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森林サバイバル最終日 ゲート前 ― 帰還と爆炎

演習場出口、帰還ゲート前。

結界の境界線が淡く発光するその場所で、北川光と南沢陽子の二人の教官が、生徒たちの帰還を静かに待っていた。


静寂を破り、最初に森の奥から姿を現したのはA班だった。

足取りは乱れず、衣服の汚れも最小限。まるで今朝ロッジを出てきたかのようなその佇まいに、光は咥えタバコのまま目を細める。


「……綺麗だな。おいおい、本当に五日間のサバイバルをやってきたとは思えんぞ」


「ミナト君、あなた……」

陽子も驚きを隠せない様子で、歩み寄ってくる彼らを見つめた。「本当にすごいわね。この環境でこれだけの統率を維持するなんて」


「いえ……」

ミナトは少し照れくさそうに頭を掻き、仲間の顔を見回した。「俺一人じゃ何もできませんでした。みんなが信じて動いてくれたおかげです」


その言葉に、さやかとランドが誇らしげに胸を張り、ニーコスが嬉しそうに耳を揺らす。

陽子はそんな彼らの様子に安堵の笑みを浮かべつつも、教官としての鋭い視線に切り替えた。


「さやかちゃん、ランド君、ちょっとこっちにきてちょうだい」


「え? はい……」


「あなたたち、道中で感染症?にかかったでしょ?夜間のニーコスちゃんの動きと消毒運用の残滓で分かったわ。潜伏期があると厄介だから、先にそこの医療テントで確認させて」


さやかとランドは陽子に促され、ゲート脇のセーフティエリアへと歩き出す。

その背中を見送りながら、ミナトは張り詰めていた肩の力をようやく抜いた。

「……終わった。皆、無事に戻れたんだ……」


────────────────


その時だった――。


ズウウウウウウン!!! と、大地を底から揺らすような狂暴な地響きが轟いた。


「っなんだ!?」

ランドが反射的に振り返る。


直後、彼らが歩いてきた山腹の斜面から、凄まじい規模の火柱と爆風が巻き上がった。

爆発の衝撃波によって山肌が激しく剥ぎ取られ、巨大な岩塊が何十個も噴き上がる。それらは狂った弾道を描きながら、凄まじい質量を伴いゲート前へと降り注いだ。


「全員伏せろッ!!」

光の怒号が響く。


だが、あまりにも唐突な「死」の飛来に、肉体の硬直がわずかに勝った。


「あ……」

さやかが、上空から迫る影を見上げて小さく声を漏らす。


ドッ!!! という鈍く凄まじい衝撃音が響き渡った。

飛来した巨大な岩塊が、避ける間もなくさやかの身体を正面から直撃したのだ。


「さやかッ!!!」

ミナトの叫びが引き裂かれる。


ボキボキと生々しく嫌な破壊音が静かな朝の空気に響き、さやかの左腕と右足が、生物としてあり得ない不自然な方向へと激しく折れ曲がる。

受け流すこともできず、その華奢な身体はまるで千切れた人形のように地面へと無残に転がった。


鮮血が青々とした草地をまたたく間に汚していく。

たった今終わるはずだった演習場が、一瞬にして真の地獄へと変貌した。


◇


直後、さらなる岩塊の雨が容赦なく降り注ぐ。

「しまッ――!」

陽子と光がほぼ同時に鋭い呪詛を唱え、虚空に巨大な魔力防壁を展開した。


凄まじい質量を持った飛来物が防壁に激突し、火花を散らして次々と弾き返されていく。狂ったような破壊音の中、ランドの悲鳴のような絶叫がゲート前に響き渡った。


「さやか……!!」


叫び、駆けだそうとするランド。だが、その時にはすでに、誰よりも早くミナトの身体が弾かれたように走り出していた。


周囲の状況など目に入っていないかのように、ミナトは赤く染まった草地へ滑り込み、さやかの傍らへと激しく膝をつく。

折れ曲がった四肢の凄惨さに目を背けそうになるのを理性でねじ伏せ、ミナトは震える手でさやかの首筋へと指を当てた。脈を確かめながら、自身の耳を彼女の鼻元へと素早く寄せる。


