はるなのモノローグ
ぱっと光が落ち、丸テーブルの上が照らし出される。
そこに置かれているのは、一冊の古い本と、少しだけ色褪せた写真立て。そして、丁寧に細いリボンで括られた、手紙の束。
その傍らに静かに立つのは、艶やかな黒髪を夜の帳のように垂らした、背筋の通った一人の女性――。
「皆さま、お疲れ様でございます。本日もこの拙話にお付き合いいただき、本当にありがとうございました」
大人の落ち着きを払った彼女の声が、静まり返った空間に心地よく響く。
「さて……ミナトは大変な目に遭ってしまいましたね。まさか、お招きした講師の方に一瞬にして無力化されてしまうだなんて。完璧に理解したようなお顔をしておきながら、全くなさけな……あ、こほん。失礼いたしました」
彼女は小さく咳払いをし、愛おしそうにテーブルの写真立てへ指先を這わせた。
そこには、どこか遠くを見つめる銀髪の少年と、その横顔をじっと見つめる、まだ幼さの残る黒髪の少女の姿が映し出されている。
「あの頃の『私』は、どうしてもあの銀色の子の言うことが無視できませんでした。ぶっきらぼうで冷たいのに、なぜか……これから訪れる未来をすべて当てられているような、そんな奇妙な予感に囚われていたのを覚えています」
指先が、写真の中の銀髪にそっと触れる。
「剣を振るときも、泥臭く型をなぞるときも。汗にまみれて腕も足も満足に動かなくなってなお、私の頭の片隅には、いつもあの子の言葉が引っかかっていました。あの子の見ていた景色が、知りたくてたまらなかったのです」
彼女は愛用の手紙の束に一度だけ視線を落とし、それから客席へと、どこか悪戯っぽく、しかし真摯な瞳を向けた。
「さて、ここからの物語は、この剣と魔法の世界にふさわしく――いささか血と栄誉が混じるお話も増えてまいります。あの子の不器用な足掻きが、どのような波紋を広げていくのか。皆さまと共に、これからも良き旅ができることを切に願いながら」
――私は静かに頭を下げ、ぴたりと動きを止める。
舞台の幕がゆっくりと閉じ、張り詰めていた客席の呼吸が、ようやく静かな余韻へと戻っていきました。




