森林サバイバル最終日 爆炎の猿 カラヨドロスガパ
ミナトは一度、深く熱い息を吐き出した。
ミナトは虹色に光目を通して驚くべき光景を見ていた。
(……なんだ、あれは。ただの魔物じゃない)
視界の奥、暴れ狂う炎の周囲で、赤、緑、茶の不気味な魔力が異常な密度で絡み合っているのが見えた。
(火、風、土……三つの属性が完全に同期して渦を巻いている。光教官はあの巨躯を相手に必死に食い下がっている。だが、あれは、触れれば弾ける力の塊だ。あの密度ならここまでの広域破壊を単騎起こすことも頷ける。止め続けるのは、いくら光教官でも――限界がある!)
(強化だ、弱体化も、視線誘導、全部だ、誰がいる?ニーコス、ランド、居る)
防壁の裏にいる仲間へ向け、ミナトは即座に指示を出す。
「ニーコス! 風の術式で光教官の機動力を支援してくれ!」
「ん、わかった……っ!」
ニーコスが即座に跳躍し、風のパスを光の足元へと繋ぐ。
「ランド! 奴が撒き散らす飛来物のうち、風と火の弾幕を右腕で弾けるか!?」
「あったりめえだろ! 誰に向かって言ってやがる、任せとけ!!」
ランドが盾となる右腕を構え、咆哮とともに前に出る。
「俺は、さっきみたいに上空から降ってくる大岩(土)を狙い撃つ!」
役割は決まった。ミナトは間髪入れず、前線で膝をつきかけていた光へと向かって力強く右手を伸ばした。
「光教官、強化します――ッ!!」
ミナトの掌から放たれた鮮やかな緑色の光膜が、弾丸のような速度で光の身体を包み込んでいく。
衝撃を緩和し、肉体の駆動限界を強引に引き上げる強化術式。それをまとった光の金属鎧が、内側から爆発的な魔力を放って再び軋んだ。
◇
ミナトの放った緑の光膜が全身に馴染むのを感じ、光は口元に不敵な笑みを浮かべた。
「お、分かってるね。体の上限が二段階は上がったぞ!」
光は首の骨をボキリと鳴らし、得物を引き抜き直す。
「よっし――ミナト、ここからの全体の指揮はお前がしろ! 俺はお前の『手駒』になってやる!」
光は燃え盛る山腹の影を睨みつけ、鋭く吐き捨てた。
「あれは火風岩猿――『カラヨドロスガパ』だ。火・風・土の三属性を同時に操るが、根っこは単純な野生獣だ。搦め手はねえ、力押し一本! ただし、めっぽう硬いぞ! 全員、最大火力で押し切るぞ!」
そう言い残した次の瞬間、光の身体が弾け、火風岩猿へ向かって一直線に跳躍した。
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山腹の斜面では、二メートルを優に超える、全身に渦巻くように踊る炎岩を纏った巨猿が狂暴な咆哮を轟かせていた。
奴は燃え盛る両腕で地盤から巨大な岩塊を強引に引き剥がすと、それを軽々と持ち上げ、ゲート前へと次々と投げつけてくる。
ドッ、ドッ、と激しい音を立てて飛来する岩の雨。
光はニーコスが施した風の支援とミナトの肉体強化をフルに活かし、左右へと残像を残すほどのステップで飛び回りながら、確実に距離を詰めていく。
光が避けた岩が地面を激しく砕き、撒き散らされた火の粉が草木を焼き、衝撃と共に巻き起こる突風が砂塵を吹き荒れさせた。
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その混沌とする戦場を、ミナトは虹色の目通してみていた。
(――あの猿は、周囲の岩を弾薬(武器)にしている。光教官は完全に接近戦の間合いに入ろうとしている。教官が懐に潜り込みさえすれば、互角以上に戦えるはずだ。なら、まず、俺たちがすべきことは――奴の遠距離攻撃を封じ、やつの集中をそぎ、教官を打撃点に突入させることだ)
ミナトはすぐさま思考を具現化し、叫んだ。
「ランド!」
「おう!」
「足元に転がってる岩を拾え! 奴は岩を投げるとき、溜めが入る。そこを狙え、猿の頭を正確に狙い撃つんだ!」
「おう!、ぶちのめしてやる!!」
ランドは迎撃用に構えていた右腕を回し、地面に転がる数百キロはある岩塊を両腕で力任せに抱え上げた。
「ニーコス!」
「ん、なぁに!?」
「風の術式を指向性の加速器に変えろ! ランドが投げる岩の背後に、最大出力の風を叩き込んで超加速できるか!?」
ニーコスが長い耳をピンと立て、不敵に目を細める。
「――できる! 任せて!」
「頼む! ――狙え、合わせろ、……今だ、放てっ!!」
ミナトの指揮の咆哮と同時に、ランドの怪力によって投げ飛ばされた巨岩が、ニーコスの暴風を背に受けて音速を超える弾丸へと変貌した。
◇
ランドが吠え、地面から引き剥がしたばかりの巨岩を力任せに抱え上げる。
その岩の背後へ、ニーコスが瞬間最大出力の魔力を編み込んだ鋭利な暴風を「指向性推進器」として音を立てて集中させていく。
狙いは、光を睨み、近くの岩を持ち上げ投げつけようと咆哮する巨猿の頭部――。
「いっけぇぇぇえええ!!」
ランドの怒号とともに放たれた大岩は、ニーコスの風を背に受けて爆発的な加速を見せ、空気を引き裂きながら一直線に跳んだ。
――ドゴォン!!!