さやかの瞼がピクピクと小さく痙攣している。

――生きてる。

肌を微かにかすめる呼吸の感触があった。だが、ショック死の一歩手前だ。このままでは痛みと恐怖だけで心臓が止まる。


「『発動系――痛覚緩和』!!」


ミナトの身体が淡く発光し、その魔力がさやかの全身を包み込んでいく。

それは傷口を塞ぐ治療ではない。骨を繋ぐ再生でもない。ただひたすらに、彼女の精神を焼き切ろうとしている狂暴な「激痛」だけを強引に和らげるためだけの、応急処置だった。


「水理湊(みずり みなと)!! そこをどきなさい!!」


自ら張った防壁の結界を飛び越え、陽子がすさまじい剣幕で走ってくる。

ミナトの肩を突き飛ばさんばかりの勢いでさやかの隣へ座り込むと、彼女は両手に即死回避の高度な治癒魔術を滾らせ、すぐさま負傷箇所へと押し当てた。


ミナトは陽子の顔を鋭く睨みつけてから、さやかの側を立ち上がった。

(くそ、何をしていたんだ、教官だろ! さやかを死なせてみろ、絶対に許さない……!)

ドクドクと心臓が波打ち、怒りで視界が赤く染まりかける。だが、ミナトは強く奥歯を噛みしめた。

(――違う、そうじゃない。落ち着け。何が起きた? 爆発か? 敵襲か!?)


怒りを強引に理性で抑え込み、ミナトの鋭い視線が煙の上がる山腹へと向けられる。


◇


「ぐっはっ……!?」


すさまじい金属音と衝撃波がゲート前に炸裂した。

金属鎧をその全身に纏ったはずの光が、まるで巨大な鉄球に弾かれたかのように、無残に地面を何回転も転がっていく。


「光さん!?」

ランドが信じられないものを見たように叫ぶ。


「……猿」

ニーコスの長い耳が激しく警戒の形に伏せられ、その瞳が恐怖と敵意に凍りついた。

「炎の……猿……!」


もうもうと立ち込める爆煙の向こうから、触れる度に草木を焼き焦がす、その燃える踊る岩を纏った猿は姿を現した。

ミナトはそちらに視線を向けながらも、背後の陽子へ向かって明瞭で抑揚のない声で問かけた。


「南沢陽子」


(出来るんだろうな、出来なければ――――)

「さやかは助かるのか?」

ミナトは振り返り、陽子を見据え言い直す。

「いや――お前の技術で、助けられるのか?」


治療術式を維持したまま、陽子がミナトを鋭く睨み返す。陽子の目はミナトの瞳をまっすぐとらえていた。そして、陽子は指一つ動かさず、治療術式は揺れることなく滑らかに機能させている。

「なめないで」

陽子は一歩も退かずに言い放つ。

「助ける。必ず。――だからあなたは、仲間と光の支援をして! あれは、あなたたちが油断していい相手じゃない。危険な奴よ!」


ミナトは、陽子の両手に滾る治癒の光と、さやかの微かな呼吸をもう一度だけ網膜に焼き付けた。


「南沢陽子。必ずだ」

ミナトは明瞭で抑揚のない声で言葉を重ねる。

「失敗は許されない。……さやかを、頼む」


「……行って!」

陽子の鋭い叱咤を背中に受けながら、ミナトは一転して、燃える山の中腹を視界にとらえる。その瞳は虹色の火をともし、炎を取り巻く場所の魔力を眺めていた。

一歩一歩と炎の熱気が渦巻く戦場へと歩を進める。


ミナトは燃え上がる山の中腹から現れた猿のようなものを見据える。

(必ず押さえる!だから、生きろさやか!)


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