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第24話 長官の冷酷な宣告

 国家繁栄省・特種婚姻局、通称『マリッジ局』の本部。

 無機質で冷たい白を基調とした氷室ひむろ長官の執務室で、私、ひいらぎ香澄かすみは絶望の淵に立たされていた。


天海あまみ春斗はると対象者の第一夫人選定ミッションにおいて、連続十一回のお見合い失敗。柊エージェント、あなたのデータ至上主義派を代表するホープという肩書きも、もはやただの不良債権ですね」


 氷室ひむろ登紀子ときこ長官は、デスクに座ったまま一切の感情を交えない声で言い放った。最新型のARグラスの奥で、冷徹な瞳が私を射抜いている。


「お待ちください、長官! 私がリストアップした候補者は、確かにデータ上は完璧でした。しかし、直前になってリストが何者かに書き換えられ、意図的に『地雷』と呼べるような問題のある候補者ばかりがあてがわれていたのです!」


 私は必死に反論した。

 重機マニアに、過剰母性の元オペレーター、炎上系インフルエンサーにトキシックゲーマー。

 いくらなんでも異常すぎると思っていた。独自に調査した結果、局内の腐敗派閥である【政略・縁故派】の幹部たちが、私のリストから優良な令嬢を横取りし、意図的にヤバい候補者ばかりを私に押し付けていたことが判明したのだ。


「彼らの不正な妨害工作です! 私は天海さんを……対象者を、あんな政略の道具にするわけにはいきません!」


 つい、春斗さんの顔が脳裏に浮かび、声が熱を帯びてしまう。エージェントとしての立場を超えて、彼を守りたいという個人的な感情が芽生え始めているのを、必死に押し殺す。


 しかし、氷室長官は微塵も動揺することなく、ただ冷たく鼻で笑った。


「妨害工作? それがどうしましたか。私たちが管理しているのは国家のインフラです。感情という不確定要素は、この美しいユートピアには不要なバグです。派閥争いを出し抜き、生き残った者こそが優秀なエージェントであり、それこそが私にとっての『最適なデータ』に他なりません」

「そんな……! では、長官は彼らの不正を知っていて黙認を!?」

「敗者に語る言葉はありません。直ちに『修正デバッグ』を実行しなさい。このままでは、あなたを天海春斗の専属担当から外しざるをえません。次の担当が決まるまで、あがいてみなさい」


 頭の中が真っ白になった。

 私のエージェントとしての自信は、音を立てて崩れ去った。プラチナ・シングル権の夢も、そして何より……もう二度と、あのゲーミングルームで春斗さんと笑い合うことができない。

 気づけば私は、逃げるようにマリッジ局を飛び出していた。


 +++


 百花繚乱閣ひゃっかりょうらんかくの最上階。

 重たい足取りで辿り着いたゲーミングルームの扉を開けると、そこにはいつもと変わらない、平和な空間が広がっていた。


「あ、香澄さん。遅かったね。今日のお見合い相手はどんなヤバい奴? もう何が来ても驚かない準備はできてるよ」


 コントローラーを手にした春斗さんが、振り返って冗談めかして笑う。

 その無邪気な笑顔を見た瞬間、私の中で張り詰めていた糸がプツンと切れた。


「……っ、うぅ……」

「えっ? か、香澄さん!? どうしたの、なんで泣いてるの!?」


 私は顔を両手で覆い、その場にしゃがみ込んでしまった。ポロポロと涙が溢れて止まらない。


「ごめんなさい、春斗さん……。私、もうすぐ、別の担当官に代わるかもしれません……」

「代わるって……どういうこと?」

「私のせいです……。私が無能なばかりに、局の派閥争いに負けて……春斗さんに、ヤバい候補者ばかり押し付けてしまって……」


 しゃくりあげながら、私は長官室での出来事をすべて打ち明けた。

 政略・縁故派の嫌がらせのこと。長官に見捨てられたこと。そして、次にやってくるエージェントは、間違いなく春斗さんを権力の道具として大企業の令嬢に売り渡すだろうということ。


「私のせいで、春斗さんの平穏な生活を壊してしまって……本当に、ごめんなさい……!」


 土下座でもする勢いで謝る私に対し、春斗さんは何も言わず、静かにコントローラーを床に置いた。

 そして、ゆっくりと私に近づき、しゃがみ込んで目線を合わせてくれた。


「……香澄さんが謝る必要なんて、どこにもないよ」


 その声は、いつもの飄々とした響きではなく、静かな、けれど確かな怒りを滲ませていた。


「俺はね、ゲームの邪魔をされるのも嫌いだけど、それ以上に……香澄さんを泣かせて、俺の平和なニート生活を理不尽に脅かす奴らは、絶対に許さないんだ」


 春斗さんはスッと立ち上がると、自室の専用端末に向かい、猛烈な勢いでタイピングを始めた。

「な、何をしているんですか……?」

「ちょっとね。俺一人じゃどうにもならないから、最強のチートキャラたちを召喚するのさ」


 画面には、天海家の女たちが集う、非公開の家族ネットワークが表示されていた。

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