葉にならない。ミナトは必死に掠れた声を絞り出し、痛む首を動かして、顎で陽子とさやかが倒れている方向を強く指し示した。

(俺のことはいい、あいつらを、早く――!)


────────────────


「っ、ランド、こっち!」

ミナトの意図を瞬時に察したニーコスが、ランドを伴って陽子とさやかの元へと猛然と走り出す。


「さやか! 陽子教官! 生きてる!? 返事して!」

ニーコスは二人の傍らに膝をつくと、即座に両手をかざした。限界まで絞り出された彼女の魔力が、夜の闇を払うように青く発光し始める。その柔らかな癒しの光が、重なり合って倒れる二人の身体を優しく包み込んでいく。


そこへ、泥と返り血にまみれた悠真が、足をもつれさせながらやってきた。

五日間の地獄をくぐり抜けてきた男の目は、二人の容態を見た瞬間に完全に据わった。


「どけ、ニーコス。――効率が悪い」

悠真は短く告げると、陽子とさやかの二人の凄惨な火傷の跡へ、躊躇なくその両手を直接添えた。


「――『発動系・火傷治癒(サーマル・リカバリー)』」


悠真の掌から、ニーコスの青とは異なる、暖かな淡い光が灯る。

カラヨドロスガパの狂暴な熱量によってドス黒く焦げ付いていた二人の皮膚が、その光の粒子に洗われ、凄まじい速度で瑞々しい生気を取り戻していく。細胞が急速に再生していく微かな音が、静寂に響く。


「が、はっ……」

術式を維持したまま、悠真がガクリと膝をついた。その顔からは完全に血の気が引き、土気色に変わっている。彼もまた、すでにとうに限界を超えていたのだ。


「続き……頼む……ッ」


腕の中の二人の呼吸が辛うじて繋がったのを見届け、悠真は絞り出すようにそう呟くと、糸が切れた人形のように、そのまま地面へと崩れ落ちて意識を失った。


◇


悠真が限界を迎えて倒れ伏す中、ミナトは泥にまみれ、文字通り地を這うような足取りで彼らの元へと辿り着いた。


ニーコスの癒しの光と悠真の決死の魔術によって、さやかと陽子の胸が微かに、しかし確かに規則正しく上下しているのが見える。

ミナトは血の混じった唾を吐き出し、未だに上手く回らない舌を強引に動かして、最前線に合流していたC班の朔太郎を見上げた。


「ひ、光、は……?」

掠れた、痛々しい声が夜の静寂にこぼれ落ちる。

「さやかと、陽子は……助かる、のか……?」


朔太郎は二人の脈を鋭く確認したあと、重い表情のまま静かに首を縦に振った。

「陽子さんとさやかは大丈夫だ。悠真の即応とニーコスの治癒が間に合った。呼吸も安定している」

だが、朔太郎は視線をゲートのさらに奥――あの、カラヨドロスガパが内部から大爆発させた巨大な岩の残骸へと向け、言葉を濁した。

「……だけど、光さんは分からない。あの爆発を至近距離で、それも無防備な状態で喰らいすぎた。僕の探知では、光さんの魔力を探知できない」


「っ――」

ミナトの息が止まる。

光教官が、あの圧倒的な強さを誇った男が、生死の境すら超越して消えてしまったかもしれない。その事実が、冷水のようにミナトの身体を打ち据えた。


「ミナト」


動揺するミナトの背後から、ニーコスがそっと痛む肩へと手を置いた。彼女の瞳にも深い疲労の色が滲んでいたが、その手からは、先ほどよりもさらに濃密な魔力が紡がれていく。

「貴方も早く治さないと。喉も、腕も、もうボロボロじゃない」


――ふんわりと、冷たくて心地よい青い光がミナトの身体を優しく包み込んでいく。

傷ついた喉の細胞が急速に融解し、繋ぎ合わされていく感覚と共に、肺の圧迫感が少しずつ和らいでいくのをミナトは感じていた。


「ミナト、痛いところはない? う、う……」

心なしか言葉を詰まらせるような話し方をしたニーコスが、堪えきれなくなったように、その大きな瞳からぽろぽろと涙を流し始めた。限界だったのは、戦っていた者たちだけではない。必死にみんなの命を繋ぎ、恐怖を押し殺してきた彼女もまた、限界だったのだ。


ニーコスの涙を見つめながらも、肉体の痛みが引いていくのと引き換えに、ミナトの胸の奥の焦燥感だけはどこまでも鋭く膨れ上がっていく。

ミナトは青い光の温もりに身を委ねながら、ただ、爆煙の消え去った不気味な暗闇の奥をじっと見つめていた。


「光……」


消え入りそうな声で、ミナトはそれだけを呟いた。その瞳には、倒すべき敵を討ち果たしてもなお、晴れることのない濃い陰りが満ちていた。

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