逃げる②
後ろからやって来るのは敵が味方か。
「馬を複数乗り潰して来た我々に奴らが追いつけるはずがない」
そうフレッドは言うけど…怖くて仕方がない。
「…大丈夫ですよ、菜那様。視認出来そうになる前に木の影に隠れますから」
フレッド、ありがとう!
安心したら涙が出て来ちゃった。
視認出来そうな"その時"は当然なんだけど私にとっては意外とすぐに来て素直に怖かった。
森の中の街道だから少し脇に逸れれば木が身体を隠してくれる。ただそれは小柄な人間だから出来ること。馬はなかなかそうはいかない。
だからフレッドは私を草むらに隠し、これからノーフォードの都へ行くみたいに偽装したんだけど…1人草むらに隠れていると怖くてガタガタ震えちゃう。
近付いて来たのは音から察するに大型の馬車?
「どうしたんだい?」
「ああ、馬がちょっと疲れたみたいでね。休憩していたんだ」
「そうかい、なら良かったよ」
「ノーフォードへ行こうと思うんだが仕事はありそうかい?」
「あー、あそこは今もひとつだね。不景気で商売にならない」
「そうか、ありがとう!じゃあ戻って仕事を探した方がいいな。もう少し休憩したら戻るよ」
「ああ、その方がいいな」
そのやり取りを聞いてホッとして腰が抜けちゃった…。菜那様、出て来ていいですよと言われても出られない!
結局フレッドに抱き抱えられて馬に乗せて貰い、ホッとして泣きながら進んだの。時々頭をぽんぽんと撫でてくれたから余計に泣いちゃって、フレッドはそれからは黙って見守ってくれた。ありがとう、フレッド。
「あと2時間も乗ればハミル領を抜けます」
と言った矢先に馬が立ち止まってしまって動かない!
「…限界か…」
私を落ち着かせる為だと思うんだけど、常にポーカーフェイスだったフレッドに焦りが見える。
「菜那様、どれくらい歩けますか?」
…歩くんだ?!
「えっと…最長は高校の時に歩いた30km…」
「高校?30キロ?」
ああ、フレッドにはわからないよね。
「17歳の時にちょっと早めに歩いて6時間位かかる距離が最長」
「…歩けますか?」
「歩きます!」
とにかく公爵領まで逃げ切らないと!
疲れたとかそんなひ弱なこと言ってらんない!
馬を置いてひたすら歩く。歩く。歩く。
ウォーキングシューズではないし、既に長時間馬に乗って内股やお尻は皮が剥けていて激痛だし、普通に歩くだけでかなりキツイ。
でも今はやるべき時!
むしろ私に合わせて歩くフレッドこそ自分のペースで歩けなくて辛いと思う。
ノーフォード辺境伯は優しい人だから多分追いかけないし、追いかけても緩く".追い掛ける体"で済ませると思う。だけど邸内にいたハミル辺境伯の手の者が私が居なくなったら本気で追い掛けるだろう。
とにかく早く歩かないと追っ手は馬だし、ハミル領だと途中の村で馬を交換出来るだろうし、追いつかれるかどうかはギリギリだと思う。
歩かねば!でも内股が擦れて痛い。
身体は悲鳴を上げている…。
「菜那様、後ろから馬が来ます」
「えっ⁈」
「隠れて!」




