真誠自照:信じたい自分 震える手と仲間
だいぶ先まで書き溜めができたため本日は、20時10分も投稿いたします。
どうぞ1読、お楽しみください。※8月8日まで2回投稿を実施いたします。
よろしければ感想やポイントなど頂けるととても励みになります。
面談室は静かだった。
開け放たれた窓の外で風がゆるやかに揺れ、教頭のデスクに置かれた紙の端がかすかに音を立てる。その規則的な擦過音だけが、部屋の緊張感を静かに際立たせていた。
「……座れ、水理」
教官の淡々とした声に促され、ミナトは静かに椅子へと腰を下ろした。
教官は手元のクリップボードに視線を落とし、ミナトの提出したレポートに目を走らせる。
「レポート、読んだ。……“みんながみんならしく、仲良くいられるように魔法を使いたい”――か」
「……はい」
じっと見据える教官の目をミナトの目はまっすぐ見据えていた。
すっと、教官の目が細められた。
「お前の言葉は、綺麗だ。……だが、綺麗なだけでは済まないことを、お前はすでに知っているな?」
(う、そう、きれいにまとめた後に首を刺された。だから綺麗はちょっと嫌いだ。でも、綺麗なのか?俺の言葉……そうか、俺の特性、終結系は……守らないで壊す力だ、なのに、仲良くとか、誰だって皮肉に思うよな)
「……終わらせる力は、間違えればすべてを壊す力になる。それは……分かっています」
ミナトは小さく息を吸い、絞り出すように話す。
「ただ、何のために力を求めるのか、考えました。僕がここに来たのは、外の世界を知りたいと思ったからです。今もその思いは変わっていません。ですが……今、力を求めるのは、戻れることを考えるようになりました。戻って……ただいまと、おかえりをしたいって」
(――言った。言ってしまった。一瞬リーンの顔が頭に浮かんだ!昨日リーンのためとかって考えたせいだ、絶対だ、今日はリーンと口きかないぞ、くっそ恥ずかしい……。ああっ)
ミナトは、膝の上の両腕がかすかに震えていた。
(怖いのか……そうか。自分という人間の最も泥臭い根源を、他人の前にさらけ出すのは、こんなにも怖いことなんだ、リーンごめん……お前の主は怖がりだ)
「そうだ」
教官の口元が、予想に反して小さく吊り上がった。
「終結系は、ただ物事を“止める”だけじゃない。……“止めた結果の責任”までを背負う系統だ。だからこそ、ただいま、とおかえりか。くっくくく」
教官は喉の奥で愉快そうに笑いながら、ミナトのレポートを人差し指でトントンと軽く叩いた。
「いや、いいぞ、凄くいい。今までここへ来て歪んだ夢を語るいろんな奴を見てきたが、お前くらい気持ちいい奴もなかなか居なかった」
ひとしきり機嫌良さそうに笑った後、教官はふと笑みを収め、鋭い眼光をこちらへ向けた。
「……水理。お前が書いた“信じたい自分”は、嘘じゃない。だが――」
一拍の重い沈黙。
「その優しさは、時に致命的な“逃げ道”にもなる。これからの実戦において、誰かを守るために、別の誰かを切らねばならない場面が必ず来る」
「……はい」
「お前は“終わらせる”側の人間だ。その力は、社会が最も恐れる力でもある。……お前自身も、それを恐れているだろう?」
「……怖いです」
隠さずに認めた。
「間違えたら……二度と戻れないから」
「その怖さを忘れるな。だが、怖さに飲まれるな」
教官は俺の目をまっすぐに見据え、力強く頷いた。
「水理。お前はただ“終わらせる”だけの冷たい人間じゃない。“戻れる形”を自ら作る側の人間だ。……お前自身が言った『ただいま』と『おかえり』、まさにその覚悟を、私は高く評価している」
「……ありがとうございます」
張り詰めていた肩の力が、ほんの少しだけ抜けた。
「最後に、一つだけ問う。――お前は誰に向けて、このレポートを書いた?」
(リーンの問いかけ、そして廊下でのランドやさやかとの会話……でも、違う気もする)
「……多分、仲間に、です」
迷いを含む答え。
「ただ、まだ……仲間の顔が、上手く浮かびません。でも、もしこれから本当に仲間と呼べる人が出来たら、その人に僕が……どう在りたいかを、ちゃんと伝えたくて……」
「よし」
教官は満足そうにレポートをファイルへ閉じた。
「ならば、そのまま進め。そして、お前は……ふ、いや、これは余計な事か。それから――」
教官は席を立ち際、最後に釘を刺すように言った。
「“優しさ”は武器にも毒にもなる。使い方を間違えるなよ、水理」
「……はい」
ミナトは、一度返事をして、喉を鳴らし、少し震えながら疑問を口にした。
「教官。正直……俺には、仲間というものが、まだよく分からないんです」
「誰でも彼でも仲間だと言いださない分、そっちの方がずっと好感が持てるぞ、水理」
教官は振り返り、くっくっ、とまた不敵に笑った。
「私がな、『こいつらは仲間だ』と心の底から実感したのは、一緒に悲惨な現場から逃げ出したときだ」
「逃げた……ですか?」
「そうだ。とても生き抜くことが難しい過酷な現場でな、プライドも何もかも捨てて思わず逃げた。そいつらと一緒に、必死にな。その時以後、私はそいつらのことを仲間だと感じている」
教官はドアノブに手をかけ、最後に俺を一瞥する。
「これは、きわめて個人的な出来事だ。そして、多分……誰かを仲間だと実感するのは、そういう泥臭く個人的な出来事の積み重ねだ。正解なんてないさ」
「……はい。ありがとうございます。とどめ置きます」
教官が去った静かな面談室で、俺は一人、その言葉を反芻していた。
(集められたから仲間になるんじゃないのか……? 個人的な出来事……。仲間って、そういうものなのか?)
ベイルスレイブという組織に集められただけの関係から、本当の『仲間』へ。
その境界線がどこにあるのか、今の俺にはまだ、霧がかかったように見えていなかった。




