34 恐怖のスピードボート
急いで領都マハ・コーリシャスへ行かなければならない。受付嬢ルーシャの提案により、スピードボートを利用することとなった。ルーシャとリムネはこの町で留守番だ。
オレは疑問に感じたことを口にした。
「だけどさあ。スピードボートって、ホッタール時でも平気なのか」
今回スピードボートに乗ることのないルーシャが、嬉しそうに説明する。
「あそこはおカネさえ出せば乗せてくれるわ。まあ、ホッタール時はかなり割増料金を吹っかけてくるけどね。とりあえずボートで川を走っていくことになるけど、陸上と違って川は封鎖されないから大丈夫よ♡」
眉間にシワを寄せるヘスナート。
「大丈夫ってなあ。ルーシャは乗らないからって……」
「じゃあ、ロフェイとミーンミアの二人だけに行ってもらおうよ」
「待て、リムネ。なんでさっきから俺を行かせたがらないんだよ」
「あんたが鈍感で馬鹿だからよ」
「理由になってないじゃん! 俺は絶対行くからな!」
封鎖された道を幾度も迂回し、ようやく船着場にやってきた。
結構賑わっていた。長距離馬車が運行停止のためだとか。それでもスピードボートはしっかり運行していた。
「ところでヘスナート。スピードボートって何がそんなに大変なんだ?」
「まあ、乗ればわかる。乗ってからのお楽しみだ」
まったく楽しみにならないのだが。
チケットを買うと、救命胴衣を着させられた。
救命胴衣……なんの意味があるんだろう?
ボートは細長いものだった。船尾に乗る操舵手を含めて十一人乗りらしい。
こんな小さなボートが十一人乗り? それがオレの感想だった。狭い空間に、乗客がギュウギュウに押し込まれるのだ。手荷物は許されなかった。だから留守番係のリムネに預かってもらうこととなった。
てか、これ無理だろ。それでも押し込められた。
乗客はオレたち以外にもいる。体が大きければ大きいほどキツい。足をどうにか折りたたんで座る。まるでカエルだ。ああ、足を伸ばしたい。しかもオレの体は、真後ろに乗ったヘスナートに圧迫されている。しかし巨漢の彼は誰よりも辛いはずだ。
くっ、苦しい……。
半日もじっとこんな恰好してろと?
ノンストップだからトイレ休憩ナシ?
我慢できなくなったら漏らせ?
最悪だ。
スピードボートの動力は川の流れと、蓄魔導石によるものらしい。
いよいよボートが発進。オレたちはリムネとルーシャに見送られた。
想像を絶する速さだった。馬でさえここまで速く走れまい。風が顔を叩きつけている。こんなの船じゃない!!
それより何より狭い! 狭い! 狭い!
体が痛い。足が痺れる。こんな無理すぎる姿勢で、いつまで乗っていなくちゃならないんだ?
ただ隣に座っているミーンミアをチラッと見たとき、目をひん剥きながら驚愕している顔が少し面白かった。いや、ごめん。笑っちゃいけなかった。きっとさっきまでは、オレもそんな顔だっただろうし。
水面からときどき顔を出している岩が恐怖だった。あんなのに衝突したら、このボートは木っ端微塵だ。いまのところは巧く避けられているけど、大丈夫なのか。操舵手の技量を信じていいんだよな?
まだまだ目的地はずっと先だ。到着までこの拷問に堪え続けなければならない。左岸は荒れ地。右岸は広大な『狭間の森』が続いている。ボートからの風景はほとんど変化がなかった。
「うわああああああああ」
後ろから変な声を出したのはヘスナートだ。
「どうしたんだ!」
「財布、川に落ちた」
「なんでこんなときに?」
「だってこのスピードだ。ポケットからズレて……」
どうせポケットの奥までしっかり忍ばせなかったのではないか? そうさ、ヘスナートが悪い!! 自業自得に決まってる。おっと、ごめん。体が彼に圧迫されていたせいで、知らぬ間にネガティブな感情を彼に抱いてしまったようだ。
ボートは激しく揺れ、スピードも一定ではない。ポケットから物が落ちても不思議はなかろう。
ザッブゥーーーーーーン
変な音がした。同時に体の圧迫感が和らいだ。
振り向くとヘスナートがいない。
いや、いた。
水面から顔と手を出している。
どうやらボートから振り落とされたらしい。
「ヘスナーーーーートォーーーーーー」
「ロォーーーーフェーーーーーーーイ」
乗客が振り落とされたくらいで、ボートは止まらない。構わずそのまま進んでいく。そういう契約なのだ。他にも乗客がいる。スピードボートを利用する人は、皆急いでいるのだ。
ああ、なんと不幸な。ヘスナートは体重オーバーだとかで、通常の二倍も料金を支払わされていたというのに……。
あとは任せてくれ、ヘスナート。町のギルド代表として頑張ってくるからな。
アディオス、アミーゴ。
ミーンミアとの二人旅となるわけか。久々だ。記憶が蘇る……あのときは死ぬかと思ったぜ。ベッサーリリィから逃げて、川に飛び込んだんだよな。
それにしても楽になったものだ。ヘスナートがいなくなったので、ほんの少しだけ足を伸ばせる。
「ミーンミア、気をつけるんだぞ。しっかり捕まっていないと、ヘスナートのように振り落とされるからな」
「わかりました、ロフェイ」
ボートが大きく揺れた。
ザッブゥーーーーーーン
今度はオレが振り落とされた。
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