35 河岸でチラリ
ミーンミアたちを乗せたスピードボートが、遠ざかっていく。
「ミィーーーーンミアァーーーーーーーー」
「ロォーーーーーーフェエーーーーーイィ」
「ギルド代表のこと、託したぞぉーーーー」
オレは顔を川面から出し、さらに右手を振った。
スピードボートは先を急ぎ、間もなく見えなくなった。
ミーンミアとは離ればなれに。
でもどうしてこんなことに?
さっきの衝撃、すごかったな。
船底が水面下の岩にでも当たったのだろうか。
ん!? なんだ。
水中の巨大な黒い影。
細長いものが下を泳いでいる。
モンスターだな。てことは……。
犯人はてめぇーだったか!
よくもボートにぶつかってくれたな。
おかげて振り落とされちゃったじゃん。
ザバァーーーー
モンスターが水面から顔を出した。
鋭い歯がオレを襲ってくる。
ファイヤを見舞ってやるべきだったが、咄嗟のことだったのでミニファイヤを出してしまった。とは言っても、それなりに効果はあったようだ。顎に当てられたモンスターは、水中に逃げていった。
しかし諦めていないようだ。川底からふたたび襲ってくる。オレも泳ぎながら手を伸ばした。今度こそファイヤ……。
不発だった。
くっそ、水中だとファイヤは発動しないのか。
ならばエアーブレイド!!
コイツもかよ。やはり水中では発動しなかった。
水中ではウインドも出せないので、飛ぶのも無理だった。
火系も風系も水中では無力なようだ。
役に立つ魔法はなかったかぁ。
待てよ?
魔石、まだ二つ持ってたはずだ。
ポケットに、ほら。
…………?
ないぞ。ないっ。
スピードボート乗船中に落としたか?
あった。一つだけ残ってた!
でも片方の紛失は、もったいなかった。
たった一つとなったコイツに賭けよう。
ぎゅっと握りしめると光った。またもや成功だ。魔石が魔法の種となった。そしてさらに意識を集中。
パリーン
魔法の種が砕け散った。ほら、やっぱり成功したようだ。けど、オレ、なんで魔法習得の失敗が皆無なんだ?
手の先から魔法陣が出てきた。魔法に詳しい人ならば魔法陣を見ただけで、その魔法がわかるという。だがオレには魔法の知識なんてほとんどない。
これ、なんの魔法だろう?
極細の光が一直線に伸びた。
その光線の先はモンスターに。
攻撃魔法だったようだが、一撃で倒すほどの威力はなかった。モンスターの体が強靱だからなのか、あるいはこの魔法が弱小だからなのか、それとも水中という環境のせいか。
それでもモンスターは、この光線をかなり嫌がっているようすだ。大きく巨体をくねらせ、向きを変えた。しかし光線からは逃げられない。
時間はかかったが、やっと光の筋が巨体を貫いた。
動かなくなったモンスターが川底へと沈んでいく。
撃退に成功したオレは、岸へと泳いでいった。
あっ、しまった。こっち岸って『狭間の森』だっけ。
Uターンして反対岸へと向かった。
泳ぎ切り、岸に手をかける。
さて、陸地に這いあがろうとしたときだった。
目の前に人影……?
誰かがいる。オレを見おろしている。
しゃがんでいた。スカートの中がチラリ。
見なかったことにする。
胸元まで水に浸かったまま、さらに視線をあげる。
岸から見おろしている人物と目が合った。
若い女だったが、見た目の年齢はルーシャより少し下で、リムネより少し上ってところか。目はくりくりしているが、その視線はやや虚ろだった。ほんわかした感じの顔で、悪く言えばボーッとした感じだとも言えよう。
「人間……がいる?」
女が声を発した。
舌足らずでゆっくりとしたテンポ。トロい感じのしゃべり方だった。
「いたら、おかしいか?」
逆に聞き返した。
実のところオレは魔族だけどな。
女はブルブルと首を横に振った。
「川に住んでる?」
何を言ってやがる。
「なわきゃねえだろっ。川をくだってる途中でボートから落ちたんだ」
女が首をかしげる。
「ドジ?」
「……」
オレは無言で岸にあがった。
彼女の視線をじっと浴びながら。
「この川、ここら辺は危険。グラン・ギュスターブがいるから」
「グラン・ギュ……? なんだ、そりゃ」
「とっても怖いモンスターだよ。でっかいワニの」
ああ、なるほど。さっきのヤツか。
もうオレが倒しちゃったんだけど。
「そっか。今後は川に落ちないように気をつける。ところで、マハ・コーリシャスへの行き方ってわかるか?」
女はふたたび首を横に振った。
知らないのか。だったら用はない。
歩き去ろうとしたとき――。
「うちの集落に行けば、誰か知ってるかも」
「集落? この辺りにあるのか」
「あるよ。来る?」
何がなんでもマハ・コーリシャスへ行かなくてはならない。ミーンミアが一人で向かっているのだ。すぐに追いかけたい。だから集落へ行き、情報を聞き出さなければならない。
集落へ行くことになった。
奇妙な若い女に導かれて。
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