積土成山:初めての盛り上がり ロボットのような二人の来襲
――朝。
カーテンの隙間から差し込む朝日は爽やかだ。
(なんて、気持ちのいい朝日だ、ただ、体に熱が残っている。昨日の死闘の代償だ……寝返りを打つのが怖い。起きれるかな、俺……)
寝返りを打った瞬間
(!!!~~!、やっぱきたッ、目が覚めるッ!!!)
(く、リーン、ミナトは昨日の戦いに死力を尽くした。もう、燃え尽きたよ……って、ほんとに体が熱いな、だがこれ、今日一日過ごすと、あの素晴らしい、力に満ちた感覚が来るんだ。よし、起きよう!)
ガタっ、トット、トットと躓きながら、ミナトは着替えて、宿舎の廊下を洗面台に向かって歩き出す。
――ギシ、ギシ……。
――ギギッ、ギシ……。
歯車かシャフトが折れたかのように、太腿と背中の筋肉が完全に機能を失っている。自重を支えるだけで精一杯といった様子で、ガクガクと震えながら、まるで壊れた人形のような動きでこちらに迫ってきていた。
「……み、ミナト……ッ!」
声をかけたのはランドだった。
膝を一切曲げない直立不動の姿勢のまま、一歩一歩、すり足で前進してきている。
(ランド、よく話せたな、俺なんか声を出そうとすると、腹の中が引きつるんだぞ)
「お、おはよ……ミナトくん……ッ!」
次に声を掛けたのは隣にはさやかだった。
彼女もまた、ロボットのようなぎこちない動きで、壁に手をつきながら摺り足で歩いている。
ミナトは足を止め、眉をひそめてから戻して息を吐いた。
「……歩き方、どうしたんだ。新手の呪いか?」
(あ、意外といけた……話せるぞ!)
「筋肉痛だよ!!」
ランドが、痛む胸筋を無理に張るようにして、悲壮感漂う大声を上げた。
「昨日のあの教官の地獄トレーニングのせいだよ!! 階段下りるだけで膝が笑うんだよ!!」
「脚が……棒……」
さやかは今にも泣き出しそうな涙目になりながらも、なんとかその場に踏ん張っている。
「でもね、ミナトくん……」
一呼吸。
さやかは痛みに耐えかねて歪んでいた顔を、ぱっと輝くような笑顔に変えて見上げた。
「今日、狩り行かない?」
「行こうぜ! 俺らだけでさ!」
ランドも、全身の痛みを気合だけでねじ伏せるように拳を握る。
ミナトは、ぽかんと口を開けた。
「……正気か? その筋肉痛で、まともに武器を振るえるわけないだろ」
「筋肉痛でも、狩り!!」
ランドが、勢いだけで押し切るように言い放つ。
「筋肉痛だからこそ、狩りだよ!!」
さやかも、一切引かずに同調した。
「……理屈になってない」
ミナトは小声で呟いた、その時だった。
背後の闇から、気配もなく、静かに白い影が滑り込んできた。
「主様」
リーンだ。
彼女はいつもと変わらない淡々とした様子で、ロボット化している二人を一瞥した。
「お二人は深刻な筋肉痛です。実戦におけるパフォーマンスは、平時の三割以下に低下していると推測されます。……ですが」
リーンはそこで言葉を区切り、ミナトをまっすぐに見つめた。
「主様が、行きたいとお望みになるのであれば――私は、どこへでも同行いたします」
その黒い瞳に見つめられ、ミナトは一度、ゆっくりと朝の冷たい空気を吸い込んだ。
全身は痛い。
昨日あれだけ走らされて、今日もまた身体を動かすなんて、普通に考えれば正気の沙汰じゃない。
(リーンとの狩りか、久しぶりだな、そうだ、うん。)
けれど――。
「……行く」
ミナトの口からこぼれたのは、迷いのない言葉だった。
「……いや。行きたい」
ミナトは呆れ顔のまま、少しだけ笑みが混じっていた。
その答えを聞いた瞬間、ロボットのように固まっていたはずの二人が、痛みを忘れたように飛び上がった。
「よっしゃあああ!!」
「やったあぁぁ!!」
嬉しそうに吠えるランドと、弾けるように笑うさやか。
朝の光が差し込む廊下に、彼らの若い歓声が響き渡る。
全身の痛みすら、これから始まる冒険の予感に変えてしまう。
俺たちの、不格好で、泥臭い『初めての狩り』が動き出そうとしていた。




