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20 初戦


 それにしても酷すぎる。


 新人なのに、熟練者と戦わなければならないなんて。すべてルーシャのせいだ。死んだら呪ってやるからな! まあ、すぐにギブアップするつもりだから死ぬことはないが。



「ふうん、あそこにいる男か」


 オレの対戦相手がいた。すらりとした長身の男だ。長い口髭がカールしている。目が合った。眉根を寄せながら、こっちに歩いてくる。


「キミがワタシの初戦の相手だとはね。まだ新人だと思っていたが」

「ああ、新人だ。でもその言い方、もしかしてオレを知ってたのか」

「知ってるさ。受付嬢ルーシャと親しそうに話してるのを、よく見かけるからね」


 どこかイライラした感じのする口調だった。


「親しそう? 家にあげたことはあるが、さほど親しくないと思うぞ」

「何ぃー、家にあげただと!! ち、ちなみにキミの冒険者等級は?」

「F級だ。まだ新人なんでな」


 はぁ、と溜息を吐く対戦相手。


「何故、あのルーシャがF級冒険者なんかの家にあがるとか……。それに、どうしてワタシがこんな新人とやり合わないとならない? ああ、不愉快! 確かに優勝賞金の金貨二十枚を狙う身としては、初戦がイージーなのは幸運だと言えよう。しかしこのトーナメントは、多くの者が見守る熟練者戦だ。質の高いバトルが期待されている。F級冒険者の参戦など、熟練者戦を穢す行為にほかならない!」


 話が長くて、あまり聞く気にはなれなかったが……。


 熟練者戦って、優勝賞金が金貨二十枚か!

 そこだけはしっかり聞かせてもらった。

 でもまあ、新人のオレが熟練者戦で優勝とか無理だよな。


 ただなんとなく、このままギブアップしてやるのがイヤになった。

 相手は熟練者なのだが、足掻いて足掻いて一矢報いたくなった。

 それはすべて、口髭男が『感じの悪いヤツ』だからだ。



 審判による合図――。

 いよいよ試合開始となった。


 さっそく対戦相手の口髭男が地面から離れる。


 あれは浮遊魔法だな。宙に浮くことが当たり前のように、平然と澄ました顔しやがって。くそっ、羨ま……憎たらしいヤツめ。


 一応、オレだって飛べないことはない。浮遊魔法や飛行魔法はなくとも、風系魔法のウインドを習得している。


 ジャンプしたのち、足裏に魔法陣を浮かびあがらせた。風系魔法ウインドの発動だ。下へと吹きだす強風で、体を上昇させる。


 もしかしてウインドでこんなことできるのって、オレだけだったりして。


 しかし……。


 バランスが難しい。微妙な風力の調整がまったくできないのだ。空中で静止なんて無理。魔法に集中しすぎればグングン上昇し、かといって気を緩めればたちまち落下してしまう。


 マズいっ、落ちる。


 地面に激突なんてイヤだ。魔法陣に魔力を込めた。オレの体が猛スピードで斜めに飛んでいく。勢い止まらず、そのまま口髭男に激突した。


「うわっ、この野郎!」


「おいおい。空中戦の最中なんだから、このくらいは避けてみせろよ。ちなみに、いまのはオレの攻撃だからな」


 実のところ、オレも結構痛かった。


 口髭男は熟練者らしく、なんとか持ちこたえた。依然として宙に浮いている。だが顔をしかめている。オレとの衝突、効いているようだ。


 口髭男の魔法攻撃が始まった。


 メガファイヤがオレを襲う。その他にも礫弾系魔法、爆発系魔法、球電系魔法を繰りだしてきた。どうにか逃げ切れてはいるが、このままだといつかやられてしまう。それならば……。


 オレはグングン上昇した。口髭男が追ってくる。しかしヤツは途中で止まってしまった。だから嘲笑を送ってやった。


「アンタの魔力じゃ、そこまでの高さが限界か?」

「何を! 新人のくせに生意気な!!」


 口髭男はふたたび高度をあげてきた。


 オレはさらに上昇していく。会場の観客たちは小さくなり、もうほとんど見えなくなった。なおも上昇し続ける。もはや周囲の山々よりも、遙かに高くなったようだ。ここは極寒の空。


