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33 緊急事態


「だからね、ホッタールなのよ」


 いまギルドの建物の中にいる。

 皆、大騒ぎしているようだが……。

 はて、ホッタール?


「怖いわ、またホッタール」

「どうしましょ、ホッタールなんて」

「ホッタール! たいへんだ、たいへんだ」


 ホッタールってなんなんだよ? いったい、それの何が怖いんだ?

 ギルドの冒険者も受付嬢も、誰としてきちんと答えちゃくれない。


 ちょうどリムネとミーンミアがやってきた。

 さっそく訊いてみたが、返答はこうだった。


「ホッタールって、ホッタールのことに決まってるじゃない」

「そのホッタールがわからないんだ。大きな被害とか出るのか」


 おいおい。なんだよ、二人とも。

 そんな驚いた目で見ないでくれるだろうか。


「まずね、各所で道が通行止め。馬車はもちろんのこと、歩行だって途中で止められちゃう。そのせいだけとは限らないけど、多くの店は休業ね。必要なものは手に入らなくなる。たまに開いてる店があったとしても、足元見られてしまうから、価格がビックリするほど高騰するの。このカオスに便乗して大暴動だって起きるし」


 リムネは熱く語ってくれているが……。


「ええと、つまり?」

「業種を超えた大規模なストライキです」


 なんだ、初めからミーンミアに訊けばよかった。

 それにしてもストライキだったとは。ビックリさせないでほしかった。


「モンスター襲来ってことじゃないんだな?」

「ある意味、モンスター以上の恐怖ですね」


 さらにヘスナートもやってきて話に加わる。


「えっ、ロフェイ? ホッタールも知らなかったのか」

「仕方ありません。ロフェイは遠いところから来たのです」

「ロフェイの故郷って、そこまで田舎だったのかぁ」


 ギルドの建物にいた人々は、蜘蛛の子を散らすように帰っていった。ホッタールに乗じた騒乱に備えて、まもなく道路封鎖が始まるからだ。このギルド自体も例外ではない。数日間、クローズとなるそうだ。受付嬢たちも帰る準備にとりかかるのだった。


 オレたちもそれぞれ帰宅の途に就こうとしたときだった……。


「ちょっと待って」


 呼び止めてきたのは受付嬢ルーシャだ。

 皆が振り返る。


「用があるのはロフェイだけよ」


 するとリムネがオレの隣に立つ。じっとルーシャを見据えている。


「ケチくさっ。いいじゃない、なんの話?」

「リムネには関係ないんだけどなあ」


 怪訝そうに目をすがめるリムネ。


「あたしたち、ロフェイのパーティ仲間よ。それとも二人っきりじゃないとできない話?」


「もぉー、そういんじゃないんだけど。いいわ、あなたたちも聞いてって」


 リムネがミーンミアに笑顔を向ける。そしてミーンミアの手を取り、オレの方へと引き寄せた。


 ルーシャがゆっくりと口を開く。


「ロフェイにはね、マハ・コーリシャスへ行ってほしいの。コーリシャス伯爵領の領都よ」


 それを聞いたヘスナートが、目を丸くする。


「領都に? かなり遠いぞ。わざわざロフェイを行かせるってどういうことだ」


 えっ、遠いのか。そういうのは困る。

 いくら冒険者としての依頼だとしても……。


「そうだよ、何故オレが?」

「ロフェイが熟練者戦の優勝者だからよ」

「そんな話、オレは聞いてなかったぞ」


 ルーシャがぺこりと頭をさげる。


「ごめんなさい。まさか新人のロフェイが優勝するなんて思ってなかったの。だから、ちゃんと説明するのをすっかり忘れてたわ……」


 やれやれだ。ルーシャの話によればこういうことらしい。


 熟練者戦の優勝者は、町の冒険者ギルドの代表として、あるイベントに参加する義務があった。そのイベントには、コーリシャス伯爵領の各地から強豪冒険者が集まってくる。そこで彼らはエキシビションマッチを組まされ、それぞれの腕前を披露するというものだ。


 ただこれは単なるエキシビションマッチではないようだ。その勝敗には、各地ギルドの名誉がかかっているのだとか。つまりこの町のギルドの名誉のために、戦わされるわけだ。


「オレ、あんまりそういうのは……」


「だったら金貨二十枚は返却してね。準優勝者の、ええと誰だっけ、その人に要請するから」


「金貨二十枚を? いや、オレ行ってくる」


 話は決まった。しかし!!!!


 ルーシャの視線がカレンダーに止まった途端、彼女の体はガチガチに固まってしまった。震えているようでもある。


「どうかしたのか、ルーシャ」

「たいへんなの……」

「たいへんって?」


 ルーシャはこんなことを言いやがった。


「きょうよ! きょう!!! きょう中に領都マハ・コーリシャスのギルドへ行かなくちゃならないわ。締め切りがきょうだから!」


「きょうって。なんでルーシャはいつもいつも……」


「ごめんなさい、すぐ行って! 町のギルドの代表者として!!」


「準備とかあるし無理だ。マハなんちゃらなんて場所も行き方も知らないし」


「準備なんていいから早く! 行けばいいの、行けば!」


「無茶苦茶だな」


 とは言え、緊急事態なのは理解できた。

 ヘスナートが腕組みする。


「ロフェイがマハ・コーリシャスの場所を知らないとなると、俺たちも同行した方がいいだろう。旅は楽しい方がいいに決まってるしな」


 ふたたび話は決まりかけたが……。


 リムネがミーンミアの顔をチラ見する。

 小さな溜息のあと皆に告げた。


「あたし、お留守番してるわね」


 いっしょに来ないのか。ちょっと残念だ。

 するとヘスナートが彼女を責める。


「おいおい、リムネ。冷たいじゃないか。皆で行こうぜ」

「ヘスナートも今回はあたしとお留守番しない?」

「なんでだよ。ワケわかんねえ」

「いいからお留守番よ、お留守番!!」


 リムネの目つきが鋭くなる。

 ポカンとするヘスナート。


「仲間の優勝遠征だぜ? 俺は行くからな」

「ああ、もう、鈍いわねぇーーーー」

「な、何言ってんだ?」


 しばらく二人のやりとりが続いた。結局はリムネが折れ、彼女を除く三人で行くことになった。


 行き先はコーリシャス伯爵領の領都マハ・コーリシャス。そこのギルドだ。とにかく急がなくてはならない。


 しかし現在、ホッタールが始まろうとしており、馬車に乗ることができない状況だった。そもそも今回のホッタール騒ぎの発端は、乗合馬車の従事者組合が引き起こしたものだとか。


 リムネが自家用馬車を出すと言ってくれた。しかし屋敷へ行ってみると、彼女の父に猛反対されてしまった。ホッタール時に馬車なんか出せるものかと。ちなみにホッタールは町内だけではなく、伯爵領内全土の騒ぎらしい。


 だいたいリムネ邸に辿りつくまでにも、すでに各所で道が封鎖されており、かなり苦労してしまったのだ。


 さて、どうしよう。マハ・コーリシャスの場所を知らないため、ウインドで飛んでいくこともできない。いいや、仮に知っていたとしても、スタミナ的に飛んでいくなんて絶対無理だ。


 ここで、ある提案をする者がいた。

 何故かリムネ邸までくっついてきたルーシャだ。


「馬車がダメでも、『スピードボート』があるじゃない!」


 しかしヘスナートとミーンミアが眉根を寄せる。


「「えっ!」」


 なんだ、その反応は?



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