凄まじい衝撃音が山腹に響き渡る。
音速を超えた弾丸は、わずかに狙いこそずれたものの、火風岩猿の頑強な左肩へと容赦なく直撃した。肉と骨が軋む鈍い音が響き、さしもの巨躯が大きく右側へとよろめく。
「入ったァ!!」
ランドが拳を握りしめて叫ぶ。
「もう一回いくよ!」
ニーコスが間髪入れずに次の風を練り上げる。
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体勢を崩した猿は、岩の飛んできた方向を睨む。目が合ったランドが一瞬硬直する。しかし、そのよそ見を見逃さない奴がいた。
「――上出来だッ!!」
光の身体が文字通り弾丸となって飛び込んだ。
フレーム1
金属光沢を纏った人型が猿の燃え盛る岩にあたる。
フレーム2
猿の首が岩の方向に向く。
当たった銀色の塊と岩が猿の脇腹にめり込む。
フレーム3
猿の巨体が九の字に曲がり、銀色の塊から離れ始める。
銀色の塊が猿の体から逸れ始める。
フレーム4
猿の巨体が地面に触れる。
銀色の塊が地面に触れる。
フレーム5
猿の巨体が地面をへこませ、地面を割り後ろに流れていく。
銀色の塊が地面に刺さる。
フレーム6
猿の巨体がそのまま、地面を削りながら後方に流れていく。
ミナトの術式によって限界突破した身体能力。その全質量を乗せ、光は金属鎧に包まれた拳を思い切り振り抜いた。
――ドゴォンッ!!!
火風岩猿の硬質な脇腹へ、肉眼では捉えきれない重撃が突き刺さる。
凄まじい衝撃波が山肌を走り、二メートルを超える巨躯が今度は真横へと派手に吹き飛んだ。何本もの大木をへし折りながら斜面を転がる巨猿を見下ろし、光は拳を大きく引いて不敵に吠える。
「オラァ! 生徒ばっかりにいい格好させられるかってんだ、こっちにだって意地があるんだよ!」
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だが、災厄の獣はまだ死んでなどいなかった。
へし折られた木々の山を撥ね退け、ゆっくりと立ち上がった火風岩猿が、天を仰いで鼓膜を震わせる咆哮をあげる。
「――グルゥゥゥゥオオオオオオオオッ!!!」
次の瞬間、奴の全身を包んでいた赤黒い炎が、一気に燃え上がった。
ただの火ではない。周囲の風と土の魔力を強引に巻き込みながら、奴を中心に巨大な『炎の竜巻』が急速に膨れ上がり、四方八方へと熱波を撒き散らしながら広がっていく。
ゲート前一帯の草木が一瞬で炭化し、あまりの熱量に空気が歪む。
(まずい――ッ!!)
ミナトは、押し寄せる熱風を腕で遮っていた。
(光教官の強化だけじゃ、とても足りない。あの規模の熱量をまともに喰らえば、防壁ごと俺たち全員が焼き尽くされる……! あの炎は、ただの火力変化じゃない――!)
ミナトの目が次の手の構築のために激しく光を宿した。