 それでも口髭男は追いついてきた。


「お前は馬鹿か。こんな高くあがりやがって何が楽しい」

「はあ? もしかして高すぎて怖くなったのか」

「ふざけるな……。ハクションっ」


 上空の冷え込みに震えているようだ。あるいは本当に怖いのか。

 口髭男は手の魔法陣から、氷矢を連発してきた。


 オレはさらに高く上昇して身をかわし、あるいはグッと急下降で身をかわした。


 高度をあげておいたのは、このためだった。一気に急下降しても、地面激突まで時間に余裕がある。その間に体勢を整えればいいのだ。飛行が苦手なオレなりの、弱点克服方法だ。


 口髭男の攻撃はすべてかわしてやった。どんなもんだい! するとヤツの手から新たな魔法陣。そこから一筋の光が生じた。ヤツが作ったのは『光の槍』だった。


 オレも魔剣『エアーブレイド』で対抗すべきだろうか? いいや、相手に合わせることはない。ヤツの動きをもう少し観察してからでいい。しばらく様子を見ることにした。

 

「卑怯者め、逃げ回りやがって」


 追ってくる口髭男を、上下の移動で振り切る。


 でもまあ、そろそろ頃合いだろうか。

 光の槍とエアーブレイドの対決だ!


 さあ、行くぞ。

 ところが……。


 口髭男が高度をさげていく。握っていた光の槍はなくなっていた。空いた両手で頭を抱えている。


 まさか、何も知らなかったのか?


 これまでしばらくの間、周囲の山々より高い位置で戦っていた。そりゃ体が慣れてなければ、頭痛がしてくるだろう。吐き気もしてくるだろう。めまいもするかもしれない。


 オレの場合、魔法での飛行は確かに初心者だ。しかし鬼法でならば、かつて毎日のように空高く飛んでいた。体が上空に慣れているため、【高山病】にかかりにくい。どうやらヤツは地上戦と同じような感覚で、激しく動き回っていたのだろう。


 下方へと追っていくと、ヤツの姿が見えた。

 会場に着地し、嘔吐している。


 審判がオレの勝利を宣告。


 新人のオレが勝ってしまったようだ。

 完全に相手のミスによるものだが。



 観客たちが騒然としている。

 何が起きたのか、把握できていないようだ。


「あんな高いところで戦われたんじゃ、何も見えねえーよ」

「勝者となったヤツ、実はまだ新人だって噂だが、本当か」

「じゃあベテランが新人に負けたのか? 馬鹿な……」


 そう。口髭男が馬鹿だったのだ。

 別にオレの実力で勝ったわけじゃない。




 受付嬢がオレを控え室に連れていった。


「次の試合が始まるまで、ここで待機しててね」


 彼女はそう言って出ていった。

 入れ替わるように、誰かが駆け寄ってきた。


「ロフェイ、初戦突破おめでとう。奇跡を起こすなんてやるじゃないか!」

「熟練者戦での勝利、凄いなんてものじゃないわ。もうどうなってるの?」

「おめでとうございます。正直、驚きました。新人なのに勝ってしまうとは」


 振り返ってみれば、ヘスナート、リムネ、ミーンミアがいた。


 仲間でさえ、オレの勝利を予想していなかったようだ。オレ自身も勝てるなんて思ってなかったから当然だろう。それはそうと……。


「ここって、出場者の控え室じゃなかったんじゃ?」

「俺たち、ロフェイの関係者ってことで入らせてもらったんだ」


 関係者ねえ。


 しばらくして、また別の受付嬢がやってきた。


「あなたがロフェイよね? 二回戦の不戦勝が決まったわ。次の対戦予定だった相手だけど、初戦での負傷が酷くて病院へ行ったわ。回復魔法だけでは治らなかったの。てことで、次の対戦は準決勝。頑張ってね」


 トーナメント二回戦すなわち準々決勝は不戦勝。

 運だけで準決勝進出となった。


「すごいわ、すごいわ、すごいわ! 熟練者戦で準決勝進出なんて!!」


 リムネがオレの手を取り、とび跳ねながらはしゃいでいる。


 ここまであがってきたのは、オレの実力によるものじゃない。すべて相手の自滅だ。でもまあ、喜んでもらえて何よりだ。


 でもいいのだろうか。

 オレなんかが準決勝まで勝ち進んでしまって。


 まだちゃんと飛べないのに。



